幸せな夜は瞬く間に終わりを告げ、足早に、別れの朝がやってきた。



「じゃあね」



隆史の車が、私の家の前から走り去る。



ポツンと取り残される私。悲しいけど、悲しんでばかりはいられない。



早く仕事に行く用意をしなければっ!時計を見る。げげっ!マズイ!ゆっくりしすぎた~!!



家に帰ると真っ先に洗面所に行く。



どうか、お母さんに会いませんように!



と祈るのは、私がすっぴんだから。すっぴんだと泊まったことがバレバレだもん。ってかもうバレてるとは思うんだけど、なんか気まずいんだよね。



学生時代はうるさかったけど社会人となった今は外泊しても何も言われない。



けど「一晩中遊んでて、今化粧を落としてます」みたいな演出を毎回してしまう。



少しでも長く隆史と一緒にいたいから化粧時間ももったいなくて毎回お泊まりの帰りはすっぴん。



「あら、お帰り。朝ごはんは?」



顔を洗い終えた私に母が問う。



「食べてない。けど仕事に間に合わないから食べないで行くわー」



ゴメン、お母さん!
ホントはホテルで隆史と昨日買った菓子パン食べてきちゃった。



そんなこんなで慌ただしい朝だったけどなんとか遅刻せずにタイムカード押せた!



睡眠不足で頭ボーッとする。実は枕が換わるとよく眠れない体質で。



「成田さん、なんか疲れてます?」



バイトの子に心配されちゃった。



目の下のクマ、コンシーラーで隠しきれてないかも。


でも昨日は、隆史の寝顔をずーっと見ていられた。



腕枕で心臓の音を聞いてた。



あの温もりはもう私に残っていない。



綺麗な箱に入れてとっておけたらいいのに。



今朝別れたばっかりなのにもう会いたくなってる。
「今から迎えに行くから」

「うん、待ってる」



もう付き合って4年にもなるけど、この瞬間は相変わらずキュンってなる。





土曜日、仕事が終わった私は、車を飛ばして家に帰る。そして、スカートに履き替えて、化粧直しをして、隆史が迎えに来るのを待つ。



「着いたよ」



「今すぐ行くね」



実は、その電話が来る前に既に玄関でブーツ履いて待ってたりするんだけど。



「お待たせ!」



隆史の車に乗り込む。



「ゴハン食べた?」



「ううん、まだ」



「何食べたい?」



「んー、何でもいいよ」



「じゃー、あそこでいい?」



と指差したのはロードサイドのファミレス。



「いいよー」



とりあえず食欲が満たされればいい、というのが私達。



たまには夜景の見えるレストラン…とかも思うけど、こんな短い時間じゃそれも無理。



「ドンキ行こうか」



ファミレスを出たら迷わずココ。そう、これが、夜のいつものコース。



車を降りて手をつないで歩く。



時計とか化粧品とか香水とか見て、隆史の好きなプラモデルとか見て、そのあとは食料の買い出し。



買い出しといっても、一晩分。お酒を飲まない隆史に合わせて、ジュースやお茶のペットボトル、お菓子とかを次々とカゴに放りこんでく。



店を出たらホテルに直行。いつものラブホ。



「どこがいい?」



部屋はいつも私が選ぶ。できるだけ可愛い部屋がいい。



部屋に入ると、



「玲奈、こっちおいで」



すぐさま抱き締められる。


そのまま服を脱がされる。


私が求められていると実感できる瞬間。



「玲奈、かわいい」



ヤバイぐらい幸せな瞬間。
あーあ、朝のテンションはどこへやら。



一気に憂鬱モード。



接客にも力が入らない。



最悪な事態を想定してみる。早くも泣けてくる。



それでも私、



顔では笑ってる。



だって



それが私の仕事だから。



パートさんの休憩が終わったら次は交代で私がお昼ご飯。



ノロノロと休憩室に入る。


あらかじめコンビニで買ってきてあったお弁当を食べる前に、携帯を手にとる。


隆史にメールしなくちゃ。


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件名:土曜日

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本文:おつかれさま!
ごめん、今週の土曜は
出勤になっちゃった〓
でも土曜の夜会えない
かな?
会いたいよー。

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まあ夜まで返信は無いとは思うけど。送信完了!



こんな風に、急に仕事が入ることは今回が初めてってわけじゃないから隆史も「え~」とは言わないと思うけど…返事が来るまで落ち着かない。







「おつかれさまでしたー」


やっと閉店。やっと帰れる。今日は1日がすごく長かった。長く感じた。



家に帰って、「はぁぁぁ~」と部屋で脱力してると、携帯が鳴る。



電話だ。隆史から。



慌てて通話ボタンを押す。


「もしもし?」



「ああ、俺。今仕事終わった」



「メール見てくれた?」



「うん、見たよ。しょうがないよね。でも土曜は帰るよ。来週は仕事だから今週しか帰れないし。日曜は早番?」



「ううん、遅番だよ」



「じゃあ泊まれる?」



「うん、大丈夫だと思う」





しばらく話して電話切る。


あーーーー良かった。



今まで冷たかった手足が何故かあったかい。