循環器集中治療医, Cardiac Intensivistとは
今日は自分が目指している分野である「循環器集中治療, Critical Care Cardiology, Cardiac Critical Care」についてざっくり説明します. もともと集中治療が大好きで渡米したての頃は内科レジデンシー後に集中治療フェローシップ(2年間)か米国では最も一般的な呼吸器集中治療フェローシップ(3年間)をやろうと思っていました. でも, レジデンシーを始めて気づいたのが 「臓器の中で圧倒的に心臓に興味がある」ということでした. 肺ももちろん好きなのですが, 患者を診察する際は, 無意識に心電図やエコーに目が行ってしまうことに気が付きました. そこで, どうにか心臓と集中治療をうまく学ぶことができないかと思いました. 色々調べてみると, 心臓が診れる集中治療医(Cardiac Intensivist)になるためのトレーニングがあることがわかりました. 方法は大まかに2通り [1-6]. 一つ目は上述の集中治療フェローシップの中でも特に循環器集中治療に強いプログラムに進む. この場合は2年間のトレーニングになります(別のフェローシップをやってる場合は1年). もう一つは, 循環器内科フェローシップをやった後に集中治療の道に進む方法. この場合は循環器内科3年間に加えて最低プラス1年となります.
Cardiac Intensivistになるための2つの方法
この2つの選択肢を比較したときにどちらが優れているのかは分かりません. 確実に言えるのは集中治療オンリーの方がポジションを見つけるのが楽です. フェローシップの中でも集中治療はトップクラスに人気がありません. 理由は諸説ありますが, 夜勤など勤務体系がハードなのが要因なのかもしれません.一方, 循環器内科フェローシップを経由して集中治療に進む方法はいばらの道です. 循環器内科にマッチするのがエクストリームハードです. それを顕著に表したのが今年のマッチング結果です. わたしの出身レジデンシープログラムは5人が循環器内科に応募してマッチしたのはたった一人でした. なので, 実現可能性からしてもハイリスクです.また, 循環器内科フェローシップでは集中治療に必要な知識がたくさん学べる一方で, 働く場をICUに絞っている場合は必要ない知識も多くあるかもしれません. こんなデメリットの中, わたしが循環器内科フェローシップを選んだ理由は単純で循環器内科が好きだから心臓のことをたくさん学びたいと思いました.
循環器内科, 集中治療, 循環器集中治療の守備範囲 [6]
循環器内科フェローシップから集中治療の世界へ
いま米国ではここ数年循環器集中治療が流行っています. なぜかというと, 医療の発展に伴って, 循環器内科疾患の管理が複雑化してきたことで専門家が必要になってきたわけです. JACCという医学雑誌でも頻繁に特集が組まれて, 自分のラボのボスも投稿しています[1]. それが最近になってコロナを契機にさらに循環器集中治療が脚光を浴びることになりました[2]. 重症コロナは循環器系疾患と関連があるからニーズが増えてるとのこと. たしかにタフツでも循環器内科がコロナICUを担当した時期もあったらしいです.
循環器内科から集中治療の道に進むとき大きく分けて4つの方法があります.
循環器内科(3年)→集中治療(1年)
一般的なのは循環器内科の後に集中治療フェローシップをやる. この場合, 集中治療は1年間で終えることができます. この進路の利点はトレーニングが短くて済むことです. また循環器内科フェローシップ中には学ぶことができない挿管・気管支鏡・人工呼吸器管理などを効率的に学ぶことができます. 通常, 循環器内科の後に集中治療を学びたい人は循環器内科集中治療に特化したプログラムに進みます.まだ発展途上分野なのでたくさんはありませんがTufts, Mayo Clinic, Johns Hopkins, Cleveland Clinic, Stanford, Georgetown, Albert Einstein, MGH, Mount Sinai Hospitalは循環器内科に強い集中治療フェローシッププログラムを有しているようです(あるいは循環器系に集中したプログラムにできる). 情報がかなり乏しい分野なので, この中でホームページを持っているのはClevelandとJohns hopkinsだけです. タフツは今年からプログラムが始まって海外からも応募を募っています. もしタフツに興味ある方がいれば繋ぐのでご連絡下さい.
