So-Hot-Books (So-Hotな読書記録)

So-Hot-Books (So-Hotな読書記録)

書評と読書感想文の中間の読書日記。最近は中国で仕事をしているので、中国関連本とビジネス関連本が主体。

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★★★☆☆(星3)


<My Opinion>


本書は日経BP社発行の経営誌「日経トップリーダー」の連載記事を加筆して再編集したもの。「経営の実際の現場では教科書など役に立たない」という言葉は良く聞かれるが、むしろ星野社長は「経営の教科書に書かれていることは正しく、実践で使える」と主張する。星野氏が経営者として実践してきた、社員のモチベーションアップも、サービスの改善も、旅館やホテルのコンセプトメイクも、すべて教科書で学んだ理論に基づいているという。

星野氏が教科書通りの経営を実践している理由は、経営判断を誤るリスクを最小にする為。企業経営は、経営者個人の資質に基づく「アート」の部分と、論理に基づく「サイエンス」の部分があるが、社長自身はアーティスティックな経営判断を行う資質がないという自己判断から、教科書を根拠として経営手法の中でサイエンスを取り入れるようになった。サイエンスに基づくことで、自分の下した判断に自信を持てるようになるし、社員に対して判断の理由を明快に説明でき、更には思い切った経営判断に勇気を持って踏み切るきっかけを与えてくれるのだという。

星野氏から学べることはこの教科書に対するスタンスに加えて、実行に対するこだわりである。自らの経営判断に役に立ちそうな本を見つけた際には、一行一行丹念に読み込み、徹底して教科書通りに実行するのだという。例えば「3つの対策が必要だ」と教科書に書いてあれば、1つか2つだけ実行するのではなく必ず3つ実行する。教科書をベースにして実際の経営課題についてソリューションを与えることは合理的である一方で、中途半端な実行は理論のつまみ食いになり、成果がうまく出ない場合に主要な問題が理論自体に内在しているのか理論の実践部分にあるのか見極めが困難になる。「教科書通り」に全て実行しみることで判断の確度を高めているのである。

本書の第一部では以上のようなことが紹介されていて、エッセンスは全てここに詰まっている。その後は具体的な経営課題に対してどのような教科書(理論)を用いて対応したかということが書かれているが、このパートの構成が非常に甘い。テーマ別に戦略論で4つ、マーケティングで4つ、リーダーシップで4つ挙げられているが、200ページ足らずで10を超える経営課題とその対策は説明不可能だ。経営課題は各テーマ1つづくらいが限界ではなかったか。結果として本書は教科書リストに毛が生えたような構成になってしまっている。

「教科書通りの経営」に焦点を当てた切り口は見事だと思うも、構成にもう一つ工夫がほしかった。又、教科書通りの経営で失敗した事例も分析してほしかった。星3つ。

星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則/中沢 康彦

¥1,575
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★★★☆☆(星3)


<My Opinion>


著者は三井物産元駐中国総代表。ビジネス以外のことにも多く触れられており、著者の商社生活を回顧した、謂わば自伝のような本。さすがに1970年台から中国とビジネスをしているだけあって、今の在中駐在員では想像もできない苦労を味わっている。タイトルから想像するよりも実務には直結しない内容が多いが、中国における総合商社の歴史の一ページを見ることが出来る。内容がまとまりきっていない印象と、タイトルと内容のギャップが大きすぎることで、星3つ。


書評からは外れるが、計23年にわたる著者の海外駐在は素直に羨ましいと感じた。アメリカに計13年、中国語圏は台湾3年、北京4年、香港に3年居たとのこと。通商においても外交においても、これからの中国を理解する為にはアメリカを知る必要があると常々感じているが、遠藤氏は中国とアメリカに駐在することで肌感覚で両国を捉えることができたはずだ。


中国ビジネス 成功への道/遠藤 滋

¥1,260
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★★★☆☆(星3)


