日本人の健康や病気に関する疫学データは、欧米と比べ、学術的研究として歴史が浅く、立ち遅れているのが現状です。疫学を解析できる人は、医療の現場にアプローチできず、臨床家は、疫学的手法や協力者がみつからない事が多いです。
 
そんな日本の研究環境でも、1990年頃から、欧米に追い付こうと、国の研究費でコホート集団を設定し、参加した日本人の病気の発症を追跡する研究がおこなわれています。そのいくつかを紹介します。
 
そんなことわかっているのに・・・と思う人もいるかもしれませんが、医学的事実は、証拠を出すのを求められるので、評価の数値は、とても大事なものです。病気や健康について、人々は思いこみをしていることがあり、間違ったことが常識になっていうことがあります。疫学研究は、そうした誤解を正したり、事実を、再評価することに役立ちます。

毎日を楽しく過ごすことは、健康に良さそうです。その影響は、心血管系に良い効果がもたらしているでしょう。では、メンタルな健康状態は、どの位に心血管系に影響するのでしょう。この研究では、男女の違いに興味深い結果がでました。
 
脳卒中に関しては、男女差が比較的少なく、冠状動脈疾患は、圧倒的に男性に多いことがわかります。しかし、女性では冠状動脈疾患は少ない割には、死亡者が多いこともわかります。冠状動脈疾患が少ないことは、女性のコレステロールを下げるべきかどうかの医学的議論にも関係します。男性のように、冠状動脈疾患予防のためのコレステロール降下剤は、必要ないという考えがでてきます。この研究では、多くの人が参加しました。参加人数が多いと、精度の高い疫学研究をすることができます。

この研究では、参加者たちに、単純質問として、「あなたは楽しく過ごしていますか?」を聞きました。その結果、いくつかの男女差の事実を明らかにしました。女性では、本人の幸福の意識と、病気の発症が必ずしも関係がなかったのです。男性において、毎日を楽しく過ごすことで、生命予後をよくなりましたが。女性では、関連がありませんでした。
 
他の疫学データでは、孫のいる女性は、心血管疾患が多くなるとの研究がありました。毎日を充実して暮らすことは、女性の心臓には、案外、負担になるかもしれません。
 
さて、実際の論文にアプローチしてみましょう。PMID: 19720937 Circulation. 2009 Sep 15;120(11):956-63.
 
日本の前向きコホート研究(個人を年余にわたり追跡する型の研究スタイル)は、Japan Public Health Center-BasedStudy Cohort. Data、略してJPHC)研究と言われるものです。この研究の対象には、2種類のコホート集団参加者が含まれます。コホート集団1では、1990年より、追跡研究が開始された40-59歳の54498人、コホート集団2では、1993年から、追跡研究が開始された40-69歳の62398人です。その後の病気の発症について、12年間、追跡しました。
 
解析が可能であったJPHCコホート研究の対象は、40歳から69歳までの日本人の男女88 175人です。この参加者たちに、単純質問として、「あなたは楽しんでいますか?」を聞きました。この質問以外にも、今までの病気、肥満、喫煙、酒などの嗜好、A型性格かどうかなどを質問しました。(いつも、せかせかとあせっていて目的達成意識が高い性格の人をA型性格という。血液型とは無関係)
 
結果:男性では、とても楽しんでいると答えた人17399人、普通と答えた人21057人、楽しんでいない人は、3633人でした。
 
女性は、とても楽しんでいると答えた人18425人、普通と答えた人23384人、楽しんでいない人は、4277人でした。男女とも、楽しんでいない人は、運動が少なく、メンタルストレスが高い人でした。男性では、楽しんでいる人でも、メンタルストレスが高いと答えた人が、15%いましたが、女性では、9.8%でした。
 
楽しんでいない人たちでは、男女共半数で、メンタルストレスが高いと答えていています。男女とも職種の違いは、楽しみに影響しました。
 
脳卒中は、男性1688人、女性1098人、冠状動脈疾患は、男性522人、女性は、164人でした。
さらに、死亡した人の数は、脳卒中死は、男性502人、女性310人、冠状動脈疾患死は、男性297人、女性115人でした。冠動脈疾患による死亡は、女性は少ない(男性297人、女性115人)です。男性では、楽しんでいると答える人では、死亡が少ないのですが、女性では、そうした傾向が少なく、冠動脈疾患患に至っては、幸せでない人の方が、病気が少なかったです。
 
脳卒中と心血管疾患発生率状況につき、多変量解析をしました。楽しむと答えた人のグループと、楽しみが少ないと答えたグループの人の間での、脳卒中と心血管疾患の発症の頻度を比較しました。
 
楽しむと答えた男性のグループの数値を1と設定すると、楽しみが少ないと答えたグループの男性では、病気の頻度が何倍になるかをみました。
 
楽しみが少ないとしたグループの男性は、1より多い数値となり、脳卒中と心血管疾患の病気が増加しました。その程度は、脳卒中では、1.22 倍(95% 信頼区間l, 1.01ー1.47) 、心血管疾患は、1.23倍 (95% 信頼区間, 1.05ー1.44) でした。脳卒中の死亡は、1.75倍(95%の信頼区間、1.28ー2.38)、冠動脈疾患による死亡は、1.91倍(95%の信頼区間、1.30~2.81)、全心血管疾患による死亡は、1.61倍(95%の信頼区間、1.32~1.96)となりました。
 
