

─昭和20年2月、1機の試作機が完成した─
日本帝国陸軍の命を受け中島飛行機が開発した高々度戦闘機。
試作番号「キ-87」
機首側面に露出した物々しい装置、それは排気タービン過給器。今で言うターボチャージャー。

高度1万メートルに届こうかという高々度では非常に空気が薄くどんなに高性能なレシプロエンジンでさえ著しく性能低下してしまう。
しかし大戦当時、米軍機はその高々度を悠々と飛行し日本本土上空にいともたやすく侵入していた。
B-29爆撃機とその護衛機には全て排気タービンが装備されていたのだ。
排気タービン=ターボチャージャーとはより多くの空気=大気圧を越える密度の空気をエンジンに送り込むために空気を圧縮圧送する装置。空気の薄い高々度では地表と同等の気圧まで空気を圧縮することでエンジン本来の性能を引き出すことが可能、その名が示す通りエンジンの排気圧を利用してタービン=コンプレッサーを作動させる仕組みだ。
付随する装備として、圧縮により温度が上がり体積膨張した吸入空気を冷やすことで充填効率を高める中間冷却器=インタークーラーも装備。
日本軍においても第二次大戦開戦前より排気タービンの研究や開発は行われていたが高温/高圧/高回転に耐えうる材質の確保や数々の技術的難題をクリアできず満足のいく成果は得られていなかった。
対する米軍では第二次大戦からさかのぼること20年前、1920年代から研究/開発が始まり十数年かけて無数のトライ&エラーを繰り返しようやく実用化にこぎ着けた技術である。
開発期間、物資、基本的技術、日本にはその全てが不足していたのだ。
結局のところ「キ-87」はモノにならなかった。
試作機1機が完成したものの排気タービンや各部新機構の不具合を解消できぬまま満足なテスト飛行すらできず終戦を迎える。
他の革新的な試作機が辿った運命と同様、高度な発想や設計に実情が追いついていなかったのだ。
ということで“好きな飛行機ベスト3”の中の1機、「キ-87」です。
「キ-87」の開発目的は空気の薄い高々度の空まで上がり敵機を迎撃すること。
そのキモとなるのが排気タービンだったのですが、大戦末期の革新的野心的兵器開発にありがちな妄想先行で材料も技術も時間も生産施設も追いつかず要求性能を満たせない結果となってしまいました。
画像の「キ-87」は“日本陸海軍機大百科”シリーズ 第74号に付属するダイキャスト製完成モデル。冊子に模型が付いて書店に並んでる系です。

