自らの心にも輝きを取り戻したシレット。
心が回復したことに加え、スカイのヒーリング効果も素晴らしく、どんどん身体に力が戻ってくる。
すっかり、クリスタランドへと帰るための、心と身体の準備が出来た。
「私にとって、大切なのは、”心”。 だったわ。
なぜだか、長く忘れていたみたい・・・
でも、すっかり忘れてしまう前で、本当に良かった・・・」
レイとリヤンは、人間界の店主に話をして、シレットをクリスタランドに返すことを報告しに行った。
店主は一瞬嫌そうな顔をしたが、
お詫びにと与えられた一粒のダイヤモンドで、すぐに機嫌を良くした。
シレットがクリスタランドへ帰ると聞いて、
セラフィムが、店からシレットの休んでいる裏部屋に走ってきた。
「シレットさん・・・・
帰ってしまうのね・・・とっても寂しいわ・・・・・」
優しくセラフィムがシレットの手を握る。
「でも。今はそれが良いわ。
私が、もう少し積極的にお手伝い出来たらよかったんだけど・・・」
そういうセラフィムは、今のシレットの目から見れば、とっても輝いて美しかった。
ちっとも「変わり者」なんかじゃない。
シレットは、ようやく気が付いた。
セラフィムさんは、人間界で、人間として生きながらも、”心”を大切に生きている人だったんだ・・・!
そして、それは価値のある生き方だった・・・・・
シレットは、本当は自分も、見た目の華やかさに捉われず、
セラフィムさんのように生きたらよかったのかもしれないと、後悔もしたが、
やはり、「成功」というものを体験してみたかったのは事実だった。
きっと、今回のような結果は、避けられないものだっただろう。
「もし・・・」「自分がこうしていたら・・・・」「もっと何かできたのでは・・・」
「セラフィムさんみたいに生きればよかった」
という思いがいろいろめぐって、
後悔の表情を浮かべるシレットに、セラフィムは全てを察したように、優しく微笑んだ。
「大丈夫。
私も、辛くないわけじゃないのよ。
今の自分の生き方を貫くのは、時に批判もされるし、仕事としては、評価もされない。
時々、辛く思える時もあるわ。
でもね。私も、昔助けてもらったことがあるのよ。
翼人族の国に行ったときの事なんだけどね。。。」
懐かしそうに、振り返るセラフィムから、もっと話が聞きたかったけど、時間がなかった。
セラフィムも、きっといろんな経験をしていたに違いなかった。
「この話は、また今度会った時に、ゆっくり話すわね。」
気が付いたようにセラフィムはそう言って、シレットの手を握る手を少しだけ揺すった。
それだけで、セラフィムの想いが伝わってくるようだった。
シレットは、今から去るというのに、もっとセラフィムと一緒に居たくなって、急に名残惜しくなる。
「あなたには、あなたの生き方や在り方がある。
私が正解、ってわけではないのよ?
私はちょっと、おっとりしすぎてるくらいおっとりしてるから(笑)
それは、私の個性でもあるの。
あなたが私みたいになろうとしても、ペースが合わなくて、逆にやきもきして疲れちゃうわよ?」
おかしそうに笑うセラフィムにつられ、シレットも少しだけ笑って、気づいた。
(また、私は「こうあるべき」と決めつけていたのかもしれなかった)
セラフィムは、シレットの思い込みを、優しく外してくれたのだった。
「でも、時々は、私の事を思いだして。
もっと早く、早く・・と思って焦る事があったとしても、
”セラフィムみたいに、のんびりしていいんだなぁ~”って、
思ってリラックスしてもらえたら、私もとても嬉しいわ。
リラックス、ってね。すごく大切なのよ?
自分の本当の在り方を思い出せるし、リラックスすることで、すごい力が湧いてくるの!」
そう言って、セラフィムは、自分の首にかかっていた、セラフィナイトのペンダントを手渡した。
「私に、そっくりの石なのよ。 優しくて、おっとりしてて・・・でもね、しっかりとした信念のもと、そうしているのよ」
セラフィナイトの石は、本当にセラフィムそっくりだった。
見ているだけで落ち着いて、優しい気持ちになってくる。
動物や子供が寄ってきそうな、そんなペンダントだった。
ふふ・・・・持っているだけで笑みがこぼれてきて、シレットは、7色のジュエルと重なるように、
そのペンダントをぶら下げた。
焦っていた気持ちが、嘘のように和らいでいく。
そうやって、セラフィムとシレットは少ない言葉のやり取りでも、十分気持ちが伝わって、
お互いの別れをじっくりと惜しんでいた。
そうしていると、驚くことに店主や他の従業員たちも見送りにやってきた。
その頃のシレットと言えば、ずいぶん「役立たず」で、嫌われていると思ったのでびっくりしつつ、
立ち上がって、頭を下げた。
皆が、シレットを見つめていた。
・・・シレットが今まで恐れていたはずの、それぞれの表情は、穏やかかだった。
それに呼応するように、シレットの首にぶら下がる、七色のジュエルも輝いていた。