 しかし、女性に関しては、男性とは異なり、毎日の楽しみ方と、心血管疾患発生率や死亡状況とに関連がありませんでした。

 
小麦のアレルゲンはアルブミン・グロブリンなどの水溶性タンパク質と、グルテンと呼ばれているグリアジン・グルテニンなどの不溶性タンパク質の2つに大別されます。
 
不要性蛋白とは、なかなか分解されない蛋白物質ですが、こうした物質は、人に病気を起こすことがあります。
 
グリアジンの中でも、ω-5グリアジンが最も頻度の高いアレルゲン物質と考えられ、血液検査が可能で、グリアジン特異IgEの存在の有無を知ることができます。
 
IgEが存在し、アレルギーが準備状態にあっても、実際に病気の症状が出るとは限りません。ここが、IgE検査の解釈の難しさです。私たちは、腸内に入る危険物質を、見分けるために、IgE、IgGなどの免疫グロブリンを作りだします。ですから、これらの物質の産生があっても(検査が陽性でも)、即、病気ではないのです。

特異IgEの産生は、一過性であり、腸内の免疫細胞は、腸内に侵入した食物が危険でないと判断すると、IgEをつくらなくなります。多くの、小児の食物アレルギーが軽快していくのは、こうした免疫の成熟の成果です。正常人では、エネルギー源として必要としている食物に対しては、IgEはつくらなくなっています。いろいろな食べ物と腸内細菌などの共同作用で、腸内免疫の成熟していきます。
 
子どもが食物アレルギーの検査をすると、乳幼児ではIgEが陽性になりやすいです。卵、ミルクに対するIgEは、赤ちゃんが小さい時に作りやすいのですが、年長になると、卵、ミルクに対しては、IgEは消えていきます。しかし、除去食がきつすぎると、こうした自然な免疫の成熟がおきにくくなるようです。アレルギー免疫反応を落とす調節性T細胞が、増加してこないのです。
 
私たちが健康なのは、免疫が働いていて、異物を排除し、かつ、調節性T細胞が、免疫が過剰に起きないような見張りをしているからです。そのどこの部分でも壊れれば、私たちは病気になります。
 
これは、以前に腸内細菌の説明で出した絵です。腸管内で、IgEをつくるかどうか判断するのは、白血球の仲間である樹状細胞です。図では、3個のピンク色の細胞です。黄色い粘膜固有層と呼ばれる部分を、泳ぎ回ります。そして水色の上皮細胞に食い込んで、外側の物質に触れます。水色の上皮細胞の外側(黄色の部分の反対側)は、腸管の内腔部分で、ここに食べものが入ってきます。そして、肛門側に送られていきます。
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この細胞が、卵やミルクに触れて、危険であるかどうかを判断します。危険であると、樹状細胞が判断すると、その情報は、リンパ球に伝えられ、司令塔であるリンパ球が、腸で炎症を起こすように指示をだします。その結果、血管が広がり、腸管内に多種類の白血球が呼び寄せられてしまうので、腸に火が付いた状態の腸炎がおきてきていまいます。こうなると、私たちは、腹痛や下痢や血便でつらい状態になります。
 
そして、表面をおおう構造物である粘膜の上皮細胞(水色の四角の並んだ部分)は、萎縮という状態になります。凹凸のあるざらざらした表面構造から、つるつるした構造に変化します。こうなると、上皮細胞の働きが低下し、腸内に入り込む食物、病原体、腸内細菌など、個々の構造物の鑑別ができなくなっていまいます。私たちの腸は、過剰に反応し、下痢、血便、狭窄などがおきてくるようになります。

今回は、腸炎とビタミンAの関係を検討したネーチャー2011;421;220の論文を紹介します。
小麦でおきる腸炎には、セリアック病とよばれる成人な難治な病気があります。マウスなどのモデル動物に、実験的にセリアック病を発症させ、人間の病気が研究されています。このマウスは、人間の遺伝子を入れられていて、小麦に反応するように運命つけられています。

このマウスは、小麦に反応して炎症物質が腸内で大量にふえてしまうのです。そして、ビタミンAは、腸炎を増悪させる作用があることがわかりました。ビタミンAは、免疫調節に重要な多様な役割を持ちますが、ネーチャー2011年雑誌は、腸炎増悪因子としての、ビタミンAの新しい側面を指摘しました。
 
開発途上国で、ビタミンAが欠乏する乳児では、ワクチン効果が低下することが知られています。その理由は、ビタミンAが不足すると、免疫細胞の寄り付きが悪くなるためと考えられます。
 
普通の人では、パンやうどんを食べてもなんでもありません。正常な人と、セリアック病の人では何が違うのでしょうか?セリアック病になる人では、白血球の表面に出ている蛋白に特徴があります。これは、HLAと呼ばれている蛋白質ですが、この型が、DQ2,DQ8という名の構造をしている人では、セリアック病になりやすくなります。樹状細胞表面も、DQ2,DQ8タイプとなりますので、樹状細胞は、小麦蛋白であるグリアジンを、T細胞に提示してしまいます。この情報をうけたリンパ球は、危険な物質の腸内侵入と判断します。その結果、T細胞が、IL-15,IL-12という物質を増やしTh17細胞が増加し、腸炎がおきてきます。