スケールは1/100。スミ入れして排気タービン部分のみ色塗ってます。
プラモだと海外製の1/72が存在するようですね。

実機の全長は約12メートル弱。零戦の約10メートルに比べても「キ-87」は旧日本軍の単座戦闘機としては大ぶりな機体。
キ-84疾風にも通ずる一目で中島飛行機と分かるような機体フォルムですが「キ-87」特有の処理が随所に見られます。
主翼は逆ガルウィング、内翼部分の上反角がゼロ=すなわち水平であり外翼のみ上反角が付いてます。
そして主脚=着陸用車輪の引き込み機構は通常の内側に向かって折り畳む方式ではなく、離陸後に主脚を90度ロール回転させてから後方に向かって折り畳む方式になってます。加えてそのために主翼中ほどに設置されたバルジも特徴的。
これは主翼内に20ミリ/30ミリ機関砲を装備するスペース確保のためと思われ、主脚の長さが制限されることから離着陸滑走時の地上と機体のクリアランス確保を目的にガルウィングを採用したようです。
そして「キ-87」最大の特徴が機首右サイドに露出した排気タービン。
エンジンのすぐ後ろにタービンを配したレイアウトはエンジン/タービン間の吸排気流路を最短にすることで圧力の損失を最小限に抑えるのが目的。
効率という点では理にかなったレイアウトではありますが、エンジンカウル後ろの機体内部はターボのパイピングやインタークーラーなどでエンジン1基分に相当するスペースが占有され、そのため機首は長くなりコクピットはかなり後方に追いやられてしまいました。
機体フォルムとしてはカッコ良く見える後方キャノピーですけど、パイロットの視界は著しく悪化。
海外の先駆者達によって実用化された排気タービン搭載の機体では「キ-87」のようなレイアウトは見られず、排気タービンは機体下部のもっと後方に設置されることがポピュラーなようです。
加えて「キ―87」にはハイパワーエンジンには見合わない やや小径なプロペラが何故か装着されていたようです。
理屈を優先して実用性の低下を招き本来の目的達成も危うい本末転倒感あふれる機体、「キ-87」。
そんな「キ-87」の開発状況を見かねた帝国陸軍の興味と期待は、ほぼ同時期に同様のコンセプトで開発中だった言わば競合相手の立川飛行機製「キ-94・II」に向けられそちらを本命視するようになります。
とはいえ「キ-94・II」が順風満帆うまく行くとは限らないのですが...。
第二次大戦末期、様々な高性能機が試作開発され日の目を見ることなく歴史に埋もれ消えてゆきました。
キラリと光る輝きを持ちながらもその輝きが明るいほどに多くの問題を抱えていた試作機たち。「キ-87」もその中の一機でした。
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──────コメント(14)─────
tezno
タービンが内耳に見える。
かたちというのは合理的に
なるほど原点会期するものですね。
スピードを追い求めるほど
サメやエイに似てきたりね。
逆ガルって書いているところが
通だなぁ。
2016/1/9(土) 午後 3:39
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顔アイコンカムロ
ああああ! 思い出した・・・
逆ピッチ4翔作らなきゃだ・・・・
むむむー
2016/1/9(土) 午後 4:23
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capsulerose
う~ん...
例によって良く分かりませんが、また完読致しました
ソリッドさんは実はライターですね?
もうそうとしか思えません
楽しかったけど、ボケるところが見つかりません...
2016/1/9(土) 午後 10:11
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ばすたらん茶
ネタ的にてんでド素人なんですけどいつもながらソリッドさんの
熱い思いは伝わりますよ(^^;
カプさんと同様これはボケるとこもなさそうなんでどろんですw
2016/1/10(日) 午後 2:17
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ソリッド
teznoさん
タービンに見えるのは内耳です。キーーーンて耳鳴りが...
自然界の生物のデザインや効率はハンパねぇーっすね。何万年単位で開発してますから
逆じゃないガルだと金田作画っぽくなりますから?
2016/1/10(日) 午後 7:36
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ソリッド
カムロさん
逆ビッチ四将
ギャルゲーのラスボスですか?
…ってムリヤリなボケはいらないぞっと
小劇場か90席イミフw
2016/1/10(日) 午後 7:38
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ソリッド
capsuleroseさん
例によって...笑
完読ありがとうございます
あれ?わかります?
「元」ですけど。
2ストの400cc乗ってました。限定解除はしてます。
…ってボケはいらないぞっと
2016/1/10(日) 午後 7:39
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ソリッド
バスタラン茶さん
自分もてんでド素人ですよ。暑く語るド素人w
「87」
「ハイキターーーッ ビンゴ」
って覚えましょう。排気タービン
…ってダジャレもいらないぞっと
2016/1/10(日) 午後 7:41
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顔アイコンtezno
2ストの400cc!?
NSか?ガンマ?やばいひとじゃん。びゅーん!!
2016/1/10(日) 午後 7:42
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ソリッド
teznoさん
NSです。
MVX→NSのある意味ヤバい「変態、ブイスリャ~」
っていうかレス早っwびゅーん!!
2016/1/10(日) 午後 7:53
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ばいきんダディ
排気タービンが付いてるだけで米軍機っぽく見えますよね。
P-51ぽいと言うか。
日本の機体では高高度の戦いができないってネタを何かの作品で観ました。
何だったろう・・・松本零士かな?
試作機って独特の儚さがあっていいですよね。
(逆にお笑い路線もありますが)
2016/1/12(火) 午後 2:08
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ソリッド
ダディさん
ボディがフグみたいに膨らんだ感じもちょい米軍機っぽいですね。P-47とかF-6Fみたいな。
これ見よがしに排気タービン見せつけるのはキ-87に軍配が上がるかもw
高高度ネタは松本作品でいくつかありましたね。衝撃降下90度も高高度絡みと言えなくもないし。
新谷作品にもあったような気がします。覚えてないけどw
試作機って“モノ”にならなかったものほどトンがってて面白かったりしますよね
2016/1/12(火) 午後 9:00
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ネビィラ 71
うーむ やはりアメリカの飛行機には歯が立たないんですね~。悔しいですね。
今は更に歯が立たないんですかね?
2016/1/17(日) 午後 10:26
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ソリッド
ネビィラさん
当時もしも充分な資源があれば...設備があったなら...
タラレバを言えばキリがないですけど、少なくとも零戦は米軍に一目置かれた時期もありましたね。
今本気で造ればどうでしょう。
飛行機はタラレバの話になっちゃいますけど、飛行機でなきゃ昔と違って勝ってるモノはいくらでもありますよね
2016/1/18(月) 午前 6:26