<My Opinion>


本書は歌舞伎町案内人である李小牧と加藤嘉一の対談録。といっても李小牧という人物を知らなかったので、「歌舞伎町より愛をこめて」と「歌舞伎町の中国女」という以前の著作を読んでみた。なるほど、1988年に来日して以来、20年以上歌舞伎町に立ち続けている日本人も驚きの歌舞伎町案内人。日中両国で徹底的に現地化した2人の対談ということで、かなり興味引かれて読んでみた。


しかし、両者はさすがに活躍するフィールドが違いすぎて深い対談はできていない。李氏は作家ではなく、あくまで案内人という立場だから「政治から性事まで幅広く扱うことができることが強み」と自ら書いている。そうはいってもやはり専門は「性事」。加藤氏の専門はどちらかと言えば「政治」だからこのような対談になるのも無理もない。とはいえ、この対談はとても斬新であり、企画したメディア総合研究所の編集者のユニークな視点は評価したい。


本書では加藤氏の議論の対談の運び方の巧みさに改めて感心した。さすがに中国で言論活動を展開しているだけあって言葉選びや議論の切り替えしが上手だ。例えば李氏の質問に対するこの件。


李:加藤さんが感じた日中のセックス観の違いも聞きたいよ。日本と中国、どっちの国の女性が良かった?


加藤:すいません。僕は李さんほど経験豊富じゃないし、仮に豊富だったとしても、李さんほど何のためらいもなく、むしろ話したそうに性の話をするには性格がシャイ過ぎるかなって思います。「日中の女性」という問題に関しては、僕にもそれなりにイメージ・感想というものがあるので、少し冷静になって分析しますね。(P99)


自らのイメージを壊さないように、かつ李氏のドストレートな質問に対して自分のフィールドにできる限りひきつけるカタチで答えているところはさすがに鍛えれられていると感じた。


最後に両者の価値観が現れていた印象的な箇所を抜書きしておく。


<Memo>


その国の良さを理解できない人というのは頑張ってない人だと思うんですよ。例えば五年間も日本にいるのに日本が大嫌い、合わないと言っている人、いっぱいいますけど、そういう人に限って日本語があまり喋れなかったり、日本の文化を理解しようとしていなかったりする。(P86 李)


どっちがいいかという議論にはしたくないですね。どっちでもいいんですよ。会社に入りたければ入ればいいし、個人で仕事をしたければすればいいし。僕が言いたいのは、どちらか一方が当たり前の価値観になっちゃうと、社会としては極めて危ないということなんです。世の中には複数の選択肢があって当たり前なんですよ。そういった選択する権利を授けられているんですよ、国民ひとりひとりには。ただ、なんとなくこっちが正しいという道が「空気」に乗ってやってきて、それを無視できないというのが悲惨な状況。(P159 加藤)

常識外日中論/李 小牧
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歌舞伎町より愛をこめて 路上から見た日本/李小牧
¥1,680
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歌舞伎町の中国女/李 小牧
¥1,470
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★★★★☆(星4)


<My Opinion>


本書を読んで初めて知ったが、池袋に都内最大の新華僑居住地域がある。それが「池袋チャイナタウン」である。このチャイナタウンは西武百貨店やサンシャインがある東口、東武百貨店や立教大学がある西口とは別の駅北口一帯に広がっている。地理学者である著者が2003年にこの地域を池袋チャイナタウンと名づけた。日本でチャイナタウンと言えば、横浜、神戸、長崎が有名で三大中華街と呼ばれるが、実は池袋チャイナタウンこそが日本で最もチャイナタウンらしいチャイナタウンである。その実態を伝えているのが本書である。