実は、普通の人でも、食品の蛋白質が入ってくれば多少は反応をするのです。しかし。セリアックでは、これが働かず、炎症を止める仕組みが機能しません。食物アレルギーの人でも、同じような現象が起きています。セリアック病の患者さんでは、IgGの役割が高いこと、一方、食物アレルギーでは、主としてIgEが病気を起こしている点が、違うのです。

セリアック病の患者さんは、白血球のHLAがDQ2,DQ8タイプを持ち、免疫提示に不利な体質を持ちます。次に、セリアック病の患者さんは、腸管でIL-15、IL-12と呼ばれる、炎症を起こす物質を増やしてしまうのです。このIL-15を感じ取る受容体は、樹状細胞が持っています、つまり、腸炎を起こす大事なキーファクターのIL-15は、樹状細胞が産生の鍵を持っています。腸管の樹状細胞は、他の臓器の樹状細胞には見られない、大事な役割をもっています。従来、炎症の調整役は、T細胞の仕事と考えられていたのです。腸には、そこでしか見られない免疫調節のしくみが働いています。

IL-15が増えてしまうと、炎症を止める働きをする調節性T細胞が働かなくなります。その結果、IL-12, IL-23という物質が腸管内で大量にふえてしまい、腸炎が起きます。IL-15の働きは、ビタミンAとの協力作用であるのです。

一方、正常な人では、樹状細胞は、グリアジンをT細胞に提示しないので、IL-15は増えず、IL-12,IL-23も増えません。調節性T細胞が、体中にどこにでも準備できる状態になっていて、過剰な炎症が起きないようなしくみになっています。
 
少し、難しい話になってしまいましたが、食物アレルギー、セリアック病、慢性腸炎などの、現代病の腸炎治療を考える時、多様な免疫の仕組みから理解していきましょう。災害対策の意味でも、治療法の確立が大事です。
閉経後のエストロゲン療法は、骨減少および血管運動症状(ホットフラッシュ)を減少させる効果があります。日本では、エストロゲンの効果が拡大解釈され、女性の健康と若さを保つ物質として、確かな効果の確証もなく、多くの宣伝に利用されています。
 
さらに、大豆イソフラボンも、女性ホルモン作用があるとのことで、その効用が過剰に宣伝されています。しかし、乳がんのある人などでは、望ましくないとされ、大豆イソフラボンの又取り過ぎは、健康に害があるとされています。性同一障害の方の書いたブログなどにも、イソフラボンでは、たいした女性化効果はないと、書かれているものが多いようです。
 
今回、米国でランダム化試験が行われ、大豆イソフラボンの効能が検討されました。医師も患者も実薬(大豆イソフラボン)か、偽薬かわからないようにして、2年間、更年期女性に内服をさせました。そして、実際に、骨粗鬆症を防ぐ効果や、更年期障害を低下させる効果が、大豆イソフラボンにあるかどうかを検証しました。
 
その結果ですが、大豆イソフラボン群では、骨密度、更年期症状の改善などへの、治療効果は、全く証明されませんでした。そして、生物活性物質であるイソフラボンは、女性にほてりをもたらしました。つまり、逆効果だったわけです。以下が論文です。
Arch Intern Med. 2011 ;171(15):1363-9.  PMID:21824950

今回、対象となった女性は、骨密度(骨塩量:BMD)のTスコアが-2.0以上(骨粗鬆症のない健康女性)で、閉経後5年以内の女性でした。対象女性を、isoflavone(200mg)内服群120人と、プラセボ内服群126名の二群に分けました。そして、それぞれの群の女性たちに、2年間、薬を飲ませました。この大豆の投与量は、アジア人女性の典型的食事に含まれる大豆イソフラボン量のおよそ2倍でした。
 
対象女性においては、骨塩量測定以外にも、更年期症状や、膣の細胞像、テロペプチド(骨破壊マーカー)を測定し、イソフラボンの女性ホルモン作用について検討しました。
 
結果;大豆イソフラボン群、偽薬群の女性たちの骨塩量は、両群とも同等に低下しました。股関節では、大豆イソフラボン群、偽薬群の順で、骨塩量-2.0%と -2.3%, になりました。股関節では、-2.2% and -2.1%になりました。
 
女性の大部分は、ベースライン時で、更年期の症状があり、この治験期間中も継続していましたが、研究終了時では大豆投与群の方がプラセボ投与群よりも、ほてりの率が高くなりました(大豆イソフラボン群が48%で、
偽薬群が32%)。
 
重篤な有害作用は、両群とも見られませんでした。更年期障害の程度の改善については、両群で、差が見られませんでした。
 
結論として、大豆イソフラボンが、骨塩量低下を予防するとの証拠は示されませんでした。大豆イソフラボン群で、ほてりが多くみられたのは、生理活性物質として、大豆イソフラボンが作用した可能性が考えられました。
 
更年期の女性に、大豆の使用を推奨することは正しいことではないと結論しました。
NHKの番組で、福島の放射能汚染の問題点について、ドキュメンタリーがあった。番組に登場した人たちは、皆、未知の数値にまごつき、対処を模索する必死の姿であった。

今は、このドキュメンタリーを撮影した時より、かなり、人々知識が進んだと思うが、この番組が作られた時点で登場した人は、混乱した情報の中で、悩んでいた。そして、急性障害と、慢性障害について、区別が十分でないようだった。この二つは、全く違うものであり、一緒に考えてはいけない。それにもかかわらず、不安をあおるような根拠のない口コミは、出回っている。例えば、5年後に、毛が抜ける!などとする、デマだ。毛がぬけるのは、急性障害であり、慢性障害ではない。
 
