しばらくして、店の裏部屋で、目が覚めた。
真っ暗な世界から、急に明るい世界へと戻ってきたので、とても眩しい。
眩しい目を頑張って凝らすと、レイとリヤンが心配そうにのぞきこんでいた。
人間のセラフィムは、目覚めたシレットの様子を見て少し微笑むと、安心したように店の仕事へ戻っていった。
もうひとり・・・美しい金髪の髪をした、見知らぬエルフが、シレットの手を握っている。
優しい顔をしたその彼女は、手に珍しい杖を持っていた。
それは150cmほどの長さで、頂点には美しく輝くクリスタルがはめ込まれ、
全体にも色とりどりのクリスタルが幾何学模様にはめ込まれている。
長く人間界にいたシレットには、そういった光景一つ一つが、まるで夢の続きのように思えた。
(不思議ね・・・ちょっと前までは、そういう世界が私の日常だったのに・・・・)
思いながらも、傍にいるエルフと、その美しい杖を、シレットはまじまじと見つめた。
スカイ エルフ族
(「たしか・・・・確かあれは・・・・「天地白道の杖」じゃないかしら・・・・」)
シレットは、石を生業とする家系の娘だったので、石のアイテムには精通していた。
(「・・・・あの杖を使いこなしているとしたら・・・・相当なヒーラーね・・・・・」)
人間界に長く居て忘れかけていた、自分の直感が働くことに、安心しながら、
「・・・・だれ??」シレットはようやく出る声を振り絞って聞いた。
レイ「スカイよ。エルフ族でできた友人なの。ヒーリングが得意なのよ。」
シレットは、自分の記憶と感覚を取り戻せたことに安心して、深くうなずいた。
スカイ「ふふふ・・・あなたは、とっくにお見通し、だったみたいね。
さぁさ。とにかく、このお茶を飲んで、今は、何も考えないで。」
スカイが差し出すお茶を飲むと、それがまたとても美味しくて、一口飲むたびに、身体のあちこちに
エネルギーが通っていくのがわかる。
シレット「美味しい・・・・」
その様子を見て、スカイは本当に嬉しそうに教えてくれた。
「これはね、特別なのよ。エルフ族の友人のルシア から”魔法の水”を分けてもらってきたからね。
魔法の水で作る、癒しのお茶は、凄いのよ」
”魔法の水”という響きが、これまたシレットにとっては、新鮮で温かい響きだった。
ルシアの魔法の水で作られたスカイのお茶は、心にも身体にもどんどんしみこんでくる。
このお水はきっと、クリスタルの力も入っているのだろうと、今のシレットには確信できる。
おかげで、すごく相性が良いようだった。
(いつかルシアっていう娘にも、会ってみたいなぁ~・・・・)
ぼんやり、そんなことを思う。
お茶の一つで、こんなにも植物や作る人のエネルギーを感じられ、癒されるんだと感心しながら、
一方で、シレットの頭の中では、ゆっくりと今の状況の確認が始まった。
スカイ「シレットさん。 あなたは、相当疲れが溜まっているわ。ゆっくりすることが大切よ」
言われて、シレットははっとした。
シレット「あ・・・そうだ!!私、仕事に戻らなくちゃ!
今日は、ダイヤモンドが大好きなダイモ・ヤンドさんが、いらっしゃる日なの!!
いつも、とびっきりのダイヤモンドを買ってくださるのよ。
今日こそ、売り上げを取り戻すチャンスなの!」
レイとリヤンが、悲しそうにシレットを見つめる。
リヤン「シレット・・・・どうしちゃったの。自分を観てみて?
目がギラギラして、肌はすっかり輝きを失ってしまって。。。昔の優しくて穏やかなシレットとは別人だよ」
シレット「別人???私は、私だよ!私は成長したの!あなたたちには、解らないかもしれないけど!
今は、私はすごく頑張ってるんだから、邪魔しないで。
休んだら、今までの努力が無駄になっちゃう!
助けに来てくれたのは嬉しいけど、もう十分だから。帰って。」
シレットは、できるだけ早口で、強い信念を言葉で示した。
それを聞いたリヤンの目には涙が浮かんでいる。
それを見て、シレットの心がまた動揺したが、
今度は、胸の奥が、グラグラと揺さぶられるような、そんな動きだった。
今まで自分が作り上げた壁にひびが入るのを感じるようだった。
厚い壁に覆われて、乾ききった心が、
やっとできたその隙間から、一杯の清い水をごくりと飲んだ、そんな感覚がした。