循環器内科(3年)→インターベンョン(インタベ, 1年)→集中治療(1年)
2つ目はインタベを経由して集中治療をやる方法. JACCでも取り上げれていた進路です[3]. この進路のメリットはPCI, temporal pacemaker, 一部のmechanical circulatory support (MCS)挿入(インペラ, IABP, ECMO)などICUでは必須の手技に精通すること. やっぱり自分の管理する患者の治療は自分でやりたいと思うのは当然のことで, 手技ができるのは魅力的です.
一方, デメリットも色々あります. まず, ICUとはほとんど関係ない手技も学ばないといけません. 加えて, そもそもICUで働く医師にPCIなどの手技をやることが求められるのかという根本的な疑問が生じます. 米国の病院では各々の守備範囲が明確に決まってます. なので, 病院次第だと思いますが, 多くの病院ではNoだと思います. 基本的には手技はインタベの担当の先生がやるのが基本です. せっかく手技を学んでもそれを発揮できる環境がなければ徒労です. 他にもデメリットはあります. 以前は循環器系のICUには虚血性心疾患の患者が大半を占めましたが, 昨今はPCIの発展と共に予後が改善して, 代わりにICUの患者層は心不全の占める割合が増えてきました[4]. タフツは特にその典型で心移植症例が多いこともあり, ICUに入院している患者の殆どは心源性ショックでMCSが必要な複雑な症例です.
循環器内科(3年)→心不全・心移植フェローシップ(1年)→集中治療(1年)
上記の問題を解決するのが心不全フェローシップです. 複雑な血行動態, 心移植, MCS管理の専門家になるので, 昨今の患者層のニーズにフィットします. もちろん, インタベをやっていない分, 緊急時の手技はインタベの先生にお願いしないといけないのが玉に瑕です.
循環器内科(3年)→心不全・心移植フェローシップ(1年)→インタベ(1年)
それだったら, 心不全とインタベを両方やっちゃえばいいんじゃない, とJACCで最近提唱したのがうちのラボのボスです. ぶっちゃけ, 心不全 or インタベを一年間やっただけだとhalf-baked physician(中途半端な医者)になる可能性があると懸念しています[5]. 彼自身, Johns Hopkinsで心不全とインタベのトレーニングをしたので説得力があります. タフツではInterventional heart failure programといってインタベと心不全のトレーニングが合体した2年間のプログラムがあります. MCSなど含めて血行動態の専門家になるには理想的かもしれません. ちなみにこのプログラムも海外卒の先生を受け入れているので興味があればご連絡ください. ただ, この経路にも欠点があります. 集中治療のトレーニングを受けないので, ICUで働く上で必須な挿管, 気管支鏡, 人工呼吸器管理ができないという致命的な弱点になります. 自分のラボのボスも血行動態の専門家で循環器集中治療に関して色々と論じてますが, 本人はカテの指導医として働いていて集中治療医ではありません. だったら, 心不全→インタベ→集中治療とやればいんじゃないかと指摘する人もいるかもしれません. 実際理論上そうなのですが, トレーニング期間の点から実際にそうする人はほぼいません.
各進路の利点・欠点(循環器内科→集中治療の進路は記載なし)[3]
わたしの進路
非常に悩ましくまだ決めていないというのが本音です. ラボのボスの流れを汲めばInterventional heart failure(インタベ+心不全)をやることになりますが, どうしても集中治療フェローシップもやりたい. 個人的にはトレーニング期間とかはどうでもいいのでInterventional heart failureをやった後に集中治療ができれば願ったりかなったりですが自分のビザではおそらく難しいです. うまくO1ビザに一旦切り替えて指導医として働きながら特殊な扱いで集中治療のフェローシップに雇ってくれないかと画策しています.
