パン屋の隣に住んでいた女性がいた。


聞けば、そこのパン屋は
雑誌やテレビで紹介され、
連日賑わいをみせる有名なパン屋らしい。

中でも、
デニュシュ食パンが大人気で、
一本買ってまるごと食べるのが
至福のひとときなんだとか。

友人が家に遊びに来るときも、
そこのパン屋でたくさん買い込み、
手淹れのコーヒーと共に
皆でワイワイ食べるのが
最高のおもてなしなんだと、
彼女は言っていた。




一年中、春のパン祭り状態の彼女は、
みるからに糖質太りの体型だった。
パン屋の隣に住みはじめて
2年間で8キロも太ったんだとか。

朝、昼はパンしか食べない
夜はほとんどパスタやラーメン

そんな炭水化物まみれの彼女が、
ある日突然
ダイエットすると言いだしたのだ。



「毎日パンばっかり食べられなくなるね」

私は、軽く受け流すように答えた。


ダイエットコーチングしている中で、
一番厄介なのが、糖質依存タイプだ。

糖質には麻薬に似た中毒性があり、
それを抜くには
それなりの我慢を強いられる。

美味しいパン屋の隣に住んでる彼女が、
その誘惑に勝てるわけがないと思ったからだ。






「だからね、引っ越しするの、来週」

彼女の口から予想外の言葉が返ってきた。




なんと大胆なダイエット法なんだろう。
人は、食べることを我慢すると、
1.5倍食べたくなり、
いつもの2倍食べてしまう
という話がある。

だからこそ、
食べることを意識しなくてすむ
行動と環境作りが大事なのだ、と
そういつもクライアントに言っている

彼女の場合、
どうしてもパンを絶ちきれないからと
悩んで考えた末、
仕方なく引っ越しを決意したのではなく、


「じゃ、引っ越しちゃえばいいじゃん」

と、はじめからいとも簡単に、
家ごと逃れるという
大がかりなダイエットを決行したのだ。








数ヶ月が経ったころ、
彼女の事が気になって連絡してみた。
どれくらい痩せたかを聞いてみたかったのだ。





「ところがね、
引っ越した家の近くにすっごく美味しい
イタリアンのお店があってね … 」


パンの誘惑から逃れるための
引っ越しであったが、
引っ越した先の事は
まるで考えてなかった彼女の甘さが
ダイエット失敗の原因だったのだ


「引っ越しダイエット」

きっと日本では
無人島にでも引っ越ししなければ、
成立しないダイエットなのだろう。



ボディメイクコーディネーターYoko