交通事故で大出血、
あるいは手術中に出血が激しくなったようなとき、
もし、
輸血ができなかったら・・・

そう考えると、
患者本人は言うまでもなく、
医療現場にいる医師ならずとも、
なにやらぞっとしてしまいます。

心の準備も兼ねて、
ちょっと調べてみました。

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輸血の現状

これまで、
輸血がひじょうに多くの人々の
生命を救ってきたことは、
誰しも認めるところです。

現状では、
需要を十分にみたすだけの血液が
スムーズに集まっているとは言えません。

そしてまた、
たとえ善意で提供されたとしても、
その血液が病原微生物、
たとえば肝炎ウイルスや
梅毒スピロヘーター、
あるいはエイズウイルスに
感染したものであれば、
使用できないことは言うまでもありません。

さらに、
これらの検査をクリアしても、
保存期間が3週間という制約があります。

その期間内にタイミングよく使うことができず、
期限切れになってしまう血液の量も
少なくありません。


動く臓器とも呼ばれる血液は、
栄養補給、
体液バランスの調整、
外部からの異物や病原微生物に対する
免疫反応など、
さまざまな働きをします。

なかでもとりわけ重要で緊急性を要する役割は
「ガス交換」
全身すみずみにまで酸素を供給し、
不要となった二酸化炭素を
肺を通して体外に排出することです。

そして、
その主役を担っているのが赤血球です。



赤血球の中にはたくさんの
血色素(ヘモグロビン)が詰まっています。

このヘモグロビンというのは、
鉄原子を含むポルフィリン誘導体「ヘム」と、
「グロビン」と呼ばれるタンパク質が
結合した物質で、
酸素にとてもくっつきやすい性質をもっています。

つまり、
体内の酸素運搬を担っています。

酸素運搬能力をもった赤血球を、
なんとか人工的に作ることができないか
って考えるのは普通です。

夢の人工血液は可能か、
それがいま、
先端研究者たちがもっとも
力を入れているテーマです。


せっかく献血してもらっても、
保存期間を過ぎて使えない血液が
けっこうあることはもったいないことです。

しかし、
期限切れになったからといって、
それをすぐそのまま捨ててしまうと
いうわけではありません。

血漿成分から抗体を抽出し、
アルブミン製剤の原料として利用すると
いったことも行なわれています。

ただ、
こと赤血球成分に関しては、
これまであまり有効な使い道がなく、
廃棄されることが多々ありました。


なんとかこれを再利用しようと
試行錯誤されてきました。


酸素を容易に着脱する性質を
もっている物質として
フッ化炭化水素(フロロカーボン)
が以前からよく知られていました。

「治療薬として一応認可されていますが
いくつか問題があり、
実際に使用できる場面はかなり限定されます。


赤血球は中央の凹んだ円盤状の袋、
薄い皮の中にぎっしりとヘモグロビンが
納まった構造をしています。

この皮にはウイルスなどが
くっついていることが多く、
血液型も皮の性質によって決定されます。

これをはぎ取ってしまえば、
感染の心配はないし、
血液型を適合させる手間もいらなくなります。

赤血球の皮を破り、
その内容物であるヘモグロビンだけを
利用できないかという発想は
ずいぶん昔からあったらしいです。

ヘモグロビンは4つの分子から
成り立っているわけですが、
それを直接からだに入れると、
すぐばらばらになってしまいます。

そして、
腎臓のフィルターをくぐり抜け、
血尿になって体外に出てしまいます。

これでは酸素運搬の役に立ちません。


最近では、
ヘモグロビン修飾、
ヘモグロビン分子に髭を生やしたり、
分子間に橋をかけて固定したりする
といった方法が開発されています。

塊を大きくすることによって、
とりあえず腎臓から擦り抜けないように
してやろうというわけです。

しかし、
大量のヘモグロビンを直接血管の中に入れると、
血液が粘っこくなってしまいます。

そうなると、
心臓に大きな負荷がかかり、
とても耐えられません。

それで、
血液と同じような
さらさらとした状態を保つために、
ヘモグロビンの集団に薄膜をかけ
「ヘモグロビン小胞体」と呼ばれる
本来の血液性状に近い
ヘモグロビン機能、
つまり酸素運搬の中核となる
へムという物質を化学的に合成し、
それを球状の油滴に加工したものを
人工的に合成した「人工赤血球」を
作ることになりました。

このヘモグロビン小胞体を使えば
感染の危険はないし、
拒絶反応もありません。

それに、
何度も繰り返し使えます」

すでに臨床試験が始まっていて
実際に人間に使うことができる段階にまで
入っているようです。

承認までにはハードルがあると思われますが、
早ければ2027年度には実用化が
期待されているようです。

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人工赤血球が安全に使えるようになって、
大地震の際の被災者救援といった場面で、
現地の小さな診療所の薬棚に
無造作に置かれたこの人工赤血球が
活躍する日が来て欲しいです。

他人の血液ではないし、
思考停止カルト集団からの反発にも
遭わないでしょうし(笑)