この池袋チャイナタウンは、老華僑が形成した三大中華街と違い、飲食店、雑貨屋をはじめ多くの商店が雑居ビルの中に入っている為、見た目では中華街らしくない。つまり観光地化されていないのだ。そして池袋チャイナタウンで生活している人、訪れる人の多くが新華僑であるという点も他のチャイナタウンと大きく異なる。そこでは日本人に迎合しない味付けの本場中華料理が味わえたり、日本では手に入りづらい中国の食材が買えたりするらしい。さらに中国語のフリーペーパーが何十種類と流通しており、中国の各方言が街中を飛び交っていて、街全体から「中国」が極めて濃く醸し出されているとのこと。私は4年弱池袋界隈に住んでいたことがあった。当時は中国に対する興味が一切なかった為、このチャイナタウンの存在は当然気づかなかったが今度帰国した折には是非足を運んでみようと思う。


しかし、この池袋チャイナタウンは地域住民(日本人)からはあまり歓迎されていないようだ。理由はゴミ出しのマナーが悪かったり、地元商店街の加盟費用を払わなかったりといったことが発端になっている。その不満が根底にあった中、2008年の東京中華街構想(池袋駅を中心に半径500メートルのエリアで、そこに点在する飲食店をはじめとする新華僑経営の多様な店をつなぐネットワークをつくり、新たな「中華街」を構築しようとする構想)における新華僑と地元住民との対立は大きく国民の関心をあおった出来事だった。


現在構想は頓挫している。しかしながら、もし本気で池袋に東京中華街構築を目指すなら、日本人と中国人の根底にある文化的差異を認識しつつ、まずは双方がコミュニケーション量を増やすことが肝要だ。中国側は地元住民の意見を十分に聞き入れることや日本社会の基本的価値観に配慮する必要があると思うし、日本側もここまで日本に根を張って生活している中国人に対して敬意を持ちつつ構想の実現可否を検討すべきである。東京中華街構想が提起される以前から地元住民と新華僑の間にはほとんどコミュニケーションがないようであるが、これでは負の印象しか生まれない。


本件に留まらず、日本における中国人とのより良い共存共生の為には偏見を捨て能動的に中国人コミュニティーに働きかけていくことが求められている。中国人の思想や物事の進め方は現代日本人のそれとは180度異なるので、完全に分かり合える等というのはもちろん幻想だが妥協点は必ずある。日本人は一般的に交渉が苦手だが、中国人に対しては譲れるところと譲れないところを明確にした上できっちりと交渉していけば道は開かれるだろう。


本書はニッチなテーマを分かりやすく解説しており、とても面白い。星4つ。


池袋チャイナタウン ~都内最大の新華僑街の実像に迫る/山下 清海

¥1,470
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★★★☆☆(星3)


<My Opinion>


すぐに役立つ 中国人とうまくつきあう実践テクニック の第二弾。中国人理解の切り口を「面子」に集中させているものの、どうしても第一弾の焼き増し感が否めない。半分以上の内容が第一弾と同様。


確かに、中国人は人間関係づくりの段階に応じて3つの「面子」を使い分けるという指摘は著者らしい明快な切り分けかたであり、一口に面子と言っても千差万別と言われる世界に一定の説得力ある枠組みを与えてくれている。


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①「網面子」:人間関係を広げるときに使う面子
②「貸し面子」:人間関係を深めるときに使う面子
③「義の面子」:人間関係を維持し、安定させ、より深めるときに見せる面子

中国人はそれぞれの段階で、トランプのカードを切るように絶妙に使い分けてくる。
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しかし、中国人理解のエッセンスを「面子」という言葉と概念で再編集した構成であり、第一弾の実用性には及ばない。どちらか1冊読めば十分だろう。1冊目を読んでから本書を読んだ感覚からは星3つ。

知っておくと必ずビジネスに役立つ中国人の面子(メンツ)/吉村 章
¥1,365
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★★★★★(星5)


