境目岬に着くと、シレットは空を見上げ、口笛を吹いた。
スイットがスイッとスイッと、大急ぎで飛んできた。
嬉しさのあまり、しっぽがぐるぐると周っている。
「あんまり尻尾を回転させると、そのまま違う方向へ飛んで行ってしまうんじゃないかしら」と、
心配するほどだった。
普段落ち着いて、穏やかなスイットがあそこまで急いでいるのは初めてで、ちょっとおかしかった。
「スイットにも、心を落ち着ける、セラフィナイトが必要ね・・・・」そう思って、秘かに笑った。
スイットが無事、シレットの目の前に降り立った。
降り立ったときには、さすがはスイット、飛んできたときの興奮ぶりを隠して、シレッとしている。
さすが、シレットの馬だけはある。
スイットの首に手をまわして匂いを嗅いだ。
懐かしい香り・・・
もっと・・・もっと・・・・人間界に居ても、ちゃんとここまで歩いて来て、こんな時間を作ればよかった。
シレットは後悔した。
それでも、もしそうしていたら、自分の本当の心と、人間のルールの間で、もっと苦しかったかもしれない、
と思った。
「いろいろ、ごめんね、スイット。なかなか会いに来なくて・・・・。
人間界で頑張るためには、私の本当の心をどこかに置いておく必要があったの・・・」
ギリギリまで頑張り続けたことも、結果的には良かったのかもしれない。
助けてくれる仲間がいたのだから。
・・・そう思う事にした。
早速、スイットに預けた魂を、全部返してもらおうとした。
シレットの魂を宿した、きらびやかに光る宝石たちに閉じ込めた魂たちは、シレットへと還る喜びで輝いている。
エルフ族のヒーラー、スカイが止めに入る。
「だめだめ、やめておきなさい。少しずつ、よ。
まだ今、一気に取り戻すのは心にも負担がかかるわ。」
スカイの指示に従って、出来るだけ負担がないものを自分の魂に取り戻した。
たしかに、それだけでもかなり、影響が大きかった。
いかに、自分が今まで過酷な環境にて、大変だったのかを心で感じて、苦しくなった。
震える心を抑えるのが大変だった。
スイットに乗る前に、3人を振り返った。
「あなたたちが居てくれなかったら、私はどうなっていたことか・・・・
本当にありがとう。
人間界に、勇気をもって迎えに来てくれて・・・・!
人間界は、素敵な国だった・・・・
でも、ちょっと、怖い国でもあった・・・・・
まだ幼い私には、ちょっと難しかったけど、クリスタランドで自分を取り戻して、
それからもうちょっと経験を重ねて強くなったら、私は、また来るわ。
今度は、セラフィムみたいに・・・・
いいえ、自分らしく、自分のペースで、うまく人間たちと付き合っていきたいわ。
時々見せてくれる人間の心の輝きは、どの人も、とっても素晴らしいものだったもの!
それを見えなくしたのは、見えることだけにこだわってしまった、私自身だったんだと思うわ。」
3人は、うなずいた。
シレット「これから、3人は、どうするの?」
レイ「私たちは、せっかくだから、怖い人間界とやらを散歩してみるわ」
シレットは、「やめといたほうがいい・・・!」と、言いたくなった。
その表情を見て、リアンが言った。
「安心して。
見学だから大丈夫。
迷ったらレイのローブがちゃ~んと、正しい方向に連れて行ってくれるわよ。
自分を見失いそうになったら、シレットに返してもらった、天の玉石をこの3人で使えるしね。
スカイがいるから、病気も心配ないわよ。」
確かに、それぞれが素晴らしい個性を持った3人で、大丈夫そうだった。
でも・・・・
「あっ。それにね・・・心強い仲間が、もう一人、やってくる予定なのよ。
・・・あっ・・・・!イーリス!!」
イーリス エルフ族
イーリスと呼ばれた、エルフ族の女の子が走ってくるのが見えた。
手には美しく光る剣を持っている。
あまりの剣の輝きにびっくりしているシレットに対して、イーリスは優しく言った。
「あはは、安心して。これは、平和の剣なの」
イーリスは、凛として、それでいて優しい空気を身にまとう、魅力的なエルフだった。
「心から平和を願う者がこの剣を手にすると多大なる力を得ることが出来る剣なの。
そして、今のところ、私はこれをうまく使いこなしているのよ。」
そう言って、イーリスがサッと優しく剣を振ると、それに合わせて、優しい光が流れる。
スカイ「そうなのよ。それに、彼女は、立派な剣士よ。自警団のリーダーですもの。
一緒に居てくれれば、とても心強いわ
「なら、安心ね」シレットはすっかり感心して、微笑み返した。
スイットの上から眺める4人は、それぞれが、それぞれに美しく、輝いていた。
その景色が愛おしくてたまらなく、すぐに立ち去るのが惜しくて、美しい4人をしばらく眺めていた。
シレットは、久しぶりに二人に会って、倒れる前に、
頭の中で精一杯、出来る限りの言葉で毒づいたことを思い出した。
(「私ったら・・・なんてこと、思ったのかしら!
こんなにキラキラして魅力的な人たちの事を、ちゃんとまっすぐに見る目すら、失っていたわ。
本当に、もったいなかった。」)
スイットの上から、素敵な個性の4人を愛おしく見つめ、お別れの挨拶をした。
「また、会いましょう。
きっと、このご恩は返すわね。
4人とも、良い旅を。
くれぐれも、気を付けてね。」
そう言って、シレットとスイットは、本当の友人たちに見送られながら、クリスタランドへと帰って行った。
シレットの心と体は、実際くたくただったけれども、
その後ろ姿は、シレットが人間界に来た時より、はるかに輝いていた。
