どうして!?




どうして奥村くんが!?




どうしてどうして




よりによってこんな時に…



よりによってこんな顔の時に…




やっぱり神様はイジワルだと思う。




知らんぷりして逃げちゃおうか?




よし!聞こえない振りしよ!




「待って!玲奈ちゃんだよね!」




うわ~!近づいてきたよ~!歩くの速いよ~!




腕を軽く掴まれる。




もう逃げられないや。




観念して、顔は向けないまま頷く。




「どうしたの?」




と聞いて私の前に回り込んだ奥村くんは、涙で化粧も落ちかかった私の顔を見てびっくりしてる。




ああ、穴があったら入りたい…




「どうしたの!?何があったの!?」




通りすがりの人達から見たら、まるで奥村くんと私がケンカでもして私が泣いているみたいに見えたかな…



「…ごめんね」




「なんで謝るの!?とりあえず俺で良かったら話聞かせてよ」




「うん…ありがと…でも悪いし…」




「んなことないよ!てか、このまま帰ったら俺、気になって寝れないよ!」




その言い方がおもしろくて、ちょっと和んだ。




「…ふふっ、ありがと…じゃあ…あっ、その前に、トイレに行ってきてもいい?鏡見たい…」




「あっ、そっか、うん、待ってるから。ゆっくりでいいからね」




優しいなぁ…




トイレの洗面台の鏡を見たら、アイラインは取れて目の下真っ黒。




とりあえずティッシュで拭って、なんとか見れる状態にして、急いでトイレを出る。




奥村くんは、ちょっと離れたところの、柱に寄りかかって待っていてくれた。




「もしまだ時間が大丈夫なら、コーヒーでも飲まない?」




と、連れていってくれたのは駅構内にあるセルフサービスのコーヒーショップ。




時間が時間だけに、店内は人もまばらだった。




「今日はデートの帰り?」



席につくと、何気なく訊かれた。




「えっ?どうしてわかったの!?」




「だってさー、この間会った時と全然格好が違うんだもん」




「あ…だよね…」




この間はジーンズ、今日はファー付のコートにスカート、ブーツだもんね、一目瞭然だよね。




なんか恥ずかしくなって、私は話題を逸らす。




「奥村くんはどうしてここに?」




「仕事帰りだよ。いつも、この駅で乗り換えるの」




「そうなのか…」




「で、どうしたの?今日は?何があったの?そんな可愛い格好してるのに泣いてるなんて…あ、言いたくなかったらいいんだけど…」




「ううん、大丈夫。心配かけてごめんね。実は…」




と、いったん話し出すと、意外にも言葉は止めどなく溢れてきて、隆史には言えなかった気持ちまで吐き出してしまった。
どうしよう…




このチョコ、誰からのだろう…




聞いてみたいけど…




怖くて聞けないよ…




意気地無しの自分が嫌になる。




でもさ、義理チョコかもよ?




聞いたほうがラクになるかもよ?




ほら!勇気出せ!




「玲奈?地図あった?」




「あったよ!はい!」




「さんきゅ!」




雑誌を手渡してからさりげなく聞いてみる。




「あ、あのさ、なんかさ、チョコみたいな箱があったけど、車の中に置いておいていいの?暖房で溶けちゃうよ?」




「あっ!やべぇ!忘れてた!保険のおばちゃんからのだ!ホラ、会社によく営業に来るでしょ?」




あ、そうなのか。心配してソンしたなぁ。




心の中で安堵する。




でも、まだちょっとモヤモヤするのは、営業用にしては高級すぎるブランドの包み紙だったのと、会社でもらったはずのチョコがなんで車の中に?通勤に車は使わないはずなのに?という小さな疑問が次から次へと頭に浮かんでは、消えなかったからかも。