<My Opinion>


表紙とタイトルはいかにも薄っぺらなハウツー本を想起させるが、内容に極めて説得力がある。本書を読んだことで、私が1年半中国にいて感じてきた中国人に対する疑問が全て整理された。中国にこれから滞在する人は本書を読んで「中国人」について予習したほうが生活がスムーズに進むと思うし、赴任してある程度時間が経ったが、典型的な中国人像を掴みかねているような人にとっても必ず役に立つだろう。本書の中に、中国人は本来的に「会社」というコミュニティに防衛機能を期待していないとの件があったが、もっと言えば「国家」に対しても防御機能を期待していないのだと思う。なぜなら私の取引先の経営者のほとんどはカナダやニュージーランドの永住権を取得していることからである。いざとなったらいつでも国外脱出する心の準備が出来ているのである。著者は相当数の中国人と接してきており、地に足がついた内容かつ実践的なので星5つ。


あまりに実践的で抜書きが相当な量になった。


<My Opinion>


●4つのフィルター
中国人を理解する時は「地域差」「世代差」「業界・職業差」「学歴・経歴差」の4つのフィルター重ね合わせて理解する。(P3)


●3つの「没有(メイヨウ)」に気をつけろ
中国人が良く口にする「没有問題」(問題ありません)という言葉は「わかりました」という挨拶程度の意味に受け取っておいたほうが無難である。この場合「まったく問題がないはずはない」と考えたほうが賢明。「没有問題」の次が「没有関係」。これが中国人の口から出てくるようになるとその「問題」はかなり深刻に陥っていると理解するのが良い。そして、最後に出てくる言葉が「没有弁法」(仕方ありません)という表現。これが出てきたときはもうあきらめるしかないと心得ておくのが良い(P15)


●「贈り物」として贈ってはいけない品物
①時計:中国語で時計を意味する「鐘(Zhong)」は「終(Zhong)」と発音が同じであり、時計を送るということは「終了」「おしまい」を連想させるので厳禁。又、「時計を贈る」というのは中国語で「送鐘」と書き、「送終」(死に水を取る、死に目にあう)という意味になる。
②傘&扇子:中国語ではそれぞれ「雨傘(Yu san)」「扇子(Shan zi)」と発音し、中国語の「分散(fen san)」(散らばる)「離散(li san)」(散り散りになる)という言葉を連想させるのでこれも良くない。
③詰め合わせのお菓子:中国では基本的に「贈り物」は個人が個人にプレゼントするもの。例えば、取引先の社員を代表して陳さんが空港に出迎えに来てくれた場合、陳さんに対して「社員みなさんでどうぞ」と詰め合わせのお菓子を渡すのは失礼。もしそうするのであれば、陳さん用に1つ、社員用に1つ用意するべき。原則はあくまで1人1つ。(P52)


●中国人の独特な「タマゴ型コミュニティ」とは
中国人は家族を中心とした独特なコミュニティ感覚を持っている。著者はこれをタマゴ型コミュニティと命名。タマゴの黄身部分には①自己(自分)と②自家人(家族)がいて、白身の部分には③自己人(身内)がいる。そして殻の外に④熟人(友人・知人)もっとその外に⑤外人(他人)がいる。中国人を理解する上で一番大事なのがこの卵の中と外の区別、つまり③と④の違いである。自己人というのは日本語で言う親友や仲間よりもより固い絆で結ばれた、絶対的な信頼関係の上に成り立っている関係の人を指す。(P62)


※著者ですら、殻の中に入ることができた(=その人の自己人になれた)と実感できる関係は、10人に満たないということから考えても、この自己人の意味合いの重さが分かる。


●同心円状に広がる中国人の「花びら型シェルター」
タマゴ型コミュニティのタマゴの殻は実は一つではなく自己を中心に花びらのようにいくつものタマゴを抱えている。本業のコミュニティ、旅行仲間のコミュニティetc…というようにいくつものシェルターが花びらのように広がっている。注意すべきは、中国人は日本人と違い、「会社」というコミュニティにシェルター機能を期待していない、「j会社」をシェルターと見なすことは一般的にしない。(P71)


