NHKの番組で、福島の放射能汚染の問題点について、ドキュメンタリーがあった。番組に登場した人たちは、皆、未知の数値にまごつき、対処を模索する必死の姿であった。

今は、このドキュメンタリーを撮影した時より、かなり、人々知識が進んだと思うが、この番組が作られた時点で登場した人は、混乱した情報の中で、悩んでいた。そして、急性障害と、慢性障害について、区別が十分でないようだった。この二つは、全く違うものであり、一緒に考えてはいけない。それにもかかわらず、不安をあおるような根拠のない口コミは、出回っている。例えば、5年後に、毛が抜ける!などとする、デマだ。毛がぬけるのは、急性障害であり、慢性障害ではない。
 
事故の規模や、汚染の程度は、チェルノブイリとは違うと思う。東京では、多くてもμ(マイクロ)の2ケタの単位の被ばく量であり、急性障害が起きる量からは、はるかに低値である。又、慢性障害についても、人類が未知の分野である。つまり、数値が小さいので、データが出せないレベルである。
 
ところが、そうした理解をしていない人が、結構いる。医師の中にも、その区別のつかない人がいる。医師の講演といえども、j信頼性があるとは限らない。医師は、原発反対の人が多いので、原発反対の仲間を増やす手段として、危険性を強調したりする。放射線医学をしっかり、日常業務として自分のものにしている医師でなければ、信用できない。
 
又、NHKの番組内でも、放射線医学研究所についても、誤解されていたと思う。
放射線医学研究所では、微量の放射線を浴びた人のための機関ではない。がんの放射線治療や、事故で大量の放射線を浴びてしまった人が、治療の対象である。原発事故が起きれば、高濃度汚染者を検出し、治療するための施設である。
 
NHK番組では、ここで、検査をした福島の人が取材されていた。彼らの検査数値は、危険なレベルからはるかに低値であった。しかし、危険をあおる情報におびえていた人たちにとっては、医師による検査の説明が不満だった。大丈夫であるという説明に納得がいかなかったのだ。安全であることを、もっと証明しろと考えたかもしれない。
 
微妙な放射線の危険を説明するのは難しい。時間も必要だ。微妙な放射線リスクに回答するのが、長期間観察の疫学データである。これを理解するのは難しいし、勉強時間がかかる。
 
しかし、どうしても、心配な人は勉強すべきであろう。医者は、100%保証することはできないのである。放射線量が少なくなれば、その影響に個人差が出てくる。浴びた人は、浴びない人に比べて、何十年間後に、がんのリスクが微妙に上昇する。そこをしっかり勉強して、個人が答えを出すしかない。誰かに聞いて、0?か、100か?の答えをもらうものではないのである。
 
放射線医学研究所では、心配ないレベルであるとことを強調したかったのであろうが、被験者の不安は解消せず、不満が大きく残ったようであった。今は、彼らの悩みは解消していることを願うばかりだ。
無視してよいと考えるのか?無視できないと考えるのか?個人で異なると思う。
 
核戦争のリスクをどの位に考えるのか?個人で、考え方が異なるのと同様である。心配な人は、核シェルターを買い込むしかないだろう。
 
実際問題として、ホールボディカウンターのような精密機器を用いて、数値を出したとしても、それが危険な数値でない場合、誤解の起きないように、どのように被爆者に伝えるのかは、難しい問題だ。
 
急性障害が起きるほどの量ではないという言い方は、簡単であるが、長期は難しい。医師は、短期しか、自信を持って答えられない。
 
放射線を浴びた人の長期的な影響なども、担当医は、話したかったかもしれないが、時間がかかる。結局、良く理解できる人が、次に又、理解する人へと、理解の輪を広げていくしかないのではないか?
 
 
番組に登場した専門家は、福島の放射線量を、いろいろ工夫して測定し、情報を提供してくれていた。屋外の高いところは、4μシーベルト、川沿いが高いとの報道だった。放射線が、木々や、泥についていた。

 
放射線量が高い家に住む家族に計測計を持たせて、1日測ると、この家の人たちは、10μシーベルトの放射線量のある環境にいたことになる。これは、内部被ばく量ではないが、単純計算すると、1年では、10x365日=3650=3.65ミリシーベルトの環境にいたことになる。

1年間でこの状態の環境が続けば、3.65ミリシーベルトとなる。ただし今後、新たな爆発でもなければ、落下した放射線量は減少していく。しかし、さらに放射線量が多かった時の状態は、不明である。
 