循環器集中治療が抱える問題
色々と可能性を挙げましたが, 一番の問題はニーズです. 自分の理想とする医師が病院のニーズに合うか. これは時代の潮流を読むしかありません. 現段階でいえば, そもそも循環器集中治療医が求められるのは心臓に強い大病院. その中でも一部です. 循環器集中治療フェローシップを作ったタフツですら現段階では循環器集中治療医を雇っていません. 医療請求の関係らしいです. いまは各々の患者に集中治療医, 心不全医, 総合循環器内科医の3人で担当する形です. 各々の科が医療請求を行うことができるので一番儲かる形だとか・・・. チームプレイは大切ですが, 患者のケアを分業しすぎるのも全体像が見えなくなってよくない気もします. ちなみに, NEJM CareerCenterというページを見るといくつか循環器集中治療医の求人があるのでどんなニーズなのか雰囲気が見えてきます. 例えば, ある施設の応募要件は以下のようになってます:MD or DO with a completed fellowship in Cardiovascular medicine and additional experience in critical care may include a critical care fellowship or 3-5 years of experience practicing in a critical care environment. 循環器内科の専門医は絶対で集中治療は専門医がなくてもいけそうです. あとは, 別の施設だとこんな感じです:Endotracheal intubation, management of noninvasive and invasive mechanical ventilation. Placement/management of Swan Ganz catheters, central venous and arterial lines, temporary dialysis catheters, tube thoracotomies. Performing thoracenteses, paracenteses, and lumbar punctures. 集中治療フェローシップをやらないと難しそうな要件です. これらの要件だけから見ると, 循環器内科と集中治療のダブル専門医は最低限あったほうが困らない気がします.
循環器集中治療医のライフスタイルと給料について
勤務体系に関しては, NEJM CareerCenterの求人で記載しているところは, ほぼすべての病院が1日12時間勤務で月の半分は仕事で半分がお休みです. 日本では考えられないくらい休みが多いです. 気になる給料に関しては情報がかなり乏しいところではありますが, Medscapeの2020年(以下参照)の統計によると循環器内科の平均が4,550万円で集中治療が3,700万円です. なので, ここら辺に落ち着くんじゃないかと思いますがかなり分散はあると思います. 求人で唯一値段を記載していたところは田舎の市中病院で4,000万円以上+ボーナスとあります. まぁ, 給料は生活が最低限できればいいのであれですが・・・. とくに, わたしの場合はアカデミアで研究をメインにやろうと思うので, 研究費をうまく引っ張ることができれば, 1カ月で1週間働いて残りの3週間は研究ができればいいなと思います.
各科の年収ランキング
まとめ
いま循環器集中治療が激アツ!!!
参考文献
1. Vallabhajosyula, S., N.K. Kapur, and S.M. Dunlay, Hybrid Training in Acute Cardiovascular Care: The Next Frontier for the Care of Complex Cardiac Patients. Circ Cardiovasc Qual Outcomes, 2020. 13(8): p. e006507.
2. Katz, J.N., et al., COVID-19 and Disruptive Modifications to Cardiac Critical Care Delivery: JACC Review Topic of the Week. J Am Coll Cardiol, 2020. 76(1): p. 72-84.
3. Panhwar, M.S., S. Chatterjee, and A. Kalra, Training the Critical Care Cardiologists of the Future: An Interventional Cardiology Critical Care Pathway. J Am Coll Cardiol, 2020. 75(23): p. 2984-2988.
4. Katz, J.N., A.T. Turer, and R.C. Becker, Cardiology and the critical care crisis: a perspective. J Am Coll Cardiol, 2007. 49(12): p. 1279-82.
5. Kapur, N.K., RESPONSE: Hybrid Training for Interventional, Heart Failure, and Critical Care Medicine. J Am Coll Cardiol, 2020. 75(23): p. 2987-2988.
6. Miller, P.E., B.B. Kenigsberg, and B.M. Wiley, Cardiac Critical Care: Training Pathways and Transition to Early Career. J Am Coll Cardiol, 2019. 73(13): p. 1726-1730.


