自叙伝 | ミラノの日常 第2弾

ミラノの日常 第2弾

イタリアに住んで32年。 毎日アンテナびんびん!ミラノの日常生活をお届けする気ままなコラム。

先月、87歳の日本人シスター、シスターパオラが転倒し大腿骨を骨折した。

 
大腿骨近位部骨折をおこした場合、手術に耐えることができる体力があれば一日も早くベッドから起き上がり、自由に動ける状態になれるよう手術が行うのはイタリアとて同様。骨折したところを金属で固定したり人工関節を入れることで、リハビリができるようになれば、気力や体力を回復させて寝たきりを回避することができる。
 
リハビリが始まったが、体重は30キロそこそこしかないというのに、足が100キロ以上の丸太のようで持ち上がらないわ、とシスターはおっしゃる。室内のトイレに移動するのもままならないのに退院された。というよりも、させられたから驚いてしまった。
 
病院にいた際は、毎日午前中リハビリがあったが、養老院に戻ると50数名のシスター所帯。受付も看護師も現役ではあるが皆70歳以上で、80歳以上も多い。なかなかじっくり歩く練習をさせてもらえないようだ。
 
入院中、週に数回面会に出かけていたので、同室の方々はもちろん、ヘルパーさん方とも親しくなり、本来はシスターにぼけないためにも折り紙を持って行ったり、あやとりを持って行っていたのにもかかわらず皆周りの方に分けてしまい、その方々にお礼を言われる。「鶴は平和のシンボル。あなたのことは忘れない。」会うたびに言ってくれる人もおり、その度にぐっときてしまった。
 
また、同じ階に日本人が入って来たわよ、と婦長さんに言われればそちらの部屋を訪ね話を聞きに行き、行くとなかなか帰れなくなった。苦笑
 
入院中、一瞬、シスターが痴呆が始まった?ということもあり、焦ったが、何がすごいって、「先週の土曜日から私、何か変なこと言っているでしょう?」といわれ何か違和感を意識されておられたし、着替えを手伝う際、つかまり棒につかまって懸垂のように体を浮かばせる腕の力には驚かされた。「シスター、自叙伝を書きましょう」と進めると、初めの頃は「くだらない。」「なんで自叙伝なんて書かなきゃいけないの!」と相手にもされなかったが、何がどうされたのか?病室の赤褐色に縞模様の入った木の扉が、あれはお仏壇の木よ、と毎日おっしゃるようになり、なぜか最後に「自叙伝書きましょうかね?」と言われるようになった。多分「紫檀」と呼ばれる、確かに仏壇に使われる木の一種のようで古くから工芸材料として使用され、宝物として残される唐木細工にも数多く見られるようで、三大唐木として知られる銘木だという。きっとその扉の木を見て、シスターのルーツとでも言おうか、何か人に伝えなくてはならないものを感じたようだ。
 
1979年9月30日生まれのシスターパオラは、この秋で88歳。米寿を迎えられる。加賀100万石の前田家を支える名家の1つに生まれた母親と百姓だった父親の間に8番目の子として命を授かり、それはそれは皆に愛され、人を疑ったこともないわ、とおっしゃる。
 
お母様はミッション系の学校に通われ、英語も堪能でアメリカ留学を希望されておられたほどの才女でシスターは子どもの頃、英語は母親に学び、またキリスト教も母親から学んだとおっしゃる。8人兄弟の末っ子というから、さぞかし、甥っ子姪っ子を始め親類は多いと思われるが、キリスト教を誰にも伝えなかった。それだけが心残り、とおっしゃる。また、シスターがなぜシスターを目指すようになられたかは、本当に神の導きだと思った。
 
それを是非とも本にしていただきたいのだ。
 
あなたは、人の話をよく聞くわね。そして、よく驚くわね。いい性格してるわよ、と笑われる。元カウンセラーのシスターにそう言われると嬉しいものがある。
 
夏休みで帰国してしまうけれど、戻ってくるまで待っていてくださいよ。88歳を一緒にお祝いしましょうね!と伝えた。
 
シスターを慕う兄弟姉妹たちの使命として、是非ともシスターパオラの自叙伝を共に夏休み明けに書き始めてみたい。