古い技術雑誌を引っ張り出しています。

不安とうつについて
興味深い記事がありましたので、ちょっと紹介。


ストレスと遺伝子の関係

私は、
不安とうつは「すべて」ストレスが原因だとか、
ストレス「だけ」が原因だという印象を
与えるつもりはない。

もちろん、
どちらの病気にも遺伝要素がかなり関係している。

ドーパミンやセロトニン、グルココルチコイドの
受容体は遺伝子によって構造を決められている。

遺伝子はまた、
化学伝達物質を分解して
シナプスから取り除くポンプとして働く酵素や、
BDNFのような成長因子なども決定している。


だが、
それらの遺伝的影響は決定的なものではない。

一卵性双生児の片方が
重い精神疾患にかかっていても、
もう片方が同じ病気にかかる可能性は
50%しかないのだ。


それよりも、
遺伝的影響が一番大きいのは
脆弱性にかかわる点らしい。

つまり、
ある環境に対して
脳や身体がどのように反応するか、
ストレスを感じたあと
脳や身体が簡単に平衡を取り戻せるかどうかが
重要なようだ。



生まれた直後からの経験もまた、
ストレスの多い環境に対する反応方法に影響する。

また、
妊娠中の雌ラットにストレスを加えると、
胎盤を通過して
胎仔に届くグルココルチコイドの量が変化する。

これによって、
成体になってからの海馬の構造と機能が変化する。


生まれたばかりのラットを
母親から長時間引き離すと、
成体になったときのCRH濃度が高くなる。

精神生物学の権威であるレバインは
この点を説明するために、
フォークナー(William Faulkner)の
「過去は死んでいない、過去は過去ですらない」
という小説の一節を引用している。


精神疾患におけるストレスの影響を理解すると、
さまざまなことがわかってくる。

不安や抑うつに遺伝的な要素があるとしても、
こうした病気が一生治らないと
いうことではない。

また、
何百万という人々を救える可能性のある
新しい治療法への道も開かれつつある。


これらの病気の生物学的な状態と
感情の「正常な」状態に明確な境界は
ないことを考えると、
これらの知識は
「一部の人々の病気」だけではなく、
私たち誰もの日常生活に関係がある。


おそらく最も重要なのは、
こうした知識によって
1つの社会規範がもたらされることだろう。

これほど多くの人々がつねに用心し
警戒しなくてはならないと感じるような、
あるいはいつも無力感を感じるような世界を
癒す方法を探ることが必要なのだ。

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20年前の日経サイエンスの記事ですが、
今読み返してもなるほどと思えてしまいます。

うつは個人の病というよりも、
世の中に漂う暗い雰囲気にも
原因があるってことですね。

終末思想で恐怖を植えつけて、
マインドコントロールする一部の
カルト宗教が思い浮かんでしまいます😵