毎年十二月を迎えるとイーリンが現れる。綺麗に櫛を通された黒髪、少し釣りあがった目、小さい鼻、少し暑い唇。人に例えると、どことなく中国人を思わせるから、イーリンと言う名前を付けた。
イーリンは私の用意した赤いチャイナドレスを纏い、自分の姿を立ち鏡に映していた。彼女の目線は、彼女自身とは別の何かが映っているようだ。
イーリンは息をしない。食事も取らない。寝ない。とても不思議な存在だ。
動くことと、人に似た容姿をしているところ意外は、人と異なっているように思える。血流が無いから心臓も無いようだ。息をしないから肺も無いのだろう。考えているのか、考えていないのか、脳あるいは脳のようなものはあるようだ。とても不思議な存在だ。
イーリンは何度注意しても車に轢かれる。その度に体がバラバラになる。運転手は青ざめた顔で駆け下りてきたり、スピードを倍に加速して逃げたりした。私はイーリンを抱えて、何事も無かったように歩く。少し時間が経つと、バラバラになった体は、いつの間にか元に戻っている。元に戻る瞬間を目にしたことは、まだ一度も無い。死に際に消えてしまう猫のように、戻る瞬間を絶対に目に入れさせてはくれないのだ。
イーリンは直ぐに誘拐される。男子トイレの横に置いといたイーリンは忽然と姿を消してしまう。そんな時は探しても見つからないのだが、必ず同日の夜には家に一人で戻ってくる。何があったのか、誰に連れて行かれたのか、そんなことを問いかけても何も教えてはくれない。
イーリンはその他にも、高いところから落ちてしまうし、水に沈んでしまうし、火を触って燃えてしまう。その度に周りの人間は、一瞬硬直する。少し経ってイーリンに駆け寄る、しかしイーリンは何事も無かったように、とことこと歩き出すのだ。
週に一度、新しいチャイナドレスを買いに行く。彼女の手を引いて、それらしい店に入る。店内には色彩豊かなチャイナドレスが飾られている。足首までのサイズとミニスカートのサイズがある。黒いミニスカート風を選び購入する。
家に戻りセックスをする。人の女性器にそっくりな部分へ挿入し腰を動かす。イーリンは声を出さないし、感じることも無いので無表情のままだ。非常に淡白な手淫をしている気分になる。最後はそのまま中へ出してしまう。きっとイーリンは何も思っていないだろう。
年末を向かえ大晦日の深夜が迫ってくる。イーリンの体は少しずつ透明になり、見えなくなっていく。
また来年もお願いします。