事故の規模や、汚染の程度は、チェルノブイリとは違うと思う。東京では、多くてもμ(マイクロ)の2ケタの単位の被ばく量であり、急性障害が起きる量からは、はるかに低値である。又、慢性障害についても、人類が未知の分野である。つまり、数値が小さいので、データが出せないレベルである。
 
ところが、そうした理解をしていない人が、結構いる。医師の中にも、その区別のつかない人がいる。医師の講演といえども、j信頼性があるとは限らない。医師は、原発反対の人が多いので、原発反対の仲間を増やす手段として、危険性を強調したりする。放射線医学をしっかり、日常業務として自分のものにしている医師でなければ、信用できない。
 
又、NHKの番組内でも、放射線医学研究所についても、誤解されていたと思う。
放射線医学研究所では、微量の放射線を浴びた人のための機関ではない。がんの放射線治療や、事故で大量の放射線を浴びてしまった人が、治療の対象である。原発事故が起きれば、高濃度汚染者を検出し、治療するための施設である。
 
NHK番組では、ここで、検査をした福島の人が取材されていた。彼らの検査数値は、危険なレベルからはるかに低値であった。しかし、危険をあおる情報におびえていた人たちにとっては、医師による検査の説明が不満だった。大丈夫であるという説明に納得がいかなかったのだ。安全であることを、もっと証明しろと考えたかもしれない。
 
微妙な放射線の危険を説明するのは難しい。時間も必要だ。微妙な放射線リスクに回答するのが、長期間観察の疫学データである。これを理解するのは難しいし、勉強時間がかかる。
 
しかし、どうしても、心配な人は勉強すべきであろう。医者は、100%保証することはできないのである。放射線量が少なくなれば、その影響に個人差が出てくる。浴びた人は、浴びない人に比べて、何十年間後に、がんのリスクが微妙に上昇する。そこをしっかり勉強して、個人が答えを出すしかない。誰かに聞いて、0?か、100か?の答えをもらうものではないのである。
 
放射線医学研究所では、心配ないレベルであるとことを強調したかったのであろうが、被験者の不安は解消せず、不満が大きく残ったようであった。今は、彼らの悩みは解消していることを願うばかりだ。
無視してよいと考えるのか?無視できないと考えるのか?個人で異なると思う。
 
核戦争のリスクをどの位に考えるのか?個人で、考え方が異なるのと同様である。心配な人は、核シェルターを買い込むしかないだろう。
 
実際問題として、ホールボディカウンターのような精密機器を用いて、数値を出したとしても、それが危険な数値でない場合、誤解の起きないように、どのように被爆者に伝えるのかは、難しい問題だ。
 
急性障害が起きるほどの量ではないという言い方は、簡単であるが、長期は難しい。医師は、短期しか、自信を持って答えられない。
 
放射線を浴びた人の長期的な影響なども、担当医は、話したかったかもしれないが、時間がかかる。結局、良く理解できる人が、次に又、理解する人へと、理解の輪を広げていくしかないのではないか?
 
 
番組に登場した専門家は、福島の放射線量を、いろいろ工夫して測定し、情報を提供してくれていた。屋外の高いところは、4μシーベルト、川沿いが高いとの報道だった。放射線が、木々や、泥についていた。

 
放射線量が高い家に住む家族に計測計を持たせて、1日測ると、この家の人たちは、10μシーベルトの放射線量のある環境にいたことになる。これは、内部被ばく量ではないが、単純計算すると、1年では、10x365日=3650=3.65ミリシーベルトの環境にいたことになる。

1年間でこの状態の環境が続けば、3.65ミリシーベルトとなる。ただし今後、新たな爆発でもなければ、落下した放射線量は減少していく。しかし、さらに放射線量が多かった時の状態は、不明である。
 
番組では、必死の洗浄作業により、半分に減らせたとの成果を報道していた。3ミリが、1.5ミリになったら、将来、どの位の効果がでるのかは、わからない。このような微量レベルで、データを出すは難しい(過去にデータが無い!)。どこまで、減らせば安心なのかは、それぞれの人の価値観で考えるしかない。
 
平時は、放射線の許容量は、年間1ミリシーベルト以下、事故後暫定値には、1-20ミリシーベルト、さらには、年間100ミリシーベルトまでは何とかOK,、さらに、原発作業員は、250ミリシーベルトが限度となっている。
 
こうした安全域の設定と言うのは、放射線だけではないだろうか?放射線に関しては、毒物学で設定できるような安全基準が無いのである。慢性障害は長期的なものであり、答えは容易にはでない。
 
それでも、気になると思う人は、除染を考えると思う。除染をどこまでやるのかについては、専門家でも、リスク・ベネフィットの判断が難しい。やらなくて良いとは言える根拠はない!しかし、除染をして、どの位の効果が期待できるのかの答えはない・・・。
 
広島・長崎の原爆関連の論文では、5ミリシーベルトの内部被ばく線量を基準にしている。5ミリシーベルト以上で、病気との関連を論じている。
 
私も、このブログで、放射線障害に関する論文の紹介をしてきたが、このブログから、放射線量と、病気との関連に関する記載を取りだしてみた。(詳しくは、それぞれのブログの論文にさかのぼってください)
 
