その長さは寿命をあらわすのでは?
と言われたことがあるテロメアの、
正しい解釈が解説されていました。

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ノーベル賞を受賞した自身の研究を
加齢疾患リスクの指標に


人物:
エリザベス・ブラックバーン

職業:
細胞・分子生物学者、
テロメア(染色体の両端にるDNA)の構造と
機能を研究している。

所属:
カリフォルニア大学サンフランシスコ校

取り組み:
ノーベル賞を受けた自身のテロメア研究を
さらに発揮させ、
心臓病やがんなどの慢性疾患にかかる
総合的なリスクを評価する指標を
開発しようとしている。

聞き手:
T. シンガー(サイエンスライター)



細胞の時計テロメアは
染色体の端にある保護キャップで、
この画像ではオレンジ色の箇所です。


テロメアは個々の細胞が備えている“時計だ。

その働きについて
ブラックバーン(Elizabeth H. Blackburn)が
先駆的な研究を行ってから30年近くたったいまも、
テロメアは数々のニュースを生み出している。

ブラックバーンらによる最近の実験で、
テロメアがその人の
今後の健康状態を示す
パロメーターとなる可能性が示された。


テロメアは染色体の両端を構成するDNA部分で、
染色体がほつれたり互いにくっついたり
しないように保護しているが、
細胞分裂のたびに少しずつ短くなる。

テロメアの短縮度合いは
細胞の加齢を示すマーカーになるわけだ。

いくつかの種類の細胞では、
失われたテロメア部分がテロメラーゼという
酵素の働きで補充されるが、
その他の細胞では短縮が続く。

ある水準を超えると細胞は分装をやめ、
「細胞老化」の状態に入るか死んでしまう。


こうしたプロセスの多くを解明した功能により、
ブラックバーンと、
かつての教え子で
現在はジョンズ・ホプキンズ大学にいる
グライダー(Carol W. Greider)は、
ハーバード大学医学部のショスタク
(Jack W. Szostak)とともに、
2009年のノーベル生理学医学賞を受賞した。


ブラックバーンはカリフォルニア大学
サンフランシスコ校を拠点に、
たゆまぬ研究を続けている。

2004年には健康心理学者
エペル(Elissa S. Epel)とともに、
心理的ストレスと白血球の
テロメアの間に
関連性があることを示す論文を発表した。

それをきっかけに、
現在では数多くの研究によって
短縮テロメアと様々な病気の関連が示されている。

逆に、
テロメアが長いことは、
運動などの健康的な行動や
低ストレスと結びつけられている。

これらは、
簡単な血液検査でテロメアの長さを調べることで、
その人の全般的な健康状態を知り、
加齢の過程を垣間見ることができる
可能性を示している。


ブラックバーンらはそうした血液検査を行うため、
「テロムヘルス」という企業を2010年に設立した。

研究機関向けにサービスを提供するほか、
個人も医療機関を通じて検査を受けられる。

また、
別のグループは「ライフレンクス」という
テロメア検査会社を
スペインのマドリードに設立した。

こうした動きを受け、
検査の有用性をめぐる議論が高まっている。

サイエンスライターのシンガー(Thea Singer)が
ブラックバーンに聞いた。


ーーテロメアの短縮とともに
細胞がどう“年を取る”かについては
多くを聞かされてきましたが、
それが全身の加齢とどう関係している?

テロメアの短さが心血管疾患や糖尿病、
アルツハイマー病、
ある種のがんなどのリスクを予測し、
死亡率にも関連することが、
多くの研究から示されている。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の
同僚フーリー(Mary Whooley)が
60歳以上の780人を4年間追跡した
「安定期冠動脈疾患外来者調査」などによって、
テロメアの短さと死亡率の関係が明確になった。

ユタ大学の遺伝学者コーソン(Richand Cawthon)は
143人を15~20年にわたって追跡し、
テロメアの短い人の死亡率が
テロメアの長い入の2倍近いことを発見した。


ーーとすると、
テロメア短縮に関するとらえ方を改めて、
テロメアが「加齢」や「細胞の加齢」に
関連するというよりも、
「加齢疾患のリスク」に関連している
というべきなのですね。

そう思う。
加齢というとらえ方はあまり役に立たないので、
私は好まない。


ーー慢性的なストレスや幼少期のトラウマなどが
テロメアの短線に関連していると聞きますが、
その証拠は?

