『なみだのファインダー』~原爆投下当日のヒロシマを撮る | 明日を夢みて

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 昭和20年8月6日。中国新聞社のカメラマンだった松重美人さん。自身も被爆しながら、原爆投下直後のヒロシマの様子をカメラに収めました。

 

 本書は2部構成になっており、前半には松重さんの体験手記が収録されています。

 

 松重さんが撮影した写真は、5枚。

 

 御幸橋西詰の電車道路中央千田町寄りまできて、ためらう間断のときをふりきり、1枚のシャッターを切りました。この1枚目のシャッターを切るまでに30分はためらいました。

 

 1枚シャッターを切ると、不思議に心が落ち着き、近づいて撮ろうと思うようになりました。

 

 10歩(5、6メートル)ほど近づき2枚目を撮ろうと、ファインダーを覗いてみるとあまりにもむごく、涙でファインダーが曇りました。

 

 死ぬか生きるかの人を、追い立てられる思いで切った2枚目のシャッターは、あふれ出る涙の姿です。

 

 体内に秘めている記者根性とでもいうか、アップでもう1枚と、被災者の集まる派出所前へ進みましたが、そのは死者、負傷者で埋まっていました。カメラを向けるには、あまりにも更にむごい惨状でした。
(27-28ページ)

 市内の電車通りを紙屋町へ向かうと、電車が停まっていました。

 

 当時の電車は、運転席は客席の外にありました。運転席のステップに足を掛け、乗客席を覗いてみると、一瞬、恐怖の髪の毛が逆立ちになりました。そこには、車内の前方へ約十数人折り重なっている乗客の死体がありました。吊り皮を持っている人、座っていたと思われる人が折り重なって死んでいるのです。爆風で一瞬に押し潰され、内臓が破裂し、そのまま猛火につつまれたのでしょう。目を開けたまま亡くなっておられた姿を見ると背筋に寒気を感じる恐ろしさでした。

 

 この様子を写真にしようと思い、カメラに手をかけましたが、十数人の死体が、私を一斉ににらんでいるようにみえ、ためらわざるをえませんでした。結局、むごすぎてシャッターを切ることができませんでした。
(35ページ)

 ほんとうに酷い光景は、写真には撮影できなかったということでしょうね。

 

 松重さんの撮影された5枚の写真(御幸橋西詰の被災者2枚、被災した松重さんの自宅2枚、宇品警察で罹災証明を書いている巡査1枚)は、本書の冒頭に掲載されています。

 

 また、 広島平和記念資料館の本館に入ってすぐのところに、松重さんが撮影された写真が大きく引き伸ばされて展示されています。

 

 後半が2002年に広島平和記念資料館内で開催された、松重さんと彼が8月6日に写したその写真に写っていた女学生・河内光子さんとの企画対談です。

 

司会 松重さん、河内さんとお会いになったお気持ちはいかがですか。

松重 (涙……)

河内 松重さんに、お会いして、親戚の人に会ったような気がします。

松重 長生きしてよかったと思います。本当に感無量です。
(43ページ)

  原爆投下直後の広島の様子を、松重さんは次のように語っています。

 よけて歩かなくてはならないほど、たくさんの死体がありました。それはもう、あるというのではなく、死体をばらまいたという状態でした。
(45ページ)

 

 河内さんは電鉄の本社斜め前にある貯金局という所で学徒動員に駆り出されていたところで被爆されました。「宇品へ逃げようか、出島に逃げようか」と思案している姿が、この写真とのことです。

 

 

 いとこの三角襟のセーラー服を河内さんは8月6日に着ており、それで写真に自分が写っているのがわかったそうです。
 河内さんの父親も被爆しており、「父の手を引っ張ると、ズルッと一枚ずつ皮膚がむけていくのです」(53ページ)という有り様でした。

 

 最後に、松重さんと河内さんのメッセージを引用します。

 地球上の人類がすべて平和に暮らせることが、一番良いことではないかと思います。

 本当に日本だけでなく、世界のすべての人が戦争はしてはいけないと思います。
(松重さん、54ページ)

 

 皆さん、戦争は殺し合いなんです。戦争だけはいけません。人が人を殺す権利はありません。皆、尊い命なんです。出来る限り、いえ絶対に話し合いで、何でも解決してほしいですね。

 そして、欲を出して「よその国を自分の物にしたい」とか、「あの人がこう言ったから、やっつけてやろう」とか、そのようなことは絶対にいけないことです。本当に戦争は殺し合いです。人の命くらい大切なものはありません。親から授かり、育ててくれた命を殺すなんて権利は、誰にもありません。

 皆仲良く、本当に仲良く、平和に暮らしたいですね。
 よろしくお願いします。
(河内さん、55ページ)