1シーベルトごとに増加するがんの相対危険度は、0.63でした(63% 増えるという意味になります。つまり、放射線を浴びない場合、1人が、がんになる条件にあるとします。この条件下で、放射線を浴びた人なら、1.63人が、がんになるという意味です)。
 
100000人の人を集めた条件にすると、1シーベルト浴びたごとに、がんの人が 29.7人増えていきます。これが相対危険度の意味です。
 
結局、ここが理解できないと、安全性についての話を聞いても、「いつも危険はないとしか言わない!」と、不満になります。わからなければ、とにかく、いろいろな言い方をしてもらって、理解を深まるしかありません。
 
1シーベルトごとに増加した相対危険度は、胃がん0.32、大腸がん0.72、肺がん0.95、胸1.59、卵巣がん0.99、膀胱がん1.02、甲状腺がん1.15、肝臓 0.49、非黒色腫皮膚1.0となりました。神経組織のがんは、若年の被爆者に多く発症しました。
 
(がんの発症数は、1シーベルト上昇するごとに8倍上積みされる。
PMID: 15840883 J Natl Cancer Inst. 2005 Apr 20;97(8):603-5.
 
子宮内暴露集団からは、10人のガン死があり、1シーベルトごとの超過死亡の相対危険の推定値(ERR/Sv)は、2.1倍でした。この数値は、後5歳までに被曝した人のがん死と同率でした。
白血病は、被爆後すぐの15年で起こったのに対して、固形がんでは、むしろ、被爆者の加齢と関係しました。30歳で被爆した人では、生涯の固形がんの超過死亡は、1シーベルトにつき、男性0.10、女性0.14と計算されました。 50歳で暴露されると、がん死のリスクは、約3分の1に減りました。
 
1950-1990年の超過死亡の3 %が、最近5年(1985-1990)の白血病死でした。 白血病は、被爆後すぐの15年で起こったのに対して、固形がんでは、むしろ、被爆者の加齢と関係しました。30歳で被爆した人では、生涯の固形がんの超過死亡は、1シーベルトにつき、男性0.10、女性0.14と計算されました。 50歳で暴露されると、がん死のリスクは、約3分の1に減りました。
10歳、30歳で暴露された場合、白血病の1 シーベルト当たり超過危険は、男性0.015と女性0.008の推定値でした。 50歳で暴露された場合、約3分の2になると計算されました。
 
固形がんの超過危険は、3シーベルトまで線形モデル(線量と並行して死亡が増す)となりますが、白血病は、線形モデルとはならず、0.1 シーベルトの被ばく量を受けた人は、1 シーベルトを受けた人の1/20になると推定されました。
PMID: 8677290 Radiat Res. 1996 Jul;146(1):1-27.
 
30歳で原爆に暴露された場合、固形がん死は、70歳で1シーベルトにつき47%上がると計算されます(1.47倍になる)。
 
放射線効果が0.5シーベルト未満の場合は、非がん死亡とに、関連がありませんでした。PMID: 12968934
固形がん死は、70歳で1シーベルトにつき47%上がると計算されます(1.47倍になる)。
PTSDにリスパダールの治験の紹介をしました。米国、9月11日のワールドトレードセンター事件に従事した消防士、警官などが、PTSDを発症し、その治療に関する論文が多くみられます。論文は、統計学的に検討した数値を示して論じているので、説得力があります。
 
世界的な大きな出来事ではなく、誰もが、日常生活の出来事でも、さまざまな不安をかかえています。女性は男性から、暴力的な攻撃さをれた時(もちろん、逆もあるが・・)に、その相手の言動の背景を良く考えなければならないです。暴力は暴力を生むということを、数値で示した論文です。

J Interpers Violence. 2010 Sep;25(9):1612-30. PMID: 20023200
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の退役軍人は、PTSDのない退役軍人より、周りの人たち(女性パートナー)に攻撃的な行動があります。
 
今回の論文は、退役軍人の間の、周囲への攻撃性をみました。アフガニスタンへの自由作戦(OEF)と、イラクの自由作戦(OIF)に従事した退役軍人が、パートナー相手への攻撃性がどの位に増加するかのデータです。
 
退役軍人を、3つのグループに分けました。PTSDのあるOEF/OIF従事者(n = 27)、PTSDのないOEF/OIF従事者(n = 31)、PTSDをもつベトナム退役軍人(n = 28)です。
 
PTSDのある軍人男性のOEF/OIF従事者は、他の2つのグループに比べ、およそ1.9~3.1倍の頻度で、彼らの女性パートナーに暴力行動がありました。1.6~6倍の頻度で、暴力行為が報告されました。他人への暴力行為が続いてしまう背景には、軍人に残る暴力経験との関連が示唆されました。
 
イラクとアフガニスタンに従事したベトナム退役軍人に残る周囲への攻撃性は、PTSD治療の目標のひとつになります。
前回ブログで、コレステロールは、脳神経の複雑なネットワークに大切な役割をしていることに触れました。

現在、動脈硬化学会と、栄養脂質学会の間で、コレステロール低下療法の是非が議論されています。男性では、低コレステロール治療のメリットが期待できますが、心筋梗塞、狭心症の少ない女性では、必ずしも、病気の発症を予防できるとしたデータに乏しく、低コレステロール治療の評価が難しくなります。
 
今回は、食事療法で実際にコレステロールが低下できたかどうかの論文です。JAMA. 2011;306(8):831-839.
 
