久々の読書。
弟に薦められて重いのに日本から持ち帰ってきた。笑 とはいえ、一時は「寝ても冷めても奥田英朗」の時期があり、好きな作家の一人。彼の本は結構持っている。
一気に読めるよ、と言われていたが、物語的にはかなりのスロースターターで、進まないな...と思っていた。
しかし、それは奥田流、重厚な物語の舞台背景を説明しつつ、読者を引き込んでいく技なのだ。大人しく身を委ねてしまうとぐいぐい引き込まれていき、寝る間も、食事も惜しんで読み切ってしまった。
昭和三十八年。北海道礼文島で暮らす漁師手伝いの青年、宇野寛治は、盗みをはたらき東京へ逃亡する。彼が東京で暮らし始めてからまもなく、起きるある強盗殺人事件。その事件を刑事側からと容疑者側から描いていく長編小説なのだが、1963年に起きた「吉展ちゃん事件」がベースとなっているという。
また、背景には東京オリンピック開催準備のため、どこも工事中でどこか落ち着かない世の中。読んでいて、あれ?と思った。奥田氏の著書に、「オリンピックの身代金」というのがあり、2008年に発表されているが(2013年にドラマ化)、内容的には、本小説より2年あとの話となり、登場する落合刑事(竹野内豊)をはじめ同じ刑事軍が登場する。本来はあちらが続編だったのか! 是非ドラマ化してほしいが、落合刑事の妻役は上記ドラマでは、今や福山雅治の妻、吹石一恵だった!うーん、キャストはもう少し若めにしてしきり直そう!と勝手に頭の中で妄想が膨らんでいく...爆
「悪さっていうのは繋がってるんだ。おれが盗みを働くのは、おれだけのせいじゃねえ。」
軽い気持ちで盗みをしたことから、殺人に繋がったり、場当たり的に大きな事件に発展することはいつの時代にも起きている。しかし、人間は生まれながらにして悪人などいないだろう。環境やタイミングなどで、徐々に、徐々に悪の道に踏み出してしまうのか?新聞やワイドショーなどでは、必ず犯人の子供時代を掘り返し、親やまわりからされた仕打ちなどの過去を暴き、その犯人の得意な人格がいかに形成されたか焦点を当てる。鬼畜の所業を目の当たりにした時、何か理由を見つけないと、人は不安で仕方ないのだろう。
読後はただただ気が重く、やり切れなさが残ったが、都会と田舎。めまぐるしく変化する東京の中で孤独な魂。緻密な心理描写と圧倒的リアリテイである傑作に衝撃を受けた。
奥田氏の作品は、注射好きで子供じみた言動の精神科医が活躍するユーモア連作『空中ブランコ』(2004年直木賞受賞)から入り、ゆるゆる系のイメージがあったが、毎回作風が変わって意表を突かれる。奥田氏の作品、デビュー作から読み直してみようかな。
