<Memo>
●リオリエント
世界経済の中心が再び欧米からアジアにシフトしてきている。ドイツの歴史家AGフランクは20世紀末から21世紀にかけてのこの歴史の大きな流れをリオリエントと呼んでいる。1820年、中国とインドの人口の合計は当時の世界人口の55.1%、GDPの合計は世界全体の実に44.7%をしめていた。西欧・普遍、日本・特殊という命題はここ百数十年の日本の知的世界における基本的なものであった。だが、現在は日本と西欧、アジアと西欧を特殊と普遍ということではなく、同一線上の文明として語ることが必要になってきたという意味でアジア・日本が知的に発信することが大きな役割を持つ。(P11~13)
●世界のGDP規模及び順位(「世界経済の成長史 アンガス・マディソン」より)
1820年(約0.7兆ドル):①中国②インド③フランス④英国⑤ロシア⑥日本⑦オーストリア⑧スペイン⑨米国⑩プロシア
1992年(約28兆ドル):①米国②中国③日本④ドイツ⑤インド⑥フランス⑦イタリア⑧英国⑨ロシア⑩ブラジル
1820年頃、世界のGDP総計におけるシェアは中国は28.7%インドは16.0%であった!(P195)
●経済・市場分析の為の三つの時間軸
①中長期トレンド(上記例)
②短期の循環(設備投資循環・在庫循環等)
③政治的、経済的事件(フェルナン・ブローデルの言う「事件史」)
事件史を追い、循環の局面を見極めながら、中長期のトレンドがどういうインパクトを市場に与えるのかという視点からものを見る習慣をつけることが大切だ。
●ジョージソロスの市場の見方
ソロスは生涯、カール・ポパー を尊敬してやまなかった。ポパーは「物事は不確実で、人間は必ず間違う。だからその間違いを認めてそれを常に修正していくオープンソサエティこそ理想の社会である」と論じた。ソロスはその思想を発展させ、Falibility(誤謬性)とReflexivity(相互作用性)という概念を軸にした市場哲学を持っていた。
●為替取引は一種の情報ゲーム
為替取引は情報をどれだけ持っているか、あるいは自分の持っている情報を新しい事態の出現によってどれだけ修正していくかそしてそれを発信していくかということが重要である。
●ファンダメンタルズを読むために最低限チェックが必要な指標
①GDP成長率
②インフレ率と金利
③経常収支
④財政収支
●理論と現場の往来を怠るな
現実、あるいは市場、そして、そこから得られる情報は極めて豊かなものです。それに比べ、理論は簡単に現実を理解する枠組みを与えてくれるという意味では極めて有益だが、これで現実を切り続け、現場からのフィードバックを失ってしまうと、しだいに乾いた、貧弱なドグマになってしまう。
<My Opinion>
本書は、「為替相場は結局読むことができない」とつい及び腰になる私に、あらためて相場を読むことは情報戦であり、高度な知的ゲームであることを教えてくれた。確かに、市場は決まりきった枠組みや精緻な経済理論を用いるだけでは説明することができない。著者はジョージソロスの市場哲学(カールポパーのオープンソサエティという概念を発展させて、Falibility(誤謬性)とReflexivity(相互作用性)を重んじる)やロバート・ルービンの市場哲学(世の中はたしかなものなど決して存在せず、すべての現象は確率論的なものである)を引き合いに出すことで、市場がいかに有機的なものであるかということを鮮やかに描いている。
しかし、著者は有機体である市場に屈するような態度は一切取らない。市場と対峙する為に最も重要な資質は「知的謙虚さ」だというメッセージを読者に送る。3つの時間軸(前述)を用いて丁寧に事実を追いかけ将来を予測することが為替相場を読むことだと教えてくれる。
文庫版に寄せて、2005年3月に書かれたイントロ(P10~15)の中で著者は「為替の動向を予測する時、中長期的にアジアに世界経済の中心が移って、アメリカの支配力が次第に弱まるというストーリを信頼するならば、どこかで米ドルがアジア通貨に対して下落すると考えるということになります----中略----私はこれからここ、2、3年から4、5年の間に何かのきっかけ(例えば米国経済についての大きなネガティブサプライズ)で起こるのではないかと思っています。(P15)」と述べているが、事実これが書かれた3年半後の2008年9月にリーマンショックが起きたのである。2005年3月はUSD/JPY=104~107円台で推移したが、2008年末に80円台後半を付けている。著者がこの本の通りに為替相場を捉えているということが実証されたと言えるかもしれない。
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