方法は、低コレステロール食の取り方について、6ヶ月間に7回の指導を受けた強化治療群、6ヶ月間に2回の指導を受けた普通治療群、一般的な低脂肪食のみの群(コントロール群)としました。
 
低コレステロール食として勧められた食事は、植物ステロール、大豆たんぱく, 粘りのある繊維性物質、ナッツでした。

カナダトロントの4か所の専門医療機関で、高コレステロール血症の、351人が参加したスタディです。
 
血清LDLコレステロールは、平均171 mg/dL (95% 信頼区間 [CI], 168-174 mg/dL)の人たちでした。この人たちは、半年間、無作為に選択した食事療法を続け、その後に、低比重コレステロール(LDL-C)が、どの位に、減らせたかの成果をみました。

それぞれの食事療法が続けられずスタディから脱落した人の割合は、強化療法群では 18%, 一般療法群23%, コントロール群26%で、この3群間に、脱落率の違いはありませんでした。
 
強化治療群は、LDLコレステロールが減ること13.8% (26 mg/dLの減少)の数値でした。
一般治療群では、減ること13.1%(24 mg/dLの減少)でした 。
 
コントロール群では、LDLコレステロールが減ること3.0%で、8 mg/dLが減少しました。
低コレステロール食を徹底した強化指導群と、普通指導群では、コレステロールの低下量に違いはありませんでした。しかし、脂肪のみ制限したコントロール群とは、コレステロールの低下量に違いがみられました。
パーキンソン病は、脳の基底核の黒質と呼ばれる部分の、脳細胞の病気です。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E8%B3%AA 
以前にこのブログでも、パーキンソン病の最近の知見を、紹介しています(5月5日)。パーキン蛋白が、どのような機能を果たしているかの論文の紹介をします。
 
パーキンソン病は、parkin(パーキン)と呼ばれるたんぱく質の異常が起きています。この蛋白の本来の働きは、障害されたミトコンドリアの除去と言われます。よって、この蛋白に異常がおきると、レビー小体と呼ばれる物質が脳細胞の中に蓄積してしまいます。レビー小体がたまると、神経細胞が消失していきます。
 
パーキンソン病は、加齢に伴い病気が増えてきますが、若年性のパーキンソン病もあります。この病気になると、手が震え、体が固くなりバランスがとれなくなります。体は、スムースに動かなくなるのです。バックトーザフューチァー主演のマイケルフォックスは、この病気だそうです。
 
本日は、NIH/National Heart, Lung and Blood Institute(NIH研究所)からの報告です。パーキン蛋白が異常になると、なぜ、細胞死が起きてしまうのかの研究です。この研究からわかったことは、(遺伝子異常により)パーキン蛋白の異常が起きていて、細胞の外から中へ、脂肪成分を運び込めなっています。
 
脳の細胞は、活動するためには、多くの脂肪成分を必要とします。パーキン蛋白の働きのひとつが、脂肪の移動にかかわることがわかりました。そのため、パーキン蛋白の働きがだめになると、細胞のエネルギー源である脂肪成分が、細胞の中に入ってこれなくなるようです。
 
特に遺伝子異常に起因する若年型パーキンソン病は、20代で発症してきてしまう病気で、このうち、今までに遺伝子異常を特定できたのは、約37%です。
 
この病気を研究するために、動物モデルのマウスを使って、パーキン蛋白をつくる遺伝子をつぶしたマウスを人工的につくりました。このマウスでは、高脂肪食を与えても、肥満してきません。一方、正常なマウスでは、高脂肪食により肥満していきますが、その時に、脂肪運搬蛋白とパーキン蛋白が増加します。つまり、パーキン蛋白は、栄養としての脂肪を、細胞の外から中へ運び込む役割をしているkとがわかったのです。
 
実際の人で、パーキンソン病を発症した人血液細胞を調べて見ると、細胞内に脂肪を吸収できないことがわかりました。J Clin Invest. doi:10.1172/JCI44736
 
黒質には、多数の脳細胞が神経突起で交流しており、1個の脳神経細胞は、それぞれ30万位の神経突起を出して、周りの神経細胞と連絡を取り合っています。そうした神経細胞同志が正常に交流するために、エネルギー源として多くの脂肪と、細胞膜のコレステロール構造が必要なのです。つまり、細胞内外の脂肪が、正常に移動することが、パーキンソン病の治療の近道になる可能性が指摘されています。米国NIHでの研究は、現在進行中とのことです。
 
コレステロールを下げるのは、循環器系の病気を減らすことはできますが、細胞の強度は落とすようです。神経細胞にも、脂肪はとても重要な働きをしているようです。今後、さらに、脂肪についての知識が高まると良いです。
退役軍人のPTDS(外傷性ストレス症候群)の治療に関する報告です。
 
2010年、米国コネチカットの23か所の軍人用医療施設の外来で、PTDSが診断された退役軍人たちの治療成績です。今回は、向神経病薬のリスぺリドン(リスパダール)の入っている実薬と、入っていない偽薬を、本人・医師がわからない状態で服用し、6ヶ月後の治療成果を評価しました。
 
二重盲検法という、信頼性が高い薬の評価方法を用いて、薬効を比較しました。向神経病薬では、評価が難しい偽薬との比較試験に、医師・医療者とPTDS軍人たちが参加して、薬剤効果の評価をチャレンジしました。
 
