守望者 | あさひのブログ
「全民目撃」のフェイシン(非行)監督の他の作品を見てみた。

「守望者:罪悪迷途」(2011年 監督/非行 主演/任達華、陳思成)
104分

※日本語版はありません

この作品も監督自ら脚本を手掛けている。
「迷途」は迷路とか行く先を見失ったとかいう意味っぽい。

――志強、楚小莉、珍珍、胖子(※デブという意味のあだ名)の四人は大学のフィールドワーク兼小旅行で潘家鎮という田舎の山奥へやってきた。小莉の父の友人である黄氏の屋敷を訪れ泊めてもらおうと戸を叩くが、中から出て来たのは黄氏の親戚だという陳志輝という男で、黄一家は留守にしていると言われた。陳志輝は楚小莉が黄氏の友人の子と知ると皆を屋敷へ招き入れた。
黄氏の屋敷は古いが広く趣がある。胖子は中庭に大きな甕が三つ並んでいるのが気になった。その夜、胖子が中庭で甕を観察していると陳志輝がやってきた。彼の名字が閭氏だと知った陳志輝は、とある古そうな王冠を取り出して見せた。君の家は500年前にこの辺り一帯を治めていた王の血脈だと。そして胖子の後ろに回り王冠をゆっくりと被せた。あまりの偶然に驚きつつされるがままになる胖子。その時、陳志輝は彼の後頭部に一本の釘を打ち込んだ…!
翌朝、中庭の甕が四つに増えていることに誰も気づいてはいなかった――

[ここからネタバレ------
胖子の姿が見当たらず志強は不審に思うが、陳志輝が彼は今朝早く出掛けて行ったと言うので志強らは三人でフィールドワークへ出掛けた。だが珍珍が足を怪我をしてしまい一旦屋敷へ戻る。珍珍は恋人同士である志強と小莉に気を使って二人でフィールドワークへ行ってくるよう勧めた。留守番をする珍珍の元に陳志輝がやってきた…。
黄氏の屋敷へ戻ってきた二人。中庭の甕が五つになっている事には気づかない。珍珍の姿がなく陳志輝に問うが、彼は「心配ない、今夜には四人みんな一つの場所で会えるだろう。」と言う。

小莉は箪笥の下に仕掛けられていたねずみとりに足を挟まれてしまった。陳志輝はこのねずみとりには毒が塗られていたと言い、志強にすぐに隣村へ行って薬をもらって来いと言う。志強は慌てて飛び出していく。
残された小莉の元に陳志輝が王冠を持って現れた。楚氏は500年前にこの辺り一帯を治めていた王の血脈だ、と。王冠を彼女に被せ、そしてポケットから金槌を取り出す…だがそこへ志強が戻って来た!陳志輝の行動を不審に思っていた彼は途中で引き返してきたのだ。
志強は陳志輝を睨みつけ、珍珍と胖子をどこへやったと問い詰める。陳志輝は金槌を置くと、とある古そうな木製の盆を差し出す。この盆に描かれている絵に彼らの居場所のヒントがあると言うのだ。志強は盆を受け取る。とその時、陳志輝は盆の裏面に仕込んであったナイフを引き抜くと志強の腹を突き刺した!「君に恨みはないんだが、ここへ来たのが間違いだったんだよ…。」

小莉は胖子に電話をかける。するとその着信音が中庭の甕の中から聞こえて来る…。小莉は志強を探すが、志強は腹を刺され倒れていた。そこへ血に濡れたナイフを手にした陳志輝が現れた。彼は黄氏一家を殺害したことを明かす。黄氏の娘・黄秀麗は彼の恋人で、彼女を大学へ通わせるために彼は働いた金をすべて彼女の学費にした。だが秀麗は大学を卒業するとクラスメートと結婚した。裏切られた彼が秀麗を襲ったため逮捕され、殺人未遂で20年間投獄されていたのだ。釈放された今、彼は黄家で彼女が実家へ戻って来るその時を待っているのだ。
そんな理屈で殺されたくないと小莉は咄嗟に机の上にあった金槌を手にし逃げる。その時停電が起こった。暗闇の中でナイフを振り回す音だけが聞こえ小莉は恐怖に逃げ惑う。そして電気が点いたその時、小莉は丁度陳志輝の真後ろに立っていた…!小莉は思い切り金槌を振り下ろす!陳志輝は倒れ動かなくなった…。
警察がやって来て、怯える小莉を慰め志強を救急搬送する。甕の中から胖子らが発見された。だが彼らは殺されたのではなく失神しているだけだった。陳志輝は東洋医学を学んでおり正確に失神させるツボに釘を打っていたようだ。

