「大秦帝国(第一部/黒色裂変)」第十六集、17分あたりから。
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「先生と秦国には(これまで)深い関わりがあった(※)、今日わたしは率直にお話ししたい。当初先生のその言動は、かつて幾度も人を刮目させ顔を見合わせさせた(驚くべきものだった)。しかし先生が自ら秦にやって来た後の三度話された二つの政治道は、我が国の実情に合っておらず、また(この乱世の)時勢にも合っておらぬ。わたしは実際のところ(その政治道を)受け入れることはできぬ。しかしどうであれ、先生は秦の地に深く入り実情を調査し、その辛苦は卓絶するものだった、(その事は)実際多くの人を感動させた。先生の博学さは計画(国の政務)において長じるところだろう。わたしは先生に太守の職を任せ、国政に参加していただきたい。先生、引き受けてはくれまいか?」
「…関中の土地は平坦で肥沃な平野が千里にわたり、世界でも並ぶところはない。だが何ゆえ秦はこの数百年、むしろ土地は荒れ放題で収穫は少なく人家はまばらで少ないのか。渭水は蕩々として(広がり)秦に(他から攻め込まれる)危険を無くし、天から賜った佳き水と言える。だが何ゆえ秦は渭水のたもとに数百年ありながら、魚や塩を船で運ぶ利点を失したまま、国庫の財貨は日に日に空になってゆくのか。秦人は大変に素朴で実直であり、さらに勇ましい風潮は朝野に深く根付いている。だが何ゆえ秦国には一丸となって攻め(困難を)必ず克服し、戦で必ず勝つ強大な新軍がないのか。」
「先生の言う事は、まさに君上(陛下)が日夜お考えの事ではないですか。」
※衛オウはかつて秦に救国の策を献じた。

「豊富な土壌を守りながら貧窮し、強悍な民を囲いながら兵は弱く、山川を据え勝てる(自然の)形勢を持ちながら(戦に)負けて喪失する。これは総合的に一つにまとまった強大な国力がないからです。総合的国力とは何か?人口が多く、農工が栄え、国庫は満ちあふれ、騎兵は強く勢いがあり、民は勇ましく(外国との)戦に臨む。この五つがそろってこそ、強国と言えるのです。そして目下秦国は、五のうちの一つもない。土地は小さく民は少なく、農工は不振、国庫は空っぽ、武具も兵も老いて古び、私闘の風潮(※)がある。」
「しかるにどうするというのだ?(古代の)王道、(儒家の説く)仁政、それとも(老子の説く)無為だというのか?」
「君上、君上はよくお解りです。その三つの政治道は当てにならない話で全て時代遅れです。」
「わたしに先生の新しい論説をお聞かせ願いたい。」
「強国の政治道、それはすなわち法家の精密で道義的な教えです。前述の三道とは天と地ほど違います。法家の(説く)強国は、国家の実力を増大させ、朝野の士気を激し高めることを第一とします。」
※揉め事が起こった時に警察のような公的機関に任せず決闘など暴力で解決しようとする風潮。秦国が山東諸国から野蛮だと思われている要因の一つである。

「わたしは強国の道についてお聞きしたい。」
「強国の方式(強国になる方法、方針)はみな同じではありません。魏・斉・楚の三強国の方式は、君上はどう思われますか?」
「強国の方式はみな同じではない…考えたこともなかった。先生教えて頂きたい。」
「魏国の方式は、武力と財力を元にした強さ。斉国の方式は、聡明な君主と官吏がよく治めることによる強さ。楚国の方式は、山河が広く長く広がっている(地の利を生かした)強さ。そしてこの三強国は、皆根本的な強さではなく、見習うには充分ではありません。」
「魏・斉・楚の三国の強さも、まだ見習うには足りぬというのか。」
「三国が見習うに充分でない原因は、ただ一時の強さであって長く続く強さではないからです。聡明な君主の時は強いが、並みの君主になると弱くなり、暗愚な君主になれば滅びる。根本の原因は、三国の変法(改革)は中途半端だということです。法律は半分新しく半分は古いまま、"法治"とは名ばかりで実際は"人治"です。このような国は起伏振蕩が定まらず、長期にわたり国力を集めそして強大であり続けることはとてもできない。秦国が興すべきは、根本的に強くなる道を進むことです。」
「…先生はついに本来の才覚を現したな。さあ、乾杯しよう!」

「この国には公(あなた)のような聡明な君主がおられる、秦国は必ず立ち上がり進めるでしょう。」
「(はじめに)立ち上がり一歩進むことが最も難しい。わたしは管仲が復活してくれればと切に思うのだよ。」
「この広い中つ国にはその時代その時代に才能ある者がおります、強国がどうして時代を借りて(選んで)生まれるでしょうか。(※)」
「管仲の強国斉(の勢い)は半代続いたが、先生の強国秦は一生(ずっと)続くというのか、大した気迫だ。」
「たしかに一理あるな。」
「君上、これはわたくし衛オウの強秦九論(秦を強国にする九か条)です。」
衛オウは一巻の竹簡を献上する。孝公はそれを開き目を通す。
「…車英、西への巡行は取りやめ、櫟陽(ヤクヨウ)へ戻る。」
「舵手は船首を東へ、ヤクヨウへ戻れ!」
「ぜひ先生はわたしと共に宮殿へ戻って、胸中に積み上げている思いに杼を通してほしい(→互いの考えを話して策を練り上げたい)。」
「君上が心を吐き血を滴らせる(心血を注がれる)ならば、この衛オウは腹を裂き胆を出しましょう(胸の内すべてをさらけ出しましょう)。」
※強国は神に選ばれた人によって運命的に作られるのではなく、その時代の人物が努力して作り上げた結果に過ぎないのだ。
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最後の二つの台詞がとても素敵。
「一杼胸中塊塁」は意訳するとあまりにあっさりしてしまう、とても詩的な表現。
「嘔心瀝血、披肝瀝胆」は古典らしい大仰な表現で好き。
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