特に参加した医療者の数が多く、治験期期間中は、治療の成果、症状の評価把握をするために、医師、医療者、患者(軍人)が、真摯に治験にとりくんだであろうと思います。こうした研究には、評価する人、評価される人のエネルギーが必要になります。日本では、臨床で行うことが難しい研究です。
 
今回の偽薬との比較試験で、最後まで服用が可能で評価ができたのは247人でした。
治療を受ける側には、戦争経験の過酷なストレスに対する心身失調という均一性がありました。又、一般的に、PTDSは、SSRIで治療されることが多いようですが、兵士の場合は、薬の効果がでにくいとの傾向があるようです。

その結果、どちらの治療グループの人たちの症状には、改善がみられ、リスペリドン(リスパダール)群にはっきりした治療効果を出せない結果となりました。
 
リスぺリドンは、現在、日本でも多く使用されている向神経病薬で、12月17日に、当(学とみ子)ブログでも紹介しています。

JAMA. 2011 Aug 3;306(5):493-502. PMID: 21813427
367人の退役軍人に調査を行い、296人が、比較試験の対象となりました。この人たちは、2か月以上、他のセロトニン再取り込み阻害剤SRIによる治療を、めだった効果がでない人たちでした。
 
投薬による病気の変化の評価は、治療者によるPTSD臨床症状評価(PTSD Scale;CAPSで1から136点で評価)や、モンゴメリーうつ病評価尺度(MADRS)、ハミルトン不安評価尺度(HAMA)、臨床全般印象度(CGI)、退役軍人向健康調査票(SF-36V)をもちいました。リスペリドンは、最大4mgを就寝前1回服用としました。

治療開始後24週間で、PTDSの評価スコアであるCAPSの変化を見たところ、プラセボ群の人たちでは、
スコア-12.5と、症状が減少し、リスペリドン群の人たちでは-16.3と、症状が改善する数値は高くなりましたが、統計学的に評価したところ、リスペリドン群とプラセボ群の間に、有意差はでませんでした。
 
治療期間のポイントごとのCAPSスコアでは、両群に差が出ず、全期間のPTDSを評価したCAPSスコアでも、リスペリドン群64.71、プラセボ群67.16と、リスペリドン群にPTDS症状の減少があるものの、プラセボ群とに、統計学的な有意な差はでませんでした。
 
不安症状でも、HAMAや患者による評価CGI、治療者による評価のいずれも、症状の軽快の程度に、有意差はでませんでした。SF-36V(生活一般評価)による生活の質(QOL)についても、両群に有意差はみいだせませんでした。

体重が増えたと訴えた人は、プラセボ群2.3%に対し、リスペリドン群15.3%でした。 疲労感が増した人は、リスペリドン群13.7%に対し、プラセボ群はなし。眠気は、リスペリドン群9.9%、プラセボ群 1.5%でした。唾液がでやすいと答えた人は、プラセボ群0.8%に対し、リスペリドン群9.9%と、リスペリドン群で高率に認められました。
昨日、妊娠糖尿病の評価の話しをしました。明らかな糖尿病であれば、インスリンを用いた治療が必要ですが、昨日のような軽度の血糖異常の妊婦の場合は、医師の判断が難しいです。
 
どのレベルまでの、高血糖なら、妊娠糖尿病の治療をしなくてよいのか?どこの血糖の異常値から、妊婦を治療をすると、出産時、明らかなリスク回避の成果が出るのか?治療成果を上げる血糖レベルや、血糖の維持レベルを決めるのは難しいようです。
 
妊婦と子どもにハッピーな治療レベルを決めるために、トライアルが行われています。日本は、データが少なく、外国の治療基準は参考にするようになると思います。日本の糖尿病の治療は、世界標準レベルですが、女性の病気へのケアが、外国ほどではありません。
 
また、無作為に治療を選び、比較試験をするというのも、日本の臨床の現場ではできません。日本には、特有な制限があります。その結果、英文論文として、世界の一流誌に載るのは難しそうです。妊娠糖尿病のスタディは、2011年の現時点で、世界で進行中のようです。
 
 
米国、オハイオ大学を中心に研究が進んでいるMFMUネットワークの結果です。Obstet Gynecol. 2011 ;117(2 Pt 1):218-24 PMID: 21309194

この研究は、多施設共同研究ですが、妊婦の高血糖を、ランク付けして、それぞれ出産との関連、新生児低血糖、臍帯血Cペプチド(新生児の血糖を反映)、死産、出産時外傷、妊婦高血圧などの関連をみています。今後も、データが発表されていくようです。

上記の、出産時の合併症の発生頻度は、リスクのない出産と比較して、妊婦の空腹時90 mg/dL 以上では2倍、ブドウ糖負荷後1時間後165 mg/dL以上では、 1.46 から1.52倍 に起きるとの数値をだしています。
 
負荷テスト1時間後妊婦血糖が、150 mg/dL 以上では、標準より体重の大きな子どもが、1.8倍から2.35倍に、生まれています。22:40 2011/08/23
妊婦の高血糖は、胎児の発育不全あるいは、巨大児などのリスクがあります。出産時のトラブルのリスクも高くなります。
 
しかし、妊婦の高血糖が軽度である場合、多く妊婦の場合は、出産後には、血糖が元に戻ります。妊娠中に限局した出来事であっても、軽度高血糖を示した妊婦は、将来、糖尿病を発症する確率は高くなると予想されます。しかし、出産後に、何10年にもわたり、健康な女性を追跡して研究するのは難しく、女性の健康に関する影響については、まだ、データは十分ではありません。
 