幼少期のトラウマ体験の数が
成人後のテロメアの短さに
定量的に関連していることが
複数の研究からわかっている。

トラウマ体験が多いほど、
テロメアは短い。

また私たちは、
慢性疾患のわが子の介護を通じて
母親がストレスを経験した年数と
テロメアの短さが相関していることを示した。


ーーダイエットや運動といった行動を通じて
テロメアの短縮を遅らせ、
さらには長くすることもできることが、
長期的研究から示唆されています。
この点について教えてください。

私たちが安定期冠動疾患の患者を
5年間追跡した結果、
オメガ3脂肪酸の血中濃度が痛い人は
総じてテロメア知が少ないほか、
5年間にテロメアが実際に長くなった人たちは
当初からオメガ3脂肪酸濃度が
高かった例が多いことがわかった。

これらの人で何が起こったのかを示す
データもあるのだが、
まだ論文にはなっていない。


ーーオメガ3脂肪酸を含む魚などを
もっと食べたほうがよい?

調査対象となった人たちは現在60歳代で、
軽い冠動脈疾患があって、
調査開始時には安定していた患者さんだ。

80歳代や40歳代の人。
15-30歳の人には当てはまらないかもしれない。


ーーかつては感染症が脅威でしたが、
現代では複雑な原因で生じる慢性疾患のほうが
大問題です。
この問題にテロメア研究はどう貢献しますか?

テロメアの研究は、
特定の病気の診断そのものは目的としていない。

私たちが見ているのは多くの場合、
加齢とともに増えてくる一連の進行性疾患との
統計的な関係だ。

これらの疾患には何らかの生物学的背景が
共通しているのだろうと考えている。

例えば、
私たちが糖尿病や心血管疾患と呼んで
別個に治療している病気の背景に
慢性の炎症があるという考え方が
注目を集めている。

そして慢性の炎症は
白血球のテロメアの短さとして検出できるほか、
テロメアの短さが慢性症の
一因である可能性もある。

テロメアの長さは、
数多くの生理学的影響をとらえている1つの
数値なのだ。


ーーがんができないうちに
医薬品などの手段を積極的に用いて
発病を未然に防ぐ
「がんインターセプション」の考え方は、
生理学的兆候をとらえるというコンセプトと
合致しますね。

その通り。
ポイントは早期にインターセプトすること。

かんが進行して人的にも経済的にも
大きなコストを伴うようになる前に
食い止めることだ。

研究のおかげで
ますます早期のがんがわかるようになり、
がんがどう進行するかもわかってきた。

だから、
非常に早期のがんに対して
特定の薬が実際に効くかどうかを、
現在では知ることがでさる。

極端な言い方をすると、
人々ががんを発する前に
そのリスク因子を把握して
”治療”することが可能だろう。

例えばいくつかの大腸がんに対する
高リスクグループが調べられており、

発症を未然に防ぐ方法がある。


ーーインターセプションにテロメアは
どう役立ちますか?

マウスの実験では、
テロメアの短さかがんの顕著なリスクである
ことが明確になっている。

ヒトで同じことが言えるかどうかは
これから確かめる必要があるが、
いくつかの個別のがんのリスクを
予測することが実際の調査で示されている。

免疫系に欠陥が生じている
(白血球のテロメアが短縮していたら
その疑いがある)
ためかもしれない。

がんを促進する慢性炎が
生じているせいかもしれない。

あるいは、
がん細胞そのもののテロメアが短縮して
遺伝的に不安定になり、
それががんを促進しているのかもしれない。


ーーテロメアの長さとがんのリスクには
遺伝的な部分がある?

テキサス大学MDアンダーソンルルセンターの
グ(Jian Gu)が率いた興味深い研究は、
その答えが「イエス」である場合があることを
示している。

彼らはテロメアの短さとがんのリスクが
違伝的に相伴っているかどうかを
先入観抜きで調べ、
膀胱がんに絞った論文を発表している。

「ゲノムのどんな変異ががんのリスクに
関連しているか」
を調べた結果、
テロメアの短縮とがんのリスクの両方を伴う
遺伝子変異が1つ見つかった。

そしてこの遺伝子を調べ、
免疫細胞の機能に関連する遺伝子であることを
突き止めた。


ーー最近、「テロメア検査で余命がわかる」
と報道されています。
実のところ、何がわかるのでしょう?