番組では、必死の洗浄作業により、半分に減らせたとの成果を報道していた。3ミリが、1.5ミリになったら、将来、どの位の効果がでるのかは、わからない。このような微量レベルで、データを出すは難しい(過去にデータが無い!)。どこまで、減らせば安心なのかは、それぞれの人の価値観で考えるしかない。
 
平時は、放射線の許容量は、年間1ミリシーベルト以下、事故後暫定値には、1-20ミリシーベルト、さらには、年間100ミリシーベルトまでは何とかOK,、さらに、原発作業員は、250ミリシーベルトが限度となっている。
 
こうした安全域の設定と言うのは、放射線だけではないだろうか?放射線に関しては、毒物学で設定できるような安全基準が無いのである。慢性障害は長期的なものであり、答えは容易にはでない。
 
それでも、気になると思う人は、除染を考えると思う。除染をどこまでやるのかについては、専門家でも、リスク・ベネフィットの判断が難しい。やらなくて良いとは言える根拠はない!しかし、除染をして、どの位の効果が期待できるのかの答えはない・・・。
 
広島・長崎の原爆関連の論文では、5ミリシーベルトの内部被ばく線量を基準にしている。5ミリシーベルト以上で、病気との関連を論じている。
 
私も、このブログで、放射線障害に関する論文の紹介をしてきたが、このブログから、放射線量と、病気との関連に関する記載を取りだしてみた。(詳しくは、それぞれのブログの論文にさかのぼってください)
 
1シーベルトごとに増加するがんの相対危険度は、0.63でした(63% 増えるという意味になります。つまり、放射線を浴びない場合、1人が、がんになる条件にあるとします。この条件下で、放射線を浴びた人なら、1.63人が、がんになるという意味です)。
 
100000人の人を集めた条件にすると、1シーベルト浴びたごとに、がんの人が 29.7人増えていきます。これが相対危険度の意味です。
 
結局、ここが理解できないと、安全性についての話を聞いても、「いつも危険はないとしか言わない!」と、不満になります。わからなければ、とにかく、いろいろな言い方をしてもらって、理解を深まるしかありません。
 
1シーベルトごとに増加した相対危険度は、胃がん0.32、大腸がん0.72、肺がん0.95、胸1.59、卵巣がん0.99、膀胱がん1.02、甲状腺がん1.15、肝臓 0.49、非黒色腫皮膚1.0となりました。神経組織のがんは、若年の被爆者に多く発症しました。
 
(がんの発症数は、1シーベルト上昇するごとに8倍上積みされる。
PMID: 15840883 J Natl Cancer Inst. 2005 Apr 20;97(8):603-5.
 
子宮内暴露集団からは、10人のガン死があり、1シーベルトごとの超過死亡の相対危険の推定値(ERR/Sv)は、2.1倍でした。この数値は、後5歳までに被曝した人のがん死と同率でした。
白血病は、被爆後すぐの15年で起こったのに対して、固形がんでは、むしろ、被爆者の加齢と関係しました。30歳で被爆した人では、生涯の固形がんの超過死亡は、1シーベルトにつき、男性0.10、女性0.14と計算されました。 50歳で暴露されると、がん死のリスクは、約3分の1に減りました。
 
1950-1990年の超過死亡の3 %が、最近5年(1985-1990)の白血病死でした。 白血病は、被爆後すぐの15年で起こったのに対して、固形がんでは、むしろ、被爆者の加齢と関係しました。30歳で被爆した人では、生涯の固形がんの超過死亡は、1シーベルトにつき、男性0.10、女性0.14と計算されました。 50歳で暴露されると、がん死のリスクは、約3分の1に減りました。
10歳、30歳で暴露された場合、白血病の1 シーベルト当たり超過危険は、男性0.015と女性0.008の推定値でした。 50歳で暴露された場合、約3分の2になると計算されました。
 
固形がんの超過危険は、3シーベルトまで線形モデル(線量と並行して死亡が増す)となりますが、白血病は、線形モデルとはならず、0.1 シーベルトの被ばく量を受けた人は、1 シーベルトを受けた人の1/20になると推定されました。
PMID: 8677290 Radiat Res. 1996 Jul;146(1):1-27.
 
30歳で原爆に暴露された場合、固形がん死は、70歳で1シーベルトにつき47%上がると計算されます(1.47倍になる)。
 
放射線効果が0.5シーベルト未満の場合は、非がん死亡とに、関連がありませんでした。PMID: 12968934
固形がん死は、70歳で1シーベルトにつき47%上がると計算されます(1.47倍になる)。