潘家鎮の旅館にやってきた周棟は隣の部屋に泊まっている男と知り合いになった。男は黄錦正の家を探しているという。ちょうど仕事で黄錦正を訪ねるところだった周棟は一緒に行こうと誘うが、その男は黄錦正が存命なのかと、その住所を教えてくれれば改めて会いに行こうと思っていると言う。なんでも彼は20年来の古い友人なのだと言う。
周棟が黄家を訪ねると黄錦正の息子の黄浩が迎えてくれた。ちょうど今晩黄錦正の七十歳の誕生会が開かれるのでぜひ来てほしいと言われ周棟は快諾する。
旅館へ戻って来た周棟は男に一緒に誕生会へ出席しようと誘う。彼は黄錦正の娘が出席するのかと聞いてきた。彼女はアメリカに住んでいるので誕生会には間に合わないらしいと教えてやる。周棟はこの男がおそらく20年くらい投獄されてた重罪犯なんだろうと言い当てた。やっと出所してきて、ずっと想っていた黄氏の娘に真っ先に会いたいというそんなところだろうと。だが20年という月日は人を変える、今の彼女はあなたの期待する彼女ではない可能性が高いと忠告し、現代の女性の真の姿を見せてやろうと言う。
周棟は旅館の女将に近づき甘い言葉を囁く。二人はあっという間に仲良くなり情熱的なダンスを踊る。彼女にはもちろん夫がいるが、夫よりも何倍も高い給料を貰っている都会の男と見るや目の色を変えて誘いに乗って来る、これが女というものだと周棟はニヤリとして男に言う。得意げに言っているが、実は彼の妻もそうだったのだ。自分よりも金持ちの男と浮気して出ていったのだ、自分とまだ三歳の幼い娘も捨てて…!
男はもしその元妻に数十年ぶりに会ったら彼女を許せるかと聞く。周棟は許せるわけがないと机を叩きつけた。裏切ったその罪に対する罰を必ず受けるべきだ、それが公平な世の中だと。

黄錦正の誕生会が中庭で華々しく開催されている。周棟と共に会場へ入ったその男…陳志輝は、屋内に黄浩を呼び出し20年前の黄秀麗の裏切りを謝罪してほしいと言う。酔っぱらった黄浩はそんなことをする義務はないと言い、そもそも姉とあんたは釣り合わなかったんだと笑う。陳志輝はポケットから金槌を取り出す…。
陳志輝は動かなくなった黄浩をソファに寝かせた。中庭ではカラオケ大会が始まった。陳志輝は次に黄錦正を呼び出す。同じく動かなくなった彼をロッキングチェアに座らせた。宴もたけなわという頃、電話をとりに戻って来た黄錦正の妻の首を絞めた。
客は皆帰り、酔いつぶれて寝ていた周棟を抱えて陳志輝は旅館へ戻って来た。

翌日周棟と男は旅館を出る。周棟はこの男がどこかしら自分と似ているような親近感を感じていた。またいつか…街へ来たら電話してくれよ、周棟はそう言って男と別れた。
帰りのバスの中、地元住民らの話からあの男が黄錦正の娘の元恋人で彼女を殺そうとしたとして20年投獄されていた陳志輝だと知る。まさか彼は黄一家に復讐しに行くのでは!?周棟は急いでバスを降りヒッチハイクして黄家へ行くがいくら門を叩いても誰も出てこない。次に市場へ行き陳志輝の姿を探すが見当たらない。再度黄家へ向かおうと、通りがかった四人の大学生らしい若者が乗っているジープを止めた。周棟はこの先まで乗せて行って欲しいと頼むが、若者らは不審がり去っていってしまった。
周棟は結局数日かけて歩いて黄家へ向かった。と、対面から歩いてくる女性二人が話しているのが聞こえた。黄家に警察がいっぱい来てたけど、なんでも甕の中から沢山の人が出て来たらしい、みんな病院に運ばれて助かったらしいけど、一人の男性だけ死んだらしい、と。
周棟はやっと黄家へたどり着き門を叩き陳志輝の名を呼ぶが何の反応もなかった…。