妊娠中の高血糖の程度をしっかり、把握し、長期の女性の糖尿病の発症をみていく追跡研究が、世界的に進行しています。妊婦の糖尿病発症の原因について、長期的に評価していくことが必要だからです。
 
妊娠中に起きる出来事については、それが一過性であっても、実は、将来、病気への発展を示唆させるものなのです。
外国では、女性の健康についての研究が盛んです。世界的医学誌ニューイングランドメディシンからの論文です。N Engl  J  Med 358:19,2008

多数の健康妊婦を集めて、ブドウ負荷試験を行いました。健康妊婦たちには、過去の糖尿病、HIV、B,C型肝炎などの感染症、生殖医療を受けた人などは除かれています。
 
妊娠24-32週の時に、ブドウ糖負荷テストを妊婦に行い、その時に得られた血糖の数値と、生まれた子どもの血糖などの健康状態を評価した成績です。この研究は、ミシガン大学内分泌学教室が中心となったHAPO (Hyperglycemia Adverse Pregnancy Outcome)と呼ばれている、大規模、世界的な研究です。米国、英国、タイ、中国、スエーデン、オーストラリアなどが参加しています(残念ながら、論文著者には日本の大学の名前がありませんでした)。

妊娠24-32週の妊婦25505人に、ブドウ糖負荷テストを行い、空腹時が105mg/dlを超える、あるいは2時間値が200mg/dlを超えた妊婦を除き(高血糖と判断)、それ以外の妊婦においては、介入なしで、出産までの経過と新生児の健康状態を観察しました。
 
今回の定義した高血糖の範疇に入らない妊婦は、23361人でした、35週目までに検査したブドウ糖負荷試験よリ得た血糖の数値を、7群に分け、(75未満、75-79、80-84,85-89,90-94,95-99,100以上)とし、それぞれの群ごとに、出産の経過を観察しました。
 
その結果、妊婦の血糖が上昇するにつれて、新生児の出産時体重が増加する現象が観察できました。その他にも、妊婦血糖は、新生児の状態に影響を与えました。
 
妊婦血糖と関係がみられたのは、出産時の新生児体重の増加、帝王切開の増加、新生児の低血糖頻度の増加でした。
 
妊婦の血糖は、新生児の臍帯血のC-ペプチド(CPR)と相関しました。
 
35週目までに検査したブドウ糖負荷テストの1時間値、2時間値も共に評価しましたが、空腹時血糖と似た相関関係を示しました。
 
妊婦の血糖が95mg/dlを超えると、体重の大きな子どもは、15%程度に、妊婦の血糖が100mg/dlを超えると20%程度に生まれました。

空腹時血糖が、1SD (6.9mg/dl)を超えるごとに、体重の大きな子ども(90パーセンタイルを超える)が生まれる確率が1.38倍に高くなりました。
 
1時間血糖が、1SD (30.9mg/dl)を超えるごとに、体重の大きな子ども(90パーセンタイルを超える)が生まれる確率が1.46倍に高くなりました。

2時間血糖が、1SD (23.5mg/dl)を超えるごとに、体重の大きな子ども(90パーセンタイルを超える)が生まれる確率が1.38倍に高くなりました。

血糖が75mg/dl未満の妊婦では、帝王切開は13%、100mg/dlを超えると25%前後でした。

空腹時血糖が、1SD (6.9mg/dl)を超えるごとに、帝王切開の確率が1.11倍に高くなりました。
1時間血糖が、1SD (30.9mg/dl)を超えるごとに、帝王切開の確率が1.10倍に高くなりました。
2時間血糖が、1SD (23.5mg/dl)を超えるごとに、帝王切開確率が1.08倍に高くなりました。

空腹時血糖が、1SD (6.9mg/dl)を超えるごとに、新生児低血糖の確率が1.08倍に高くなりました。
1時間血糖が、1SD (30.9mg/dl)を超えるごとに、新生児低血糖の確率が1.13倍に高くなりました。
2時間血糖が、1SD (23.5mg/dl)を超えるごとに、新生児低血糖が1.10倍に高くなりました。

その他の、出産時のトラブル(新生児仮死、新生児外傷、高ビリルビン血症、早期産などは、数が少なく、妊婦の血糖との有意な関係がみいだせませんでした。

負荷試験の解説
高血糖の程度が軽度な人の糖尿病を診断する時、ぶどう糖負荷試験を行います。空腹時血糖を測定した後、ブドウ糖75gを飲んで1時間後と2時間後に再び採血をして血糖値を測定します。場合によっては30分後、1時間半後、3時間後に採血をする場合もあります。
 
さらに、血中インスリン活性(血液中のインスリン濃度)、Cペプチドなどを測定します。
 
一般的な人の糖尿病の基準値と許容範囲
• 空腹時値…110mg/dl未満
• 2時間後値…140mg/dl未満 とされています。

C-ペプチド(CPR)とは、インスリンが合成される前段階の物質(プロインスリン)が、分解されるときに発生する物質です。インスリンと同程度の割合で血液中に分泌され、ほとんどが分解されないまま血液中を循環し、尿とともに排出されます。血中や尿中のC-ペプチドを測定すると、インスリンがどの程度膵臓から分泌されているのかが把握できます。