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今、ここを過ごせますように~~認知症の夫と

夫は67歳でレビー小体型認知症と診断されました。
あの時ああしていれば…
これからどうなるんだろう…
どうしようもない過去や、どうなるかわからない未来に、つい囚われそうになります。
今できることに心を込めて過ごしてゆけるようになりたいです。

新しい認知症病棟での初めての面会では、

夫は腰のベルトで固定されたリクライニングの車椅子を押してもらって面会室に現れました。

私のことを認識しているようには見えなくて、最初は無表情だったのに、次第に苦しそうに顔を歪め、身体をよじらせ、大きな声を上げるようになったたため、面会は早々に切り上げました。

 

そして昨日は娘たちと都合が合ったので3人で病院に行きました。

土日の面会は不可と聞いていたのですが、

面会室には入れないけれどガラス越しに会う?見る?ことはできる、ということで。

 

エレベーターを降りた病棟のエントランスからは、ガラスの自動ドア越しに患者さんたちが集まるラウンジが見渡せます。

その時は10数人の患者さんたちが、立っていたり座っていたり各々のやり方で、スