宮澤賢二の世界に一歩踏み込んでしまいました。
昼の散歩と昼食を兼ねてフレングランスデザイナーの山下先生と、私の絵を新商品用のデザインにアレンジしてくれている稲葉さんと3人で山茶花の花を垣根越しに眺めながらブラブラしていました。
とある一軒の玄関口に、「○○坂の○○珈琲店」と、長方形のダンポールの切れ端に書いてあるのに興味を惹かれて、玄関口を伺っていると一台のタクシーが停まり、中から還暦を越えたとおぼしきよれよれ和装の男性が降り立ち、「どうぞお入りください。私がここの珈琲店の店長です」と宣言するので、好奇心が湧き、男性に導かれて和風家屋の入口に立ちました。
そこには、男性用の下駄が10足ほど脱ぎ捨ててありました。
デザイナー女史は恐れおののき、「約束があるので。」と言い残し立ち去り、嫌がる山下先生をうながし靴を脱ぎ、上がりました。
上って左が物置らしき部屋。
その次が和室らしき部屋。
玄関上がって突き当たりが台所でした。
「どうぞ、どうぞ。」と店主に促されましたが、左の部屋のテーブルらしき台の上には、浮世絵の葉書、ライター2ダース、ヘップバーンの写真集、古式カメラ数台、ヒットラーの著書や航空母艦の本等々が山積みされ、座るどころか、立っていても落ち着く場所さえありません。
店主は突然、サービスのつもりか甲高い声で民謡を歌い始め、5秒程のち、「コーヒー一杯500円。ブルーマウンテンは3000円。」とのたまいました。
私は腹を決めて、足回りの衣類を脇に押しやり居場所をつくり、「ところで、貴方の御本業はなんですか?」と聞いてみました。
店主は、「大学の先生!!」答えて、再び民謡を歌い始めましたが、「ご専門は?」と重ねて訊ねますと、「英語」と返事が返ってきました。
そうこうするうちにコーヒーが出来たらしく、カップが2つテーブルの物と物の間に置かれました。
紙コップでした。
それに追い打ちをかけるように、「ミルクと砂糖はありません。」と念を押されました。
毒を盛られていないかと思いながら思いきってすすってみると、マイルドな味がしましたのでまずは安心しました。
コーヒーを飲み終えて御勘定の段になり、昼食代で千円札が無くなっているのに気が付き、ハタと困りました。
一万円札を出して釣銭が返って来ない可能性を予感しましたが、私と山下先生のコインを集めて何とか1000円の支払いが出来ました。
玄関を出て、何時もは通らない道に入り、後を振り返りながら、早足で事務所方向にと帰路につきました。
恐らくこの気分は、賢二の ”注文の多いレストラン” そのものでした。
(2011.12.12)
