そうだ, 米国医療へき地でJ1 waiverをしよう♪ J1ビザと不発弾について | そうだ、米国で医者やろう~♬

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米国ボストンで循環器内科フェローをしています。心臓集中治療の分野と美味しいご飯処を世界に広めるのが目標です。

はじめに

スペインの巨匠フランシスコ・ゴヤは40台半ばで聴力を失った。その後、作風は一転し、感情に直接訴えるような名作が次々と生み出されるようになった。J1 ビザは我々の足枷となり医師としてのキャリアから自由を奪い。しかし、この制約があるからこそ、あるいは飛躍することが可能になるのかもしれない。

 

フランシスコ・ゴヤの作品

 

J1ビザとH1bビザ

日本人が米国で臨床医として勤務する場合、J1ビザかH1bビザを選ぶことになります。雇用側がJ1を好むケースが多いためJ1で渡米する人が多いです。病院がH1bでOkといったらH1bの申請も可能です。ビザの選択はマッチング後にするので選考には影響しません。私の場合、ビザ申請時期にトランプ政権になった影響でJ1となりました。J1では基本的に7年間米国に滞在できます。あまり知られてませんが、J1 extensionという方法で7年以上のトレーニングをしたければ何年でも延長できます。しかし、J1はあくまでトレーニング用ビザなので指導医になるタイミングでビザを変える必要があります。ここでJ1に潜む不発弾の存在に気づくわけです。これは後ほど説明します。J1で渡米する利点は就活です。特に、Fellowshipの際はH1bはスポンサーしないけどJ1をスポンサーするというプログラムが多くあるので、就活に有利と言われています。一方、H1bは就活にこそ不利ですが、レジダンシー/フェローシップ修了後すぐに永住権の申請ができるという利点があります。ちなみにJ1からH1bへの移行はできません。

 

J1ビザ後の選択肢

J1ビザはトレーニービザといって、アメリカ大使館のホームページでは「交流訪問者プログラムのJビザは、教育、芸術、科学の分野における人材、知識、技術の交流を促進するためのビザ」と定義されています。ようはトレーニングをする為のビザです。なので、レジテンシーあるいはフェローシップが終わり指導医として働く段階で別のビザに切り替える必要があります。ちなみに、J1は中断ができない為、レジデンシーとフェローシップの間に研究Yearを取ったりすることはできません。なので、基本的にはレジデンシーをJ1で始めた場合フェローシップの最後までJ1を継続する形となります。先にも述べましたが、臨床医の場合、J1は最長7年間継続することができます。また、J1 extensionという制度があり、7年目以降も何年でもトレーニングを延長することができます。しかし、レジデンシー/フェローシップが修了するとすぐに2 year ruleという足枷が発動されます。J1はもともと自国の発展のために渡米を許可するビザなので、必然的にJ1が終わったらしっかり帰国して母国に貢献しなさいよという趣旨のもの。J1からGreen Cardを申請するためには2年間日本に帰国する義務が発生します(J1 Researchだと義務は発生しません)。それを回避して米国に残るためには、ビザを書き換える必要があります。その際の選択肢はO1ビザ・F1ビザ・J1 waiverです。

 

O1ビザは比較的多くの人が選択するビザで、病院が許す限り臨床医として何年でも勤務することが可能です。問題点は2つあります。まず、2-year-ruleの義務は残ったままなので、永住権を申請する場合はどこかのタイミングで2-year-ruleの義務を消化する必要が出てきます。O1のもう一つの問題点はグラント(研究費)です。アカデミアで研究をする為にはグラントが必要ですが、O1では取得できないグラントがたくさんあるのでかなり不利となります。

 

F1ビザは学生ビザです。トレーニング後にMPHやPhDコースに進む場合は選択できます。ただ、F1にした場合も永住権を獲得する前に2-year-ruleの義務が発生するのは注意点です。

 

J1 waiverとは

J1 waiverとは母国に帰りたくないけど永住権を取得したい人の為に提示された悪質な交換条件です。簡単にいえば、米国の医療へき地で3年間フルタイムで臨床医として働くことで、永住権の申請が可能となります。だいたい1-1.5年前からWaiverの準備を進めるのが一般的です。実は、へき地で働く以外にも研究の業績が異常に優れた人はリサーチ waiverという特殊経路の申請が可能ですが、いままでやった人は日本人では2人しか知りませんし、その人たちは異常に優秀な上に強運に恵まれたので、あまり一般的な方法ではありません。あとは中東などの紛争地帯出身の場合、母国に帰るのは危険なのでwaiverが免除されます。この方法は中東出身の人たちの間では一般的ですが、残念ながら日本には適用されません。医療へき地で働く場合にも実はいくつかの方法があります。最も一般的に用いられるシステムはConrad 30です。

