昔はよく


「バレエはバレエのレッスンだけやっておけばいい」  


と言われていました。


他のエクササイズなんて必要ない。  バレエに必要なものは、バレエの中にすべてある…


そんな考えの方も以前はとても多かったように思います。


実際、バレエの超絶技巧を生み出してきた先人たちの時代には、今のようなジムはありませんでした。  

それでも人々は、驚くような技術と表現を舞台の上で築いてきた。  


今では当たり前の32回フェッテを初めて披露してと言われているピエリーナ・レニャーニの時代にジムもなければ画期的なエクササイズや解剖学的な知識などはなかったかも知れない…



そう考えると昔の方々が今の現状を見たら「バレエにはバレエだけで十分」という考えが生まれたのも、ある意味では自然なことだったのかもしれません。


でも、時代は変わりました。


今はジムに通うこともごく普通になり、  バレエのレッスンだけでは補いきれない筋力を、別のトレーニングで補う必要がある  と考える人がとても増えています。


実際、バレエ団の中にジムがある劇場もありますし解剖学の知識も広く入ってきて、さまざまなエクササイズも当たり前のように取り入れられるようになりました。


一見すると、昔よりずっと合理的で、身体にも良さそうに思えます。


けれど、ここでひとつ立ち止まって考えたいのです。


では今、ダンサーたちは昔より健康的に、怪我なく踊れているのか?  


そう聞かれたとき、100%「はい」とは言えないのが現実。むしろ怪我は増えています。


バレエ団にフィジオがいたとしても、トレーナーがいたとしても、どのバレエ団にも怪我人は必ずいて、  誰かが踊れなくなれば代役が立つ。  


それは今も珍しいことではなく、むしろ当たり前のように起きています。


これだけ多くの知識があり…


これだけ多くのエクササイズがあり…


これだけ「身体に良い」とされる情報が溢れているのに…


なぜこの現実は変わらないのでしょうか。


私はそこに、今のバレエ界が抱える大きな課題があるように感じています。


解剖学やエクササイズは、本来とても有益なものです。身体を知ることは、自分を守ることにもつながります。筋力を補うことは、踊りを支える助けにもなります。


でも、そのはずのものが、いつの間にか主役になってしまうことがある。


本来、解剖学もエクササイズも


「バレエという芸術・表現手段をより高めるためのツール」  


であるはずです。


それなのに、優先順位が逆転してしまい、  バレエそのものよりも、知識や筋力づくりの方が前に出てしまう…


いわゆる「スポーツ的なバレエ」が優先となり、培った筋力を披露するような作品(19、20世紀では考えられないような)不必要な「身体能力自慢」に特化した作品が世に出るようになり、エスカレートしているのが怪我が減らないのでは?


そんな話を耳にすることが、本当に増えました。


左右木健一


②に続く…