宋慈は湖州で回収してきた白骨を調べたが手がかりは得られなかった。副葬品の龍の彫られた宝石から、今上皇帝の兄で18年前に亡くなった済王である可能性が高いが、皇族が荒山に埋葬されていた理由がわからない。宋慈は白骨を前に頭を悩ませる。
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「骸骨にはわずかの傷もなく、中毒の症状として現れる黒斑もない。犯人は結局のところどんな手段を使ったのだろう。驚くべきことに殺された痕跡はみじんも残されていない。これ正に山の外に山あり、天の向こうに天ありだな(→謎は果てしなく続いている)。どうやらわたしは今回本当に名手(難敵)に出遭ったようだ。」
骸骨を前に思案していると、いつの間にか目の前に髪をふり乱した白装束の男が立っていた。
「貴方は誰だ?」
「おそれずともよい、宋提刑よ。」
「わたくしは小さい頃からねずみの喧嘩ですら恐れたが、今まで幽霊では(恐れたことは)ない。」
「それはよかった。おぬしは実は早いうちから私が誰なのか知っておったのであろう。」
「貴方のその長い髪をかき分けて、わたくしに貴方の尊貌をお見せください。」
「私は人ではない、幽霊だ。幽霊に姿などない。」

「幽霊に姿はなくとも、名はおありだ。貴方は昔の皇太子の趙泱(チョウ・オウ)でしょう。」
「しかし今や帰る場所を求め彷徨う幽霊と成り果てた。」
「貴方がわたくしを求めるのは、何か(私に)託したいことがおありなのでしょう。」
「当時宋提刑がおれば、本王(わたし)も18年も冤罪に苦しむことにはならなかっただろうに。」
「古来より、皇家の子孫らは皇位を奪うために骨肉の争いが起こった。(それは古来より)絶えたことのないことです。貴方は皇家にお生まれになったからには、その全て(皇位争い)は宿命であったのです。どうして冤罪だと言うのですか。」
「その通りだ。人々は皆皇族に生まれつくことはなんと尊く素晴らしいことかと言う。だが皇家が私にもたらしたのは、尽きることのない傷と痛みだ。私趙オウは生まれた時から大きな願いを叶えることはできず、死してもまた求めることは叶わぬ。私が求めるはただ趙家の墓に入ること。その清らかな地に入ること叶えば、安らかな眠りにつけようぞ。おぬしが私を手助けしてはくれぬか。」

「(手助け)いたしましょう。しかし(そのためには)十八年前の真相をわたくしにお教えいただかねばなりません。」
「だめだ。それはできぬ。」
「なぜですか?貴方がわたくしに真相を教えていただかねば、わたくしは何を根拠として朝廷に働きかけ、貴方を皇家の墓に迎え入れることができましょう。」
「私がぬしに真相を告げれば、この大宋王朝に再び混乱が訪れようぞ。」
「随分と心配しておられる。」
「ぬしは信じぬのだな。」
「私は、私は何を元に貴方を信じればいいのですか。」
「どうやら、私とぬしとでは話が合わぬようだな。では私はぬしに何を求めようというのか(もう何も求めない)…。」
「行かないでください。行かないで、お待ちください!お戻りください!」
と、そこで目が覚めた。
「夢か、夢なのか…。」
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ミステリ劇でこういう予知夢みたいなファンタジー要素が入ってくるのは珍しいと思う。怪奇現象を認めたらミステリは成立しないしな…。
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