古い話になりますが、

「十戒」という映画を見た方が多いと思います。


モーセがヘブライの民を引き連れて

エジプトを脱出するとき

行く手をはばむ海が二つに割れ、
民が海底を歩いて
無事に対岸に渡るというシーンがありました。

当時の私は、
映像の迫力にただ圧倒されるだけ
だったと思います。


しかし、
ものすごく強力な磁石を使うと、
そんなこともおこるのだそうです。

具体的にこんなふうに解説されていました。
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ある種の物質は、
磁石をそばに近づけると、
磁石の影響を受けてそれ自身が磁化されます。

磁化の強さは近づけた磁石の強さに比例します。

磁化されたものの
N極とS極の方向が近づけた磁石の

N極とS極の方向と同じ場合、

この物質は磁石に引きつけられます。

鉄やニッケルは
このような性質をもっています。

そして、
じつは酸素もそのような性質をもっています。

ただし、
酸素の磁化はきわめて小さいのに対して、
鉄やニッケルは
ケタ違いに強く磁化されます。

ここまでは、日常的に知っていることです。


ところが、
ある種の物質は磁石のそばに近づけると
やはり磁化されるのですが、
その物質内の電子の運動のために
N極とS極の方向が近づけた磁石の
N極とS極の方向と反対になるように
磁化される場合があります(反磁性体)。

その場合は
磁石に引きつけられるのではなく、
逆に反発する力がはたらきます。

水やプラスチック、
そのほか多くの有機物には
このような性質があります。

ただし、
その磁化のされ方は非常に小さく、
近づけた磁石の強さの100万分の1程度です。
したがってその反発力もきわめて小さいです。

このように、
多くの物質は磁石の影響を受けて
それ自身が磁化されるという
潜在能力をもっています。


しかし、
一般的な強磁性体に較べ、
反磁性体の磁化の大きさは
たいへん小さいので、
身近にある磁石程度の強さでは
水やプラスチックが磁石の影響を
「受けるという実感は得られません。


ところが、
最近の超伝導を用いて作った
磁石の進歩を背景に、
強力な磁場が実験レベルで容易に
利用できるようになってきました。

その結果、
いままであまり目にとまらなかった
物質の微弱な磁性が
目に見えるようになりました。

酸素ガスが磁石に引き寄せられたり、
水滴や木片が磁場中で浮上する現象が
観察されています。


水は反磁性体であるという話でした。

反磁性体の磁化は磁石の極性と
反対方向の極性をもつので、
磁場の中では不安定な状態です。

そのため、
水分子はなるべく磁場が弱いほうに
遠ざかろうとします。

その結果、
磁場中心の水は周辺に押しやられ、
重力とバランスのとれた位置で安定します。

水槽の水に強い磁場をあたえると、
これと同じような光景が見られることが
知られています。


大きな横置きのコイルを中に置いた水槽の場合、
磁場の強度は水槽の中央部分で
いちばん強くなっており、
その磁場の強さは10テスラとします。

水槽の水面は中央部で下がり、
周辺部分と約4センチメートルほどの
高低差ができます。

4センチメートルでは海が割れるというには
大げさすぎるかもしれません。

しかし、
もし磁場の強さを80テスラとすると
高低差は数メートルにも達すると予想されます。

磁場の強さを示すのにガウス、
あるいはテスラという単位を用います。

80テスラは80万ガウスです。

普通の棒磁石はおよそ1000ガウス程度なので、
80テスラはその800倍の強さになります。

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普段の生活では、
有機物が反磁性体ってことを意識しないですけど、
スケールの小さな世界には別世界が広がっていて、
アリスが住む世界も、
あながち夢物語ではなく思えてきてしまいます。