●業務の「引継ぎ」は行われない
日本では業務の「引継ぎ」が行われるのは当たり前であるが、中国では担当者が変わった場合、新しい担当者が決まるまでプロジェクトがストップする、担当者が具体的な仕事内容を把握していないといったケースがよくある。担当者が交代したり、辞めたりするときは、「業務の引継ぎは行われない」という心の準備をしておく必要がある。(P124)


●中国人とのビジネスは「個人対個人」が基本
日本人はビジネスの基本は「会社対会社」と考える。しかし、中国では「会社対会社」の関係よりも「個人対個人」の関係を重視する傾向にある。担当者個人の力がない場合にはビジネスがそこでストップしてしまう場合もある。(P145)


●「結果の平等」よりも「機会の平等」を重視する中国人
日本企業は組織やチームを重視するので、「みんなで頑張った成果は平等に分配する」という考えがなじみやすい。しかし、中国では「成果」に対する「報酬」に格差をつけるほうが一般的。個人の実績と貢献度に合わせて結果に格差が出ることは当たり前と考える。(P181)


●「契約は努力目標にすぎない」と考える中国人
中国人にとって「契約」とは、その「契約」を交わす時点で最良の方法だと思われることを、「契約」を交わす時点で文書に書き記したもの。つまり、「契約」を交わした後で状況が変化していけば、「よりよい方向」へ見直しを行っていくことは当然であると考える。(P239)


●「割り勘」にしない中国の食事会
若い世代の間では「割り勘」は一般的になっているが、伝統的な考え方はそうではない。中国人にとって「平等に負担すること」は貸し借りの関係をなくしてしまうことであり、それは「人間関係の清算」という意味に通じる。関係を続けていくためには貸しと借りを大切につないでいく(食事はおごり合っていく)というのが中国人の伝統的な考え方。(P270)


●「郷に入らば郷に従え」とは違う異文化理解アプローチ
異文化理解においては第一に「気づき」、第二に「自己認識」、第三に「接点探し」が重要。まず、自国文化との違いに「気づき」、そしてそれに対して、自国文化と対比してどうなのかと「自己認識」してみて、お互いの違いをはっきり確認した上でその「接点」がどこにあるのか探してみるというプロセスが大切。譲れる部分、譲れない部分等、円滑なコミュニケーションを進める上での選択肢がはっきり見えてくる。(P304)


すぐに役立つ 中国人とうまくつきあう実践テクニック/吉村 章
¥1,365
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★★★★☆(星4)


<My Opinion>


「習近平の正体」というタイトルからは習近平のネガティブな面がクローズアップされた本だと思われるが、本書では逆のポジティブな面が多く取り上げられている。習近平が通算25年にわたり地方幹部として過ごした苦労人であること、共産党入党を手助けしてくれた呂氏の恩を忘れずに、呂氏が重い病気を患った際に莫大な治療費を肩代わりする人情味のある人柄であること、共産党青年団しか支持基盤のないライバル李克強と比べ、上海閥、太子党、清華大閥、妻の彭麗媛の出身母体である中国人民解放軍等、幅広い支持母体を持つことなどが明らかにされている。


それこそ彼の「正体」は知る由もないが、少なくとも本書を読む限りは習近平が次期最高指導者になるべくしてなるのだなと考えさせられる。私がこの本を読んだのは2012年2月だが、初版は2010年4月であり、ちょうど日本人の間でも習近平氏の注目度が高まってきた時期であり、それを考えると、非常に良いタイミングで出版したものだと感心する。内容自体は星3つだが、タイムリーな出版タイミングに+星1つ。

習近平の正体/茅沢 勤

¥1,680
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★★★★☆(星4)


<My Opinion>


利権構造にメスを入れ、甘い汁を吸ってきた人間を追いつめたことで数々のガセネタをでっち上げられ、スキャンダルの嵐に飲み込まれた自身の横浜市長時代の舞台裏を告白。「政治家を殺すのに刃物はいらない」と言われている通り、一側面では人気商売である政治家はガセネタであっても猥褻、公金横領、飲酒運転等がメディアに出れば一瞬にして世間の人々はその話題に飛びつき、政治家の評判に傷がつく。事実無根であっても人々は「そうは言っても火のない所に煙は立たない」と考えるからだ。


