ミラノの芸術家 ~ kotori | ミラノの日常 第2弾

ミラノの日常 第2弾

イタリアに住んで32年。 毎日アンテナびんびん!ミラノの日常生活をお届けする気ままなコラム。

イタリアは芸術の国。 
なので、邦人芸術家も多い。 
ミラノ・フィレンツェ・ローマ・・・あちこちに日本人の芸術家がいる。 

復活祭後にミラノサローネ国際家具見本市が開催されるが、出展料が高かったり、何かと規制の多い見本市を嫌い、ミラノ市内の家具デザイナー・中小家具メーカーの関係者による、自由な発想で、創作したものを展示するFuori Salone(フォーリ・サローネ)も催される。最近のフォーリ・サローネは、トレンドな話題性と世界に発信する情報力の強さから 世界の著名な企業が商品あるいは企業のブランドイメージを高める為にフォーリ・サローネへの出展が続き その相乗効果が急拡大しており したたかなイタリアデザイン業界の思惑と重なって フォーリ・サローネがより魅力的で話題性の高い世界的な大イベント発展している.。 

・・・というわけで、私もニット商品を出しているブティック・tourbillonも家具屋ではないが、インテリアの一貫で、フォーリ・サローネに参加する。陶芸作家を探して欲しい、という依頼で、全くわからない分野だったが、あちこちコンタクトを取り、私も数人確保。(私、人材派遣会社じゃないんだけどな・・・笑)そのうち、陶芸及び彫刻作家というアーチストのYukohさんと接触。メールでもお電話でもとても、感じの良い方で,是非近い うちにお会いしましょう、ということだったが、なかなか時間がとれず、逆に彼女の個展に直接お伺いしてきた。 

とても気さくな大阪出身の方。なんだか初めてお会いする気がしませんでした・・・と早々にメッセージを頂いたが、私も昔からの知り合いのような気がしてしまったから不思議。 



作品は、下記評論にもあるが、自然から採取した樹木や枯葉や羽毛、また鳥などの写真をコラージュとして、上に薄い絹の生地が二重につけられ、胡粉や鉛筆、パステルで描かれる。繊細且つ非常に幻想的。 

Tourbillonでのフォーリ・サローネでは彼女のテラコッタ作品が見られる予定。楽しみだ。 

ARTE GIAPPONE 3月28日まで。 
Vicolo Ciovasso 1 

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yukoh の作品理念の根底には、民族信仰や自然信仰を基盤とした日本固有の宗教である「神道」の影響が大きい。古来、日本人は山や海、草木や巨石といった万物に魂が宿ると信じ「八百万の神」とし、自然の恵みに感謝し、自分が生まれた土地の神様や先祖の霊をもてなし祀ってきた。「神道」には、このような「精霊崇拝」と、亡くなった人を神として祀る「祖霊信仰」のふたつの理念から成立している。 

「キリスト教」社会を形成するイタリアでは、理解しにくいかもしれないが、日本の「神道」は森羅万象に神が宿るとする多神教世界であり、「キリスト教」文化圏は一神教の世界観でその違いは歴然であろう。「八百万の神」という価値観の多様性に富んだ「神道」と唯一神の「キリスト教」には大きな隔た りがある。歴史的には、気候や風土や地理的環境によって、そこに住む人々の自然観や世界観に違いが生まれたといえる。イタリアと日本の自然や風土や宗教の違いは、自然観や精神的風土の違いを生み、芸術表現にも差異を示すことになった。その「神道」に興味を持つyukoh 
の絵画は、自然から取材した樹木や小鳥などの写真をベースに胡粉や鉛筆、パステルで描かれる。または枯れ枝や羽毛なども使われる。作品のサイズはいずれも小振りであるが、その小さな画面の中で、自然の精霊たちが大きく飛びかい幻想的な世界と物語が生まれ繰り広げられる。 

今回の個展のタイトルは、「kotori」。神の使いのような意味を持つちいさな鳥は、自由気ままに飛び交いその敏捷で華麗な動き、さえずり、生を謳歌しているような存在にみえる。だが、yukoh は「小鳥は生きた目に見える精霊。あの鳴き声はシュタイナー的にいうと、鳥の歌声はエーテル的宇宙を越えて神霊宇宙に結ばれる。鳥は死ぬと、精神化された物質を精神界に運んで行く。空気の精は死んだ鳥の精神化された物質を高みにもたらしそれが天使群にすいこまれる。」と記述する。シュタイナー的と語るyukohだが、これらは前述の「神道」の「祖霊信仰」に近いものを感じる。生を謳歌する小鳥さえも、生と死は宿命となってあらわれる。それらは、命あるものの儚さをうたった日本の伝統的な美意識でもある「無常観」に貫かれたものだ。しかし、この「無常観」という概念は仏教的なものである。 

6 世紀にインドから中国、朝鮮半島を経て日本に伝来した「仏教」は、外来宗教である。他方、日本固有の宗教である「神道」は、3世紀に原初的形態があらわれ、7世紀には「古事記」と「日本書紀」というかたちで最重要書物、日本正史として編纂された。各地に存在した八百万の神々は、土地や氏族の守り神として体系化されたのだ。「神道」と「仏教」が交じり合う「神仏習合」という両者の相互補完は、仏教伝来以降、約1500 年に渡り、日本人の精神の礎である。その精神が現在も生きているという証しが、yukoh の作品から見てとれる。Yukohは、日本の伝統的な「神仏習合」というハイブリッドな宗教的世界観を現代に活かし、芸術表現としている美術家といえよう。 

「ハイブリッドな宗教的世界観を現代に活かす」加藤 義夫(キュレーター/美術評論) 


http://www.yukoyukoh.com/ 
http://www.artegiappone.com/ 
http://www.milanosalone.com/ 
http://fuorisalone.it/2013/