 

Conrad 30でWaiverする場合のシュミレーション

Conrad 30とは各州30人の定員を設けて医療へき地でWaiverをさせてあげようというものです。へき地で働く代りにWaiverを得るという交換条件です。州の人口や面積に寄らないのでRhode islandなどの小さな州は比較的ポジションが見つかりやすいらいしいです。30人中10人はFlex spotsといって医療へき地でなくても勤務が実は可能です。優先順位はPrimary Care(General Medicine, Geriatrics, Ped, Psych)なので30人のポジションもこれらの専門が優先されます。そのため、循環器内科などのSpecialistは不利になります。各州30人の枠が毎年どれくらい埋まっているかは毎年統計が発表されています。この統計をみると、ニューヨーク・ボストン・カリフォルニアなどの人気な州は毎年30人フルに埋まっています。一方、日本人には人気だけど米国人には人気のない穴場はハワイです。例年、0-11人と30人のポジションが埋まることはありません。

 

Conrad 30で埋まったポジション数(2001-2020)

 

すると、例えば、ハワイでWaiverする場合どうなるのか仮定してみます。まず、30人の枠は絶対に埋まることはないのでConrad 30はクリアできます。Flex 10も埋まってないのでハワイの場合はUnderserved areaでなくても勤務は可能です。

 

Conrad 30ポジション割り当ての詳細(2020年度)

 

ちなみに自分の働きたい地域がUnderserved areaかどうかはHRSA Map Toolで確認できます。ハワイの場合、オアフ島周辺の海が色付けされていますが、若干どう解釈していいのかわかりません。

 

ハワイ・オアフ島のUnderserved area

 

この地図は色々見てみると面白くて、必ずしも田舎がUnderserved areaになるわけではなくて、様々な要因で決定されるらしく、例えばわたしが働くタフツ大学病院はボストンの中心街にありますが、Underserved areaに指定されています。

 

Boston中心街のUnderserved area

 

まぁ、それはおいておいて、次に立ちはだかる障壁が求人です。要するにWaiverの枠があったとしても病院から募集がなければ就職できません。求人を探すのは非常に困難で、求人サイトもいくつかありますが、残念ながらあまりあてになりません。一番手っ取り早いのは知り合いや関係者に直接聞くことだと思われます。ハワイで循環器内科のポジションを探すとNEJM Career Centerだと1件該当し、HFSAという心不全の求人サイトでみると2件の求人があります。直接関係者と連絡を取ったことはないので需要も供給も不明です。わたしのように超特殊な循環器集中治療というニッチな分野を専門とする場合、まず間違いなく職は見つからないので、一時的に専門を妥協する必要があります。まとめると、Conrad 30で空きを見つけると同時に求人でも空きを見つける必要があるということになります。余談ですが、Conrad 30のほかにもVA Waiver(人気なのでほぼ難しい)、DRA、ARCなどのWaiverの方法がありますが、ここでは割愛します。興味がある方はぜひ添付のリンクを参照してください。

 

さいごに:J1 waiverとキャリアとの折り合い

J1 waiverの最大の課題はキャリアと折り合いをつけることです。J1 waiver中はフルタイムで臨床に従事することが義務付けられています。つまり、がっつり研究をすることができません。なので、将来、大学病院でアカデミアで働きたい人にとって、3年間のJ1 waiverは苦痛以外の何物でもありません。私の場合、人生のバケーション及び研究生活に入る前の資金調達と臨床経験を積む時期という位置付けで解釈しています。その点からするとやはりハワイは魅力的です。他にも色々探してみると、グアムでもWaiverは可能です。島全体がUnderserved areaに指定されており、ホームページでも求人が出ています。ちなみにJ1 waiver中のビザの扱いはH1bになるので、Waiver中に日本に帰国も可能です。Attendingの勤務はフレキシブルなので、例えば、ICUで7日働いて7日休みのスケジュールだとすると、年の半分は日本で勤務することも可能です。飛行機は東京まで3時間ちょいです。グアムの場合、臨床経験という点で懸念がありますが、日本でも働くことでカバーできる可能性は十分あります。いまのところ心不全や心臓集中治療の分野でのニーズは恐らくないので選択肢としてグアムは考えてませんが、家族の関係などで必要あらばありな気がします。いずれにしても、3年間という時間を投資するわけで、何かしら自分や家族にとって得られるような期間にしたいと思います。また、J1 waiverで一番大切なのはWaiver後にどのようにつなげるです。J1 waiverはしたけど、その後の仕事が希望するものでなければ本末転倒です。長期的な視野をもって、事前に入念な準備をして臨みたいと思います。まだ、実際にはJ1 waiverはしておらず、これから段々とプロセスを開始するので、またアップデートがあれば共有します。