リヤン「シレット・・・私達、友達でしょ?忘れちゃった?」
リヤンは、シレットの部屋に置いてあった、天の玉石をシレットの手に置き、その上に自分の手を重ねた。
「天の玉石」は、シレットが人間界に行く時に、心配だからと、リヤンが手渡してくれたものだった。
リヤン・妖精族
シレットはあまりの忙しさに、友人が渡してくれたそれを、ゆっくり感じる時間をとることさえできていなかった。
一見、懐中時計の様に見える神秘的な雰囲気を放つそれは、
表面には古代文字で『信』という言葉が刻まれており、中には光り輝くクリスタルが入っていると言われている。
シレットが持って行った、様々に光る宝石たちは、シレットが売り上げを落としてしまったため、
お金のために店主に持って行かれてしまった。
しかしこれはフタが固く、普通の者には空けることが出来ないため、一見古い懐中時計にも見える。
そのため、店主も興味を示さなかった。
運よくシレットの手元に残った天の玉石は、
親しい友から友へのと贈り物として届けられた際にフタが開き、そこに光輝く宝石が現れるそうだ。
その光は送られる人の心に合わせた色に輝き勇気や癒しを与え、見た者は幸運を掴むとも言われている。
本当の意味での、価値のあるものだった。
すっかり、誇りかぶったそれが、今二人の手の中で、この時を待っていたとばかり軽く開き、
美しく輝き始めた。
それは、はじめは優しくキラキラと繊細な光だったが、次の瞬間には
シレット達のいる薄暗い裏部屋をまるで太陽の真下に居るように明るく照らした。
太陽のような天の玉石の光に照らされていると、
シレットは、幸福感を感じる傍ら、たまらない気持ちにもなった。
「心の友達・・・・」
シレットの中に、ふとその言葉が飛び込んできた。
果たして自分は、心からの友達を、人間界で、作ることができていただろうか?
常に、「正解」の自分を求めて、ずっと自分の本当の心に蓋をしてきたシレットは、
いつしか、誰にも自分の本当の心を見せることが出来なくなっていた。
売り上げの金額や、いかに自分を美しく見せるか、人より優れて見えるか、
どれくらい社交的でいられるか、そういう事が大事だったから、話す話題もそんなことばかり。
シレットにとっては、それが人間との共通言語だったので、
常に自分がどのように見られているのかを気にして、できるだけ周りの期待通りに動いたし、
自分の周りの人も当然そうすべきなのだと思っていた。
「こうすべき」「ああすべき」という考えは、人から自分に向けられるだけではなく、
いつしか自分が発する、自分自身の価値観にもなっていった。
大切なことは、目に見えることだけだった。
比較的器用なシレットは、割としっかりと、その価値観のルールを守ることが出来たが、
心が苦しかった。
それを感じないようにするために、魂の力のほとんどは白馬のスイットの首飾りに預けていたのに、
残った心さえも、辛くなってきていた。
それを守るために、どんどん心に蓋をした。
もう、心がどうとかは、関係なかった。
心よりも、「行動」と「結果」がすべてだった。
でも・・・・・。
今目の前にいるこの人たちは、目に見える事には関係のない、心のままの自分を見てくれる。
私の心はこんなに荒れてしまったけど、それでも見捨てないでいてくれる。
目に見える、自分の言動の、その奥。
心の壁のその奥を、この心の友人たちは、いつも見てくれていたし、今も当たり前のようにそうしてくれている。
溢れてくる想いに、胸が詰まったのは、シレットだけではなかった。
レイとリヤン、そしてスカイまでが、シレットの心を感じて、涙を流してくれていた。
心の壁は、もはや必要がなかった。
シレット「リヤン・・・・・・!私・・・私・・・・・・・・!!!」
人間界で創り上げた自分の心の壁と、本来のシレットの心が激しくぶつかった気がした。
天の玉石の光が、シレットの心の輝きとなっていく。
その輝きに、今まで作り上げた壁が、大きく溶けていく。
シレットが感じていることは、そのまま三人にも伝わっていた。
言葉は必要なかったけど、シレットはちゃんと、言葉にして伝えた。
シレット「あぁ・・・・・私ったら!!
せっかくはるばる訪ねてくれた友人たちに、なんて失礼な態度をとってしまったの!!
ごめん。ごめんなさい。
そして、会いに来てくれて、ありがとう。」
そう言いながら、シレットは、どれだけ人間界で自分が孤独を感じていたのか、
本当の心で、感じた。
その辛さは、言葉で言い表しようがなく、ただしばらく、三人に見守られた安心感の中で、泣いていた。
すっかり、心に蓋をした状態が、シレットにとって「普通」になりつつあったが、
その「普通」が続いたとしたら、どれだけ大変なことになっただろうか・・・
本当に・・・・・この3人が来てくれなければ、自分はどうなっていたのだろう?
想像しただけでも、恐ろしかった。
・・・・そいうえば、どうして、3人は、ここに来てくれたのだろうか。
シレットは、ふと、疑問に思った。