話は少し前にさかのぼる。
刑務所から出てきた陳志輝は潘家鎮と孟楼へ向かう分かれ道の前で立ちすくんでいた。孟楼には彼のいとこが住んでおり身寄りのない彼はそこへ行くしかなかった。
振り返るとカフェがある。カフェで休んでいると、見知らぬ男から茶をご馳走された。堅気ではなさそうないかつい男だが、彼もかつて罪を犯して服役したことがありそのため出所して間もない者には親切にしてるのだと言う。男は、ここで間もなく事件が起こるが、ここで起こった事を見たままに警察に証言してほしいと言う。彼には不治の病に冒された娘がいるが、妻はその娘もほったらかしにして他の男と浮気していた。そして今彼は妻の浮気現場に乗り込むつもりなのだ…。
隣の個室から男と妻が口論する声が聞こえて来た。陳志輝はそれを20年前の自分と黄秀麗に重ね合わせる。そして立ち上がるとカフェを出て行った。分かれ道の前で陳志輝はまた立ち止まる。孟楼にはいとこが住んでいる。だが潘家鎮には黄家がある…。

同じ日の夕刻、孟楼のとある老夫婦は夕食を準備して客人が来るのを待っていた。陳志輝はきっと訪ねて来る、だって彼にはここ以外に行き場はないのだから。家族が増えるときっと楽しくなるわね、と老夫婦は顔をほころばせる。(終)
-----ここまで]

おどろおどろしい音楽、薄暗い部屋、黒猫、停電といったベタベタなホラー演出で始まるが、しかしこの作品はホラーではないのだ!れっきとしたミステリ…と思わせておいてそれもまた違うのだ!
四人の大学生が田舎の古い屋敷に招かれるが、あやしい雰囲気の地元住民、次々と起こる怪奇現象…というまるで「金田一少年の事件簿」みたいな導入部。その後、やたら軽薄だけど鋭い勘を持つ男が登場、彼が金田一少年のように事件を解明していく…のかと思わせといてそうでもない。彼が事件を解明し犯人を追及することはないが犯人の動機を明かす手助けをする。最終的にはこの作品は犯人の男の心の葛藤と推移を描く物語、ヒューマンドラマとなっているのだ。

「全民目撃」でも時間を巻き戻して真相を明かすという構成がとられていたけど本作でも同様に、終盤時間を巻き戻し犯人視点からその動機が明かされる。猟奇殺人だと思われた事件は、犯人の男にその決断をさせるまでに何重もの"背中を押される"きっかけがあった。そのきっかけというのがほんのささいな言葉であったり身の回りの出来事ひとつであったりで、それらが積み重なり導いた結果を考えると恐ろしくなる…序盤はホラー演出で視覚的に恐ろしく、最後まで見た後は心理的な恐ろしさを招くという意味では、本作はたしかにホラー映画かもしれない。
台詞の力というのも大きくて、同じ台詞が別々の人物によって幾度も繰り返される。言う人物によって言葉は同じでもその意味合いが変わってくるという巧妙な演出。素晴らしいの一言に尽きる。非常に効果的でよく練られた脚本。やっぱりこの監督凄い!

ただキャスティングが極端だったなというのが残念ポイント。主役のサイモン・ヤム(任達華)と準主役のチェン・スーチェン(陳思成/陳思誠)、あと終盤出て来るウェイズ(巍子)の三人以外はまぁTVドラマ的な安っぽいお芝居で。特に導入部の大学生を演じる子達が安っぽくて、ここだけでも金掛けて実力派勢で揃えるべきだったと思う。
サイモン・ヤムは最初から浮いてしまうほどの明らかにただ者ではない存在感で唸ってしまうし、チェン・スーチェンは彼本当にハンサムガイなのにこのチャラぁいキャラクター、なんか腹立つんだけど魅力的であることは確か。ウェイズさんはチョイ役なのにこの説得力、という凄みのあるお芝居で心を奪われる。ヒロイン役のチャン・ジンチュ(張静初)は物語上あんまり重要じゃない役だしセクシー要員としてばっちり決めてて良かった。お芝居自体はビミョーだったけど…ニヒヒ

タイトルの守望者は、これだけは絶対にこうしたい、という信念を持つ者という意味合いのようだ。終盤にある男が逸話を話す。アルコール中毒の親父にこれ以上飲んだら死ぬぞと言ったところ、親父は「酒が飲めなかったら生きてる意味がない」と答えたと。この親父もまた守望者なのだ。その人にとって最も大切なもの、それは金塊でも命でもないことがあるのだ…。