「おはよーございまーす!」


1月に入った水曜日。

朝、いつものように制服に着替えるため、ロッカールームに入る。



先に出社していた、同い年で同期入社の瑞希に



「朝からテンション高いね~」



と言われた私は低血圧。
なのにいつもより元気なのは、今週末、3週間ぶりに隆史と会えるから。



着替え終わって、事務所に行くと店長が「ちょっとちょっと」と手招きする。



「はい?何でしょう?」



「あのさ、悪いんだけど今週の土曜、出勤できないかな?」



ドキンと心臓が跳び跳ねる。



「どうしたんですか?」



「高木君がさ、どうしても学校に行かなきゃならなくなって休みたいんだってさ…」



そんな…



そんなのってアリ!?



高木君というのは同じ売場を担当している大学生。
かなりベテランのアルバイターで、私が休みの日は売場を彼に任せてたんだけど。



「何でも、進級が危ないらしいよ」



「……わかりました。土曜出ます…。」



あぁ…涙出そう。



社員はこんな風にアルバイトさんやパートさんの穴を埋めるようにシフトを組まれちゃう。



社員っていっても給料少ないのに…。
絶対損だ!とか心の中で泣いてたら、



「その代わり、来週連休あげるからさぁ。ホラ、平日ならパートの森さんがいるし。」

と、店長。











…平日に連休をもらったって嬉しくな~い!!



平日に隆史のところに行くことなんて無い。
行ったところで隆史は朝から晩まで仕事だし。







てか、土曜のこと、隆史に何て言おう?



もしかしてもしかすると、会えないの?



そんなの嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
結婚したい理由が、「一緒にいたいから」。
だとすると「同棲」という手もあるけど、
同棲できない理由はいくつもある。



こっちでの仕事があるから。


仮に仕事を辞めたとしても知らない土地で仕事を探すのは不安だから。


親が同棲を認めないから。




でも一番の理由は、隆史がそれを望まないから。





遠距離になってスグの頃は「私もそっちに行く!」と何度も掛け合ったけど、いつも答えはNOで。



「俺の安月給じゃお前を養えないよ」



「私、自分の生活費は自分で稼ぐよ!」



いつも押し問答してた。
例え結婚したって、私もパートで働いたらいいじゃんって思ってたけど。



たぶん、隆史にとっては重荷だったんだと思う。
「同棲」も「結婚」も。
まだ若い彼にとって、私に仕事を辞めさせて遠い土地に呼び寄せるという、そんな責任は重すぎる。
それはわかってた。







一緒にいる間は何をしても嬉しくて。



手を繋ぐだけで身体がじんわりあったかくなって。



キスすれば全身が唇みたいな感覚に陥って。



抱き合えば抱き合うほど離れたくなくなって。



でもそんな幸せな時間はいつもあっという間に過ぎ去って。



別れの時間になると泣いてしまう私に


「そんなに泣かれると会うのが憂鬱になっちゃうよ。会うときは楽しくしようよ」


と隆史が言うから、泣かないように我慢した。



無理に笑ってバイバイした。



でも、家に帰ってから、枕で声を殺して泣いた。







今週末、隆史がこっちに帰ってくる。
「いらっしゃいませ~!」


「今日は何をお探しですか?」



私の担当は白物家電。
例えば冷蔵庫や洗濯機、
掃除機や電子レンジもそう。



「家電一式揃えたいんです。
今度結婚するんで…」



「わぁ!おめでとうございますっ!」



こんな仕事だから、新婚さんにもよく会う。



逆に、異性との出会いは皆無だけど。
テレビコーナーとかPCコーナーとかなら男性客も多いけど、炊飯器とかじゃあねぇ…。



4月とかには、一人暮らしを始める人とかも多く来店するけど、
時には、イイトシした男性が母親に付き添われて家電を選んでたりすることも。
そんなシーンに出くわすと幻滅する。



まあそんなわけで、私の売り場に来るお客さんはファミリーや夫婦が多くて、そんな人たちを見るにつけて「いいなー」とか「早く結婚したいなー」とか思ってた。



まあ中には、店員の私の目の前で夫婦喧嘩を始める人達もいるけど…。



でもさ、結婚すれば、デートの帰りに「バイバイ」って言わなくても済むんだよ。



「今度いつ会える?」って聞かなくてもいいんだよ。


鳴らない電話を待つこともないんだよ。



「おはよ」って目覚めて一番最初に言い合って、
「いってらっしゃい」って言って、
「ただいま」って帰って、「おやすみ」って言って目を瞑って、
また起きたら愛しい人の顔がある。



そんな幸せが欲しい。