「あ、あったあったよ!目的地発見!」




モヤモヤしてる私とは逆に隆史は嬉しそう。




店に入って




「玲奈どれにする?あ、俺コレにしようっと」




至っていつも通りの感じで注文して。




料理が運ばれて来るまでの会話で口火を切ったのは隆史だった。




「そうだ、あのさ…」




「なぁに?」




「俺さ、3月の第一土曜と日曜で、旅行に行くことになったから」




「えっ?誰と!?」




イキナリ言われたらやっぱそう聞いちゃうよね。




「会社の同期たちと。房総で一泊」




「そっか…楽しんできてね…」




行くななんて言う理由も無いし、今までだって飲み会や旅行をダメなんて言ったことは一度もないよ。




でも…




同期…同じ年に入社した仲間…




私の知らない人達…




女の子もいるんだろうな…



女の子もいる?なんて聞けないけど、たぶんいる。




ホントは嫌だ。




けどいつもその気持ちにはフタをしてる。




隆史を信じてる。




信じたい。疑いたくない。



でも、私の気持ちはさっきよりも沈んでる。




大好きなパスタもいつもより美味しくない。









食べ終わって、店を出て駅まで車で送ってもらって、いつもの別れ際のキス。




けど、いつもより嬉しくなかった。




帰りの電車に乗ってる時間も、やたら長く感じた。




隆史に会えて嬉しかったはずなのに、何故か涙が出てきた。




なんで?別にケンカしたわけでもないし、ヒドイことを言われたわけでもないし、隆史はいつも通り優しかったのに。




電車の中で1人で泣く女。



他人の視線が突き刺さる。



ヤバイ、いったん電車降りよう。




駅のトイレを目指して歩いていると




「玲奈ちゃん?」




背後から聞き慣れた声。




振り替えると…




そこには…




奥村くんがいた。
「どうした?ボーっとしちゃって」




「えっ、何でもないよ!大丈夫だよ」




隆史の声で我に帰る。




何を考えてたのかなんて言えるワケない。




言ってしまったら終わってしまう。




今の私達が壊れてしまう。



過去の思い出は美化されるもの。頭ではわかってる。でも時々無性に昔が恋しくなる。




「あ、あのさ、いつ渡そうかと思ってたんだけど、今渡しちゃうね!」




ホントは後にしようと思ってたけど、バッグから包みを取り出す。




「はい、バレンタインデーのプレゼントっ」




「おっ!ありがと!開けていい?」




「うん!開けてみて!」




隆史の手で、リボンがほどかれ、丁寧に包み紙が剥がされる。薄い水色にグレーのストライプのネクタイと黒い革にシルバーのバックルのベルト。




「あっ、いいね、コレ!あ、でも、そんなに俺のこと縛りたいの?」




「えっ、そんなんじゃナイよ!」




「あははは!冗談だってば!」




まあでも、深層心理に「束縛したい」てのがあったのかもね。




「お!トリュフうまそう!」




甘いものが好きだもんね、隆史は。




「帰ってから食べるよ!ありがとね!」




ぎゅっ。




突然のハグ。




抱き締められると心がじんわりする。




「あ、そろそろ行く?」




身体を離して隆史が言う。そういえばもう三時間ぐらい経過してる。




「うん、そうだね、時間無いしね」




「ちょっと早いけど、飯でも食いに行く?」





店を出て車に乗り込む。




しばらく走って、




「あのさ、ここらへんに新しいパスタ屋ができたらしいんだけど…確か昨日買った雑誌に載ってたはずだから、悪いんだけど、後ろからとってもらえる?」




「いいよ。どのへん?」




「俺のコートの下かなぁ?」




えーっと、えーっと雑誌雑誌…




後部座席を探す私。




「あっ!あった!」




雑誌を持ち上げる。




と、下から可愛らしい小箱が出てきた。




何だろ?コレ?




リボンのかかった箱。




まさか…コレ…!?




そのリボンに書かれていたのは、誰もが知っているチョコレートブランドの名前だった。