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SM小説

酒を飲みながら書く小説

 単調な造りの部屋には、そこにあるべき物しか無かった。まあまあの速度で体を一周させたなら、そこに何が置いてあったか、配色はどうだったのか、全てを言い当てられそうな単調さである。

 その答えを述べるならば、赤と黒の配色に、テーブルが一つ、椅子が二つ、人間が三人、蝋燭がテーブルの中央にあり、その横には花が活けてあり、少し遠くに風景画が掛けられている。時計もクーラーもテレビも無い。

 そこには無言の人間と、目の保養にならない絵と、飽き飽きする草木の臭いと、不思議な存在感のみが、お互いを侵食しないよう慎重にバランスを保っていた。


 向いに座っている黒服の坊主頭が、どこからか鉛筆を取り出した。鉛筆には透明のプラスッチクでできたキャップがはめ込まれていた。六角形のそれを手の平で転がして、テーブルの上にそのまま放った。

 鉛筆はある程度のスピードで転がり、あるタイミングで速度を失い、そして静止した。

「油絵だ! 油絵をここに持ってこい」

 坊主の男は隣で立っている、人形のような女にそう指示した。

 人形のような女は口をずっと開けている。とても綺麗な容姿なのだが、その開け放たれた口から涎が垂れていて残念だ。人形のような女は壁に掛けられた油絵を手に取り、テーブルの上にゆっくりと置いた。

「この絵が何かわかるか?」

 男は絵から目線を話さないまま訴えかけた。きっと私に話しかけているのだろうと感じた。

「……。どこでしょう? どこかの港町、遠くから写された描写を丁寧に描いている」

「ほお。これはどこだ?」

 坊主頭が嬉しそうに声のトーンを変えた。隣で口を開けたまま立っている人形のような女は微動だにしないが、坊主頭のトーンに面食らっている様で、体を小刻みに動かしている。小便を我慢しているようにも見えるし、誰にも見つからないようこっそりと自慰をしているようにも見えた。

「どこか? 場所は特定できない。海が側にあり、白を基調とした欧風な様相。たぶんギリシャか、その近くか、ギリシャに強く影響を持っているどこか」


 壁をそって蜘蛛が這っている。蜘蛛は特別な存在をアピールするように、黄色く輝いていた。天井を見上げれば、そこにライトスタンドが浮いている。平面に置かれることを仕様としている物を、強力な粘着剤で強引に逆さまに固定された、本来の機能を無視された使い方と感じる。そして灯りはそのものから灯されていない。

 乾いてしまったウェットティッシュ、イヤホンが無くなったi Pod、埃まみれの空気清浄機、温くなったコーラ。

 本来の機能を果たさない媒体はそこらに転がっている。それらと同じように意味を成さない、役目を終えた、ポンコツが宙に浮いていて、自分を見下ろしている。


「よろしい。この絵は何を訴えている?」

 抑揚を書いたトーンに戻った。まだ無言のままの方が幸せだった。女も空気を読んで口を閉めた。床にだらしなくこぼれ落ちた自分の唾液を見つめながら、口の周りをそそくさと拭った。

「訴えることなど何もない。ただそこにある情景を我々に誇示している。豆のように遠くに確認できる人間が、今まさに飛び降りようとしている瞬間を捕えている。現場証拠だね」


 男は女の手を強く引き奥へ消えていった。ほどなくして奥から女の喘ぎ声が聞こえてきた。どうやら男は女に欲情をぶつけているようだ。


 意味を見出せないことへ夢中になることは難しい。だから予想や真実に近い企てを空想して、こちらから働きかける行為が必要になる。意味の無い、存在しない、そんな空白を埋めるのはいつも、私たち自身であるのだから。


 奥から声が聞こえなくなった。そっと席を立ち、物音立てぬよう歩き、奥の空間を見てみた。