張儀は豪商イー・ウェイが経営している高級ホテル・ジンシェン居で斉国の名士チェン・ジェンを発見し、強引にも萱蘇客棧に連れて行って蘇萱らにもてなしをさせた。イー・ウェイは相国閣下が萱蘇客棧のような安宿を贔屓にするのは似つかわしくないと言い、蘇萱の事が気にかかるならちゃんと結婚して養ってやれと言うのだった。
そして数日後、張儀は萱蘇客棧にやってきた。
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天佑:相国さま、おかみさんなら奥ですよ。案内します。
張儀:いらん。来なくていい。忙しいだろう。
天佑:…毎回へりくだってみせてもいい顔しないんだから。
(奥の部屋で蘇萱は何か帳簿をつけているようだ)
張儀:蘇萱ちゃん。
蘇萱:相国さん、チェン・ジェンさまの分のお勘定に来てくれたの。
張儀:君は勘定のこと以外書き留められないのかよー。
蘇萱:書き留めとくことはたくさんあるわ。この数日は相国さん、あんたの事を書いてるの。
張儀:へぇぇ、おれの事を何て?
蘇萱:相国さまの国政の重要な事案(※1)について書き留めてるのよ。
張儀:それは書いちゃダメだ。
蘇萱:本当に書いたら罪に問われるわ。ねぇなんで将王の式典(※2)は龍門でやるのよ、シェンヤン城の方が良いのに。龍門なんて遠くて、誰が行くっていうのよ。
張儀:あ、わかったぞ。もしシェンヤンでやれば沢山客が入ってがっつり儲かるのに、そうだろ。
蘇萱:そうよ。見てよ、今人はみんな龍門へ行っちゃったからシェンヤン城は閑散としてるわ。
張儀:いや、おれと一緒に(龍門へ)行こう。その大場面を見ようじゃないか。
蘇萱:そんな暇はないわ。
張儀:その頃はシェンヤン城は空っぽだよ。活気もないのに、なんで営業し続けようとするんだ。
蘇萱:あんたに関係ある?
張儀:関係ありたいんだよ…。
蘇萱:な、何言ってるのよ。
張儀:…おれは、おれが本当に言いたかったのは、君には軽薄な奴だと思われたくないって事で。おれの気持ちは…
蘇萱:待って!言わないで。
張儀:どうして。
蘇萱:あ、あたしはまだ、どうしたらいいかわかんなくて。
張儀:何を考える事があるんだ!これから君の仕事はおれに任せてくれ。頭を使うことも体を張ることもみんな、おれが君の代わりにやるから。
蘇萱:あなたが、どうやって。
張儀:どうやって?おれは陛下に代わって秦国を動かしてるんだ、こんなちっぽけな萱蘇客棧くらい…あ、いやそういう意味では。
蘇萱:ふーん、そういう意味じゃないのね。
張儀:いや実際のところ、龍門の大典が無事終わったらおれはまた功名を建てることになるだろう。そしたらある大きな事をしようと思う。
……なんで大きな事って何って訊いてくれないんだよ。
蘇萱:言いたいことがあるなら王典が終わってから言えば。
張儀:いいところで止めるなよ、君もちょっとはノッてくれよー。
蘇萱:忙しいの、暇じゃないのよ!
※1 この店で張儀とチェン・ジェンが交わしていた内密の話を指す。
※2 秦公が「秦王」を名乗るための式典。「龍門の大典」「王典」も同一のイベントを指す。
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