「当店のシステムはご存知ですか?」
「いいえ、ここは何をしているお店なのですか?」
「当店は、一号室から六号室までのどこかへ入室頂き、室内の女の子からサービスを受けていただきます。サービス内容や料金・時間は直談判となります。宜しいですか?」
「それは違法なことなんじゃないのか?」
「サービスがですか? 料金システムがですか?」
「どちらもだよ」
「とんでもございません。法律を遵守して経営させていただいております」
「なるほど。じゃあ三号室の桜をお願いできるかい?」
「かしこまりました」
階段を上る客の足音が響いてきて、自分の部屋なのかどうか期待を寄せる。私は日の大半をこの六畳一間の湿った部屋で過ごしている。
扉がノックされ、心臓がそれまでと少し違うスピードで揺れ出した。
「いらっしゃいませ」
見覚えのある人間が現れた。そして顔から血の気が引いた。
「お、お父さん!」
「そんな格好で何をしているんだ、桜」
父親が入ってきて、部屋を隅から隅まで観察し始めた。
「お前こんな湿った部屋で何してるんだ?」
父親の顔には怒りのような、それを通り越した呆れのような、複雑な表情が浮かんでいる。
「ええっと、サービスを、色々なサービスを……」言葉に詰まる。
「サービス? 例えば?」
「お客さんと話をしたり、一緒に御飯を食べたり……」
「では、何故風呂とベッドがあるんだ?」
「あう、あああ」最悪だ。
父親はこういう店に入る人間では無い。どこからか情報を手に入れて、娘を叱りにきたことは明白だった。
室内はこれまで以上に湿気を帯びて、全ての音がワンテンポずれて聞こえてくるような感覚がする。終いに父親の姿もぼやけて見えて、あれ? 何だろうこの感覚は……そこで意識を失った。
目が覚めるとそこは、自宅でも病院のベッドでもなく、見慣れない個室だった。そして直にその意味がわかった。私は二号室に昇格したのだと。
二号室は牢獄のように暗く、黒く、風呂も存在しない。そして何より、私の体はギシギシ音がなるパイプベッドに固定されていて、身動きが取れない。これから何ヶ月いや何年という時間をこの姿のまま過ごす。
それが二号室の試練である。この苦しみ(喜び?)を乗り越えなければ、一号室には入れない。
それから一週間が過ぎた。三号室との違いは、客質である。相手を人間とは考えていない、そんな感情の人間が大半だった。性欲を私にぶちはけて、満足して笑みを浮かべながら部屋を出て行く。また来るぞと声は出さないが、心の中に響いてくるようだ。
食事は一日三回スタッフから与えられる。当然体の拘束は解いてもらえない。
もちろん風呂にも入れない。体の隅々をスタッフに拭いて貰うだけの生活。介護されているような感覚になる。
昔から思っていた疑問、どうして部屋の番号が減っていくのかと。こんなに待遇のよい店をどうして辞める人間がいるのかと、簡単だった。この二号室があって、誰もが嫌になるんだ。きっと昨日一号室か二号室の人間が辞めた(または死んだ)のだろう。でも私は辞めない。このままこの部屋で人生を終えようと屈しない覚悟だ。
私は外界が怖い。出たくない。だからこのまま永遠に私を飼育して下さい。どうかお願いいたします。老化して客が付かなくなった時は、私に死を与えてください。怖いんです、自分で死ぬのは。だから最後まで甘えてもいいですか?