例えば、週間現代は7週間連続で中田氏のスキャンダルを掲載した。週刊現代等という記事の裏づけもほとんどない、百害あって一利なしの週刊誌と普段距離を保っているような人ですら「多少は誇張もあるだろうが、ある程度は事実なのかもしれない」と思えてくるところが恐ろしい。7週間電車の中吊り広告に事実無根のスキャンダルが書かれた週刊誌の広告が掲載される。常人なら耐え切れないだろう。


中田氏は最後には一連の名誉毀損訴訟のすべてで勝訴した。マスコミが「驚愕の事実」として報じた数々の中田氏のスキャンダルは「驚愕の捏造」であったのだ。汚れ切った利権政治の世界にも背中がぞくっとする思いをしたが、同時にモラルの低下しきったマスコミの姿にさらに嫌悪感を覚えた。それらに立ち向かう為には確固たる信念と、いかなる時でも絶対に味方してくるサポーターの存在が不可欠なのだとも教えられた。マスメディアが流す情報への接し方を改めて自問させてくれた力のある本。


政治家の殺し方/中田 宏
¥1,000
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★★★☆☆(星3)


<My Opinion>


百度駐日主席代表陳海騰氏が新華僑(改革開放後に中国を離れて世界を股にかけて仕事をしているビジネスパーソンのこと)を代表して自身の仕事流儀を紹介している本。


百度は検索サイトとしては日本で商業的に成功を収めているとは言えないので、著者の実力がどのくらいのものか測りかねるものの、著者は中国人であり、中国人特有の商人気質を武器としながらも日本人的価値観を十分に理解しつつ日本で日本語でビジネスをしているという点で「現地化」のロールモデルとしては非常に参考なる。


例えば、彼は現職に辿り着くまでに日系企業を数度転職しているが、その際は絶対に前の会社と喧嘩をしないようにする、悪口を言わない、ちゃんと引き継ぎをする、同業他社に移らないという鉄則を守ったらしい。このあたりは正反対の行動を取ることが多い中国人ビジネスマンと比べて、ビジネスパーソンのあり方としても正しいと思うし、日本社会では特に歓迎される思考だと思う。


新華僑のスゴい仕事術というタイトルであるが、本書では新華僑=著者であり、別に新華僑一般に通じる仕事上の思考特性、行動特性の紹介がされている訳ではないので誤解ないように。


下記参考になった点をメモ


<Memo>


●日本式人事管理は中国では通用しない
中国企業には基本的に終身雇用制度がない。ほとんどの社員は、1年単位で契約を更新していく雇用形態。優秀な人材は、今働いている会社をキャリアを積んで行く為のステップと考えているし、企業側も優秀な人材を他社から引き抜いて迎え入れようとする傾向が強い。


●現地の言葉を社内公用語にせよ
中国でいちばん成功している外資系企業である韓国のサムスン電子では、公用語として中国語が使われている。彼らが送り込んできた幹部はみな韓国人だが、全員中国語を勉強してから赴任する。彼らの中国での経営理念は「中国人に愛される企業」だというから徹底している。


●中国ビジネスを成功させる秘訣
キーワードは「職人の日本人」と「商人の中国人」。
日本人の職人気質は、生来の手先の器用さとともに、いい加減な仕事を許さないモラルの高さによって支えられている。日本人はまたきめ細かいサービスも得意で、日本を訪れる中国人は、デパートや温泉旅館での接客に目を見張る。相対的に見て、日本人の特性は「職人」である。職人が作ったものを商人が売るという形で手を組めば、間違いなくアジアナンバーワンになれる。職人と商人が手を組めば、日中間で大きなマーケットを分け合うことが理想だ。


