新法が施行されたその年の夏、大規模な私闘が起こり大量の死者と千人もの逮捕者が出た。新法に照らせば私闘を起こし殺人を犯した者は死刑。だが一度に七百人余りも死刑にするなど前代未聞のことだ。法律通り刑を執行することを主張する衛鞅(エイ・オウ)。孝公は納得できず口論となる。
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「左庶長よ、秦国にはもちろん法治が必要だ、だが秦国を乱してはならぬ。」
「(刑を執行しても秦国を)乱さないどころか、しっかり治められます。」
「お前が(秦国の慣習を)金づちを振り下ろしてたたき壊しても、秦国はこの破壊(ダメージ)に持ちこたえられると?」
「君上(陛下)は考え違いをされている。ちょうど今この戦乱の世に秦国があるために、徹底した変法(改革)の揺るぎにも耐えられるのです。」
「お前は瓶(→秦国の比喩)を落として叩き壊すつもりか。」
「…天下の争いは連綿と続いてます。どの国の変法も、戦時中に施行される法の重要な点は、すなわち国民の心を集めることです。法で人(の心)が得られねば、民衆は他国へ逃げ、変法による強国作りは水に映る月(→実体のないもの、幻)となります。したがって列国の改革はみな大変に慎重で、多くが官吏を粛清して治めることを改革の軸とします。不正官吏を罰して治めることは民心を得やすいですから。」

「秦国はそのようにはできないというのか?」
「秦国がそのようにできても、秦国はそのようにしてはいけません。」
「わからぬ!」
「秦国がそのようにすることは、山東の六国の真似をして追随することで、朝野にも阻止(反対)する勢力はありません。(しかし)秦国はそのようにしてはならず、(もし)そうしては強国にはなれません。秦国の行く道は、ただ変法を徹底していくことだけです。変法を徹底する最も重要で難しい事は、すなわち法制度実施の第一回目の波乱を受け入れることです。この揺らぎを乗り越えねば、秦人は法が何の為にあるのかを知りえません。」
「お前はまだわからないのか?秦国がこの瓶(慣習)を壊して、持ちこたえられはしない。お前の考えでは耐えうると。いいだろう、ではお前はどうやって耐えられると言うのだ?」

「君上が国を憂いすぎると、当事者が迷います。」
「お前は迷っておらぬ。」
「迷いません!臣(わたくし)は秦国を遍歴し秦人を訪ね歩き、秦国(秦人)の情、民の心を知りました。秦人は物事の理をよくわかっており、秦人は分別をわきまえてます。本当の強大な故国にするための民衆の法律や国策に、彼らは非常に強い識別能力を持っています。国を治めることとは、貴族が(力を持って)主になることを断ち(※)、官吏が強大になることを断ち、君主が亡くなるのを断つこと。もし民衆全てが良し悪しの判断ができれば、国家は必ず強くなり、もし君王が一人で物事の良し悪しを決めれば、その国は必ず衰退します。
この夏は私闘があふれ、わたくしは千人余りの拘束を断行しましたが、秦国に反乱は起こらなかった。その理由はどこにあるか?それは民衆の心。偉大なる秦の善良な庶民の本当の"法を求め法を守る心"にあります。この心があるだけで、秦国は(改革の)揺らぎにも耐えられます。秦国の変法には希望があるのです。」
※日本語字幕から察するに、"家"は貴族の家柄を指すようだ。
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実際はもっと細かく鷹揚ついてるけど特に強調されてる言葉を太字にしてます。「不(=not)」がやはり強く言うことが多いみたい。
「君上憂国過甚、当事者迷」というのは、「あなたが心配しすぎると当事者(国民・臣下)がどうしていいかと戸惑います」のように見えるが、裏を返せば「あなたは当事者を信じてない(弱いと思っている)から心配なのだ、当事者はむしろしっかりしている」という意味。もっと国民を信頼して下さいと言ってるらしい。君主に直接的・命令的な表現は言えないから…。
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