テロメア検査で余命がわかるというのは、
私に言わせればバカげている。

この検査は
病気を診断しようというものではないし、
100歳まで長生きするかどうかを語るものでもない。

しかい長期の傾向を統計的に見れば、
確率はわかる。

つまり、
例えば一般的な加齢疾患の一部に
かかりやすくなるかどうか、
そのおおよそがわかる。

テロメアの長さの検査を目的に
設立された私たちとはとは別の企業は
「ライフレンクス」という社名にしたが、
これは人々に何やら意味ありげな印象を与えた。
この名前はおそらく不適当だ。


ーー検査結果を有効利用するには?

最適な方法があるかどうかはまだわからない。

テロメアの長さが6カ月とか4カ月で
変化しているのは確かにわかるが、
1週間での変化はわからない。

科学的原理からいって、
定点が多いほど傾向がよく見えるようになる。

だから6カ月間隔の検査が妥当だろう。


ーーテロメア検査はコレステロールの
検査と同じように思えます。
年齢や性別、生活・行動様式などが
同じ人々の標準値から、
その人がどれだけ離れているかを百分順位で示す。

その通り。
ただしコレステロールは心血管疾患との関連が
はっきりしているのに対し、
テロメア検査はもっと一般的だ。

体重のようなものと考えてもよい。

体重は健康の多くの側面を示す指標になりうる。

体重過多は明らかによくない。

同様に、
テロメアが短すぎるのはよくない。

だが、
体重もデロメアの長さも人によって実に様々だ。

それでも医師は体重を指標に使うでしょう?

役に立つからだ。

そして医師は体重の長期間の変化に注目する。

テロメアの長さも同じだと思う。

多くの事柄を統合して示す数値であり、
臨床の場で単独で使われることはないだろう。


ーーコレステロール検査の場合は
標準値を設定するに十分なデータがあって、
それに基づいて
「高い」とか「低い」といえるのに対し、
テロメアの長さについては
十分なデータがまだない、
と批判する人もいます。

それは違うと思う。

最近はより精緻な解析がされるようになった。

すべての人をいっしょくたに扱うのではなく、
グループに分けて解釈できる。

何百何千もの異なる集団について
テロメアの長さが解析されており、
それに基づいてどんなことを予測できるのかが、
かなりわかってきたと思う。

もちろん、
データは多いほうがよいが、
どこかで始めなければいけない。

学界と個人の両方で、
テロメア検査の実施を望む声が非常に高まった。

そこで、
検査結果から推定できることの精度を
大げさにいうのを避けながら、
まずは検査を提供しようと考えたわけだ。


ーー検査をご自身の研究室で実施するのではなく、
企業を設立して行うことにしたのはなぜですか?

測定結果を提供するには、
責任ある信頼性の高い技術が重要だ。

カリフォルニア大学の私の
研究室はすでに要求に応えるのが
手一杯の状態だったので、
会社を設立して技術を移転した。


ーー生命保険会社や医療保険会社が
テロメア検査の結果を適格性審査に
使うかもしれないという懸念があります。
これにはどう対処しますか?

情報を隠すことはできないが、
提供する医療情報の正確さを保証し、
適切な状況のなかで入手され、
保険の除外理由として
科学的に誤用されないよう努めることはできる。

また、
テロメア検査の結果は確率を提供するだけだから、
保険の適格性を判断する材料には
そもそも使えないだろう。

とはいえ気にとめておく必要はある。

私たちの目的は、
人々が自分の健康を管理するのに
役立つ1つの方法として、
この検査を提供することにある。


ーー批判的な人たちは、
誇大宣伝された個人向け遺伝子検査に
テロメア検査をなぞらえます。
遺伝子検査は変異を調べて
特定の病気へのかかりやすさを示すものですが、
テロメア検査はどう違うのですか?

テロメア検査は
消費者を直接の対象にはしていない。

ここは明確に峻別すべきだ。

私たちは医療の専門家を通じて
検査を提供することから始める。

これまでの多くの研究によって、
テロメアの短さと病気のリスクの間に
明らかな統計的関連が確立された。

テロメア科学の最近の進展は急で、
研究に関与していない科学者にとっては
ついていくのが難しくなっている。


ーーご自身もテロメア検査を受けるつもりですか?

ええ、
この会社が個人向け検査を提供するときが来たら。
楽しみにしているわ。
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テロメアの長さと寿命の長さを同一視するには
無理があって、
健康の指針として活用されている
体重のようなものと考えるのが自然のようです。

体重が増減するように、
テロメアも長さが変わるって不思議です。
ストレスが影響しているのは確かに!ですね。