国宝 | ミラノの日常 第2弾

ミラノの日常 第2弾

イタリアに住んで33年。 毎日アンテナびんびん!ミラノの日常生活をお届けする気ままなコラム。

 

第49回日本アカデミー賞で10冠に輝いた映画『国宝』が、ついにイタリアで上映されるようになった。

 

イタリア版は、4月28日、アジア映画に特化した映画祭「第28回ファー・イースト映画祭」での上映を機に、30日から同国内各地の主要映画館で公開なのだが、今日は李監督の舞台挨拶があり出かけて来た。

 

 

 

 

ちなみにタイトルは、「Kokuho - || maestro diKabuki(国宝 歌舞伎の師匠)」。(どうして、翻訳されると常に変なタイトルになってしまうのだろう?苦笑)

 

舞台挨拶の中で、李監督が影響を受けた映画について、質問があったが、中国の最後の女方の話である『さらばわが愛』いう京劇を紹介されていた。

 

日中戦争や文化大革命などを背景として時代に翻弄される京劇役者の小楼や蝶衣の目を通して近代中国の50年を描く。原作は李華同名小説。(Wikipedia抜粋) 1993年第46回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール受賞している。

 

また、戦後ローマでたくましく生きる市井の人々と権利を渇望する女性たちの姿を描き、2023年のイタリア国内興行収入第1位を記録した映画、『ドマーニ! 愛のことづて』にも感銘を受けたと仰っていた。機会があれば是非この2作品も観てみたい。

 

ところで、本映画のポスターは国によって異なるようで、上記イラストの元の画はこちらだったという。

 

 

歌舞伎では舞台化粧を役者が自分自身で行い、そして化粧をすることを「顔をする」と言うのだそうだ。

 

ちなみに、肌の色については、白は善人、高貴な人物などを示し、肌色は町人や小悪人、赤は悪人の手下というのが基本なのだそうだ。

 

それにしても、全く内容も知らずに観に行ってしまった。(敢えてだが…)

 

極道の一人息子として生まれたキクオは、新年会で歌舞伎の女形を演じた夜、抗争により父の死を目の当たりにする。新年会に招かれていた歌舞伎役者の花井半次郎に引き取られ、彼の息子シュンスケと共に芸の道を目指していくというストーリー。

 

一瞬デジャブーか?と思ったのが、ハルエを演じた高畑充希の夫である岡田将生が、何か日本の伝統芸能をお師匠様の元で指導を受け、良きライバルとの友情やら博愛、そして執念を燃やした人間ドラマだった気がするがあれはなんだったのだ...?と上映中頭に中でぐるぐる回っていたが、最終的にそれは「落語」に世界を描いた「昭和元禄落語心中」であったと思い出した。

 

また、キクオと隠し子を作ってしまう祇園の女性役は、現在のNHK朝ドラ「風、薫る」のりんちゃんではないか!1人喜んでしまった。笑

 

ところで、映画はオリジナルの日本語版、イタリア語の字幕が下に出ていた。ただ字に集中してしまうと、画面が見られなくなってしまうので観ないようにしていたが、演目を知らない場合は、イタリア語で説明していたようにも思われた。

 

また友人曰く、日本語だと曖昧で余白のあるセリフのところも、イタリア語を読むとはっきり言っていて、そういう意味か、と思っと言う。日本語の間、余白と言うのは、日本人でも難しくなって来ていると言うことか。

 

それにしても、この映画は歌舞伎界を事細かく描かれて、またその演技も想像を絶するものであった。

 

原作者である吉田俊一氏は、自らが3年間歌舞伎の黒をまとい、楽屋に入った経験を血肉にし書き上げられたと言う。また李監督とは『悪人』『怒り』に続く3度目の映画化であったと言う。

 

もちろん脚本も良いのだろうが、キャストも良かった。キクオ役の吉沢亮の存在感も素晴らしかったが、横浜流星演じるシュンスケは、子供の頃から歌舞伎の世界で育ってきた人物の役であるから、当然歌舞伎をマスターしているがごとく修練していなければならない。彼らはそれをどこまでも追求するストイックさを備えている俳優ということだ。

 

映画の中で、歌舞伎界の重鎮である千五郎は、その威厳と存在感は 多くの役者たちから尊敬を集める人物であったが、そんな千五郎を演じるのは、実際に人間国宝を父に持つ四代目・中村鴈治郎氏であり、彼自身も歌舞伎指導を担当し、本作に深みを与えていた。

 

死なねばならぬ品なるが〜、死ぬる覚悟が聞、き、たい〜.... (もうこのセリフが脳裏から離れない…)

 

イタリア語訳は読まなかったが、やはりあれは日本語だからこそ心に響くものだと思う。

 

キクオとシュンスケの生き方。またハルエはなぜ、シュンスケと一緒になったのか?それは狡さではなく、キクオへの愛と信頼があったからか?シュンスケの母親の家と血筋を守る生き方、隠し子であったアヤノの父を憎みつつ、最後に明かす愛情…。涙なしで観られない。

 

映画の前にアペしませんか?と友人に誘われたが、いやいやアルコール入ったら寝ちゃうから、と断ったが(笑)、初めは映画館の柔らかい椅子に体が溶けるようで、一瞬記憶が飛びそうになりつつも、エンタメとはいえ、血を求めて悪魔と取引する?!物語にグイグイと引き込まれてしまう3時間弱であった。(原作よりかなり短くなっていたと言う話)

 

もう一度観て、原作も読みたいと思った。

 

上映後、誰もいなくなったシアター。

 

 

日本語版は5月3日まで10時より上演。