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Terraの物語

心の中の物語

あっけにとられて、皆の顔をただ見ているシレット。
いろんな思いがやってきて、うまく言葉にすることができない。

まず先に、店主が、口を開いた。
「シレット。・・・よく、頑張ったな。
これは、持って帰りなさい。」

今まで、店主がシレットから回収した石たちだった。

シレット「えっ・・・でも・・・・。
家賃として回収したのでは・・・・?」

「いや。。。まぁ・・・これを回収したら、お前さんがもっとやる気を出すと思ったんでな。」

あっけにとられるシレットに、店主は続けた。

「・・・不思議なものでな・・お前さんの近くにあった時は、その石たちは輝いていたんだがな・・・
何故か、回収したとたん、驚くほど輝きが失せてな・・・
それでは、売り物にならんよ。まったく。」

やれやれと、困ったように苦笑いをする店主。
それから、飛び切りの笑顔になった。

「それにな。。。。わしは、良いダイヤ・・・・おっほん、いやな・その、まぁ、それだけのものは、
ちゃんと頂戴したからな。いいんだよ。わっはっは!」

今まで、いつも大きな声で、態度も飛び切り大きい店主を苦手に思っていたシレットだったが、
その豪快さが、今この瞬間は、悲しみや寂しさを吹き飛ばす力となり、とてもありがたく感じる。

もうこの場所を去るという、ギリギリになって、その良さをわかるなんて・・・
シレットは「なんてもったいなかった!・・・・・」と心で叫んだ。
同じ一緒に居るなら、今のような目で、店主の事を見ていたかった。

そう思いながら、シレットのもとに還った石たちを見つめると、どれもまた輝きを増してきた。

店主はそれを見て、

「うむ・・・不思議な事もあるもんだ」と、
まるで魔法を見るように感心している。

(そう。石は、魔法の力を持っているのよ!だから、輝いているの!)
シレットは、心でそう強く思ったが、それを言葉で表現するのは、なかなかまだ難しかった。

・・・そして、今、シレットの手の中で輝く石たちが、行き先を求めているのを感じた。

シレットは、すぐに決心した。

「あの・・・これ・・・・良かったら・・・・・
今までの、お礼というか、記念というか・・・」

恐る恐る、見送りに出てきた店の従業員の一人一人に、行き先がすでに決まっている石たちを手渡した。
それぞれの、手渡した人の手の上で、石たちは更に輝きを増す。
色ががらりと変わっていく石もある。

従業員たちも、その美しさに、目を輝かせ、心を躍らせているのが分かる。
今やシレットの首にかかった7色のジュエルは、驚くほど輝きを放ち、眩しいほどだった。

・・・シレットの7色のジュエルは、人の魂の個性を引き出す力がある。
身につけている者や周囲の者達が、楽しい気持ちになると黄色の宝石が輝き、
穏やかな気持ちになると緑色の宝石が輝いたりするのだ。

テラ・シレット・妖精族

今、その7色のジュエルの輝きに勇気をもらって、シレットは、言った。

「えっと・・・・今、皆さんに渡した石は、皆さんの・・心の輝きとリンクしているんです。
皆さんの心が輝いているから、石たちも光るんです・・・よ。不思議な事に。あははっ。

・・・・どうぞ、その石の輝きを見たときに、ご自身の心の輝きも思い出してください。
みなさんの心を大切にしてください。」

これを言葉に出して伝えるという事は、シレットにとって、とても勇気のいることだった。
ずっと隠していた自分の一面でもあった。

「こんなこと言ったら、頭がおかしいと思われるかも」という恐れもあったが、
もしかしたら最後かもしれないので、どうしても伝えたかった。
シレットは、皆の反応がどうなるか怖かったが、その心配をよそに、みんな満面の笑みで石を見つめている。

(・・・えっ・・・・・・・????
 ”心を大切に”という言葉を言う私は、”変”じゃ、ないのかな・・・・・???)

益々、人間の事がちょっとわからなくなったシレットだったが、
とにかく、その状況はとても素晴らしくて、皆の瞳の輝きと笑顔に救われた。
間違いなく、その瞬間、少しでも心に真実の言葉が届いことが分かって、シレットは嬉しかった。

皆がしんみりと笑顔に包まれる中、店主だけはとても照れくさそうにしていて、
「・・オッホン!!ま、とにかく、国に帰って元気がでたら、またいつでも働きに来なさい!
じゃ、わしは忙しいからな!またな!
皆も、もうすぐ、仕事に戻りなさい!あっ、セラフィムは、途中までなら送って行っても良いぞ!」

大きい声でそう言うと、
手渡した輝くルビーを大事そうに握り締めたまま、あっという間に店の奥に入っていった。

くすくす笑いが起こる中、シレットは店主の背中に有難くお辞儀をして、
それから見送ってくれた店の人たちに向き直った。

本当は、はじめからこうやって、自分の心を開き、現実に目に見えることに左右されず、
この人たちの心の蓋の、更に奥を見ていればよかったのかもしれない。
自分から、勇気を出して心の友として、歩み寄るべきだったのかもしれない。
今、皆の目の輝きに見て取れる心の美しさを感じながら、シレットはそう思った。

「皆さん、ありがとうございました。
 私・・・未熟者で、沢山ご迷惑をかけてしまいました。
 私は・・・・今になってわかる事や気づくことも多いです。
 もっと、皆さんと心から触れ合うべきだったかもしれませんが、未熟だったのでごめんなさい。
 もっと頑張りたいという気持ちもありますが、これ以上は、心と身体が限界になってしまいました。 
 次回お会いするときは、成長した私で、帰ってきますね。
 皆さんも、どうぞ、心を大切に、身体も大切に、本当の自分らしさで生きていってください」

そう伝えると、一礼して、皆の顔を見て微笑んだ。
・・・そして、その場から一歩、離れた。
皆は仕事へ戻っていく。
セラフィムだけが、店主の許可をもらって、途中までついてきた。

セラフィムと、今までの時間を埋めるように、あれこれ今までの事を話しながら歩いた。
必ず、また会う約束もした。
人間界は、妖精界と違って寿命が短いから、セラフィムが生きているうちに、戻る必要がある。

大きな目標が出来た。

途中からは、レイ・リヤン・スカイの3人と共に、境目岬へと歩いた。

来る時にワクワクとやる気一杯で、一人で勇み歩いた道は、
帰り道には、疲労感でへとへとでクタクタだったけど、なぜかとても充足感がある。
そして、仲間が居てくれるおかげで、とても心地よい安心感があった。