古い技術雑誌を引っ張り出しています。

不安とうつについて
興味深い記事がありましたので、ちょっと紹介。


副作用の少ない薬を求めて


既存の薬は
ストレス系のさまざまな側面を
ターゲットとしている。

バリウムやリブリウムのような抗不安薬は、
ベンゾジアゼピンと呼ばれる化合物に分類される。

これらの薬は筋肉の緊張を和らげ、
青斑核から扁桃核へ興奮性の信号が
伝わるのを抑制する。

その結果、
扁桃核によって交感神経系が
活性化する可能性が低下する。

最終的には身体の状態が安定し、
そして不安による身体症状が抑えられれば、
精神的な不安も小さくなる。


ベンゾジアゼピン類は有効だが、
鎮静作用と薬物依存性がある。



そこで、
もっと問題の少ない薬を見つけようという
研究も行われている。

そのため、
青斑核や扁桃核よりも上流で起きる
ストレス反応を標的にした代替薬が
候補となっている。


アドレナリンは
迷走神経と呼ばれる神経を活性化する。
この神経は脳のある部位を介して
扁桃核を刺激している。

新しい治療法はアドレナリンによる
迷走神経の刺激を抑制する。

アドレナリンのような化学伝達物質は、
標的細胞の表面にある特異的な受容体との
相互作用によって効果を発揮する。

受容体はそれぞれ1種類の伝達物質とだけ
結合する。

だが、伝達物質の偽物を合成することで、
体内の本来の伝達物質の活性を
ブロックできるようになってきた。



βブロッカー(受容体拮抗薬)と呼ばれる薬は、
ある種類のアドレナリン受容体に結合し、
本物のアドレナリンによる情報伝達を
すべて抑える。

この薬は交感神経系の亢進による
高血圧を低下させたり、
人前での緊張を抑えたりするために
長い間使われてきた。

だが、
カリフォルニア大学アーバイン校の
カーヒル(Larry Cahill)と
マゴー(James McGaugh)は、
これらの薬には不安を抱かせるような
出来事や経験に関する記憶の形成を
抑制する作用もあることを示した。

この発見からハーバード大学の
ピットマン(Roger Pitman)らは、
深刻な外傷体験をした人が
心的外傷後ストレス障害(PTSD)に陥るのを
食い止められるのではないかと考え、
βブロッカーを
投与する研究を進めている。

この他、
扁桃核そのものに作用する薬も考えられている。

すでに述べたように、
覚醒刺激に対する扁桃核の反応が
単純なものから持続的な過覚醒に
変化するには

記憶の形成、
さらには新しいシナプスの成長も
関与していると思われる。


私たちの研究室では、
これらの変化
を分子生物学的な観点から
調べている。


持続的なストレスが
シナプス形成に及ぼす影響は
海馬と扁桃核で正反対だ。

そこで、
ストレスによってスイッチを
オン・オフされる遺伝子の特性が
両者でどのように異なるのかを解明し、

その結果をもとに、
ストレス時のシナプス形成を
阻害するタンパク質の遺伝子を扁桃核へ導入し、
変化を阻害することを目標としている。

無害化したウイルスを使って
扁桃核に遺伝子を導入するのだ。
(D.Y.ホー/R.M.サポルスキー
 「遺伝子治療の夢と現実脳・神経系の
 病気への応用」
 日経サイエンス1997年9月号を参照)。


もう1つのターゲットはCRHだ。

CRHは扁桃核が情報を他へ送るとき
に利用する神経伝達物質だ。

CRHとその受容体の構造に関して
得た知識をもとに、
受容体に結合してブロックするような
偽の化学物質が開発された。


エモリー大学のデービス(Michael Davis)は、
これらの化合物がラットの不安モデルで
有効なことを立証した。

以前にショックを与えられたことのある檻に
ラットを移すと不安のため動かなくなるが、
これらの化合物を与えるとその度合いが軽減した。

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20年前の日経サイエンスの記事ですが、
今読み返してもなるほどと思えてしまいます。

不安の原因とプロセスが分ってくれば、
それに直接作用して副作用が無い薬を
作りやすくなりますね。

良い薬が出来て
緩和できるように願いたいものです😊