●職人の技をほしがる中国人中間層
世界の一流ブランドを買い尽くした中国の富裕層が、次の段階で求めるのが「世界でたったひとつの、自分だけのもの」だという事実に次のビジネスのヒントを見いだすことができる。その流れは富裕層の次に必ず中間層に及ぶはず。現に、日本を訪れる中国人リピーターが、ヨーロッパブランドよりも日本の職人が作り上げる一点物を買い求めるようになっている。今、いいものをコツコツ作り続けている日本の職人たちに必要なのは、巨大なマーケットのニーズに関する情報と、製品を商品として流通させるための道筋だ。


●信頼できる中国人の見つけ方
中国でビジネスを展開するときに欠かせないのは、中国法人の設立。その際、現地の事情を良く知る人間を社長にして経営の権限を与えることが鉄則。現地採用であっても、採用した人物を1年ほど本社に呼び寄せて、仕事をさせてから社長として送り込むのが良い。

新華僑のスゴい仕事術/陳 海騰
¥1,365
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★★★☆☆(星3)


<My Opinion>


和諧路線を継承する後継者の擁立を目指した党内の主導権確立に失敗した現胡錦濤政権にスポットを当て、胡錦濤後の中国政治体制の変化、外交姿勢への影響等を論じている。中国共産党内部の派閥の捉え方は的確で喩えもとても分かりやすい。


ーーーー
共産党指導部をあえて会社に喩えるならば、前社長の派閥が常務以上の多数派として居座り、現社長は自らの後継者を次期社長の座に就けることに失敗し、オーナー一族が次期社長含みで副社長になるという三派鼎立の構造になっている。(P158)
ーーーー


本書に則ればつまりこういうことだ。呉邦国を中心とした旧江沢民グループ(上海派)が、江沢民前総書記の完全引退に伴って凋落も目立つものの、依然として党最高指導部の多数派が占めている。また胡錦濤現総書記を代表とする共産主義青年団(共青団)グループは李克強常務副首相を07年の党大会で後継者の地位につけることに失敗した。そして、習近平国家副主席をはじめとする革命元老を親に持つ「太子党」は、基幹産業で独占的な地位を保つ国有企業や、国有企業改革を通じて民主化された有力企業の大半を支配しており、経済的利益で結びついたネットワークを背景に成長が著しい。


胡錦濤は党内での影響力確保の為に徐々に軍への傾斜を強めている。国家主席となった03年3月の全人代で党と国家の中央軍事委員会主席に江沢民が留任し、自身が2年間軍事委員会副主席に押しとどめられ、国家主席であるにもかかわらず軍への介入を遠慮せざるを得なかった苦い経験をしている為だ。自身が国家主席を退いた後も軍を掌握していれば相当な党内で相当な影響力を行使できることを彼は身をもって知っている。院政を実行する為には中央軍事委員会主席に留任することが唯一の方法である。


本書によれば、胡錦濤は党や軍内に根強い、大国にふさわしい国際的地位や、アジア太平洋地域での米国との軍事バランスを求める声に譲歩せざるをなくなってきており、周辺国に対して外交上強攻路線を取ることや、アメリカに対する姿勢にも強硬的な場面が増えてきたという。胡錦濤は2012年後半に行われる習近平が国家主席となる党大会で、共青団の巻き返しをはかることができるか、軍を信頼できる権力基盤としながら和諧路線を継承させることができるのか、注目どころだ。著者も言っている通り、「鉄砲から国家権力が生まれる」という毛沢東の至言は、いまだに中国を呪縛している。


共産党内部派閥争いが、巧みな例えと共に平易に解説されているという点で良書とは思うも、タイトルはやや誇張であり、読者に誤解を与えるような気がする。「中国問題の核心」と言われると何か一般的には見過ごされているKey factorの存在を期待するが、共産党の政局争いの一般的解説に終始している。

「中国問題」の核心 (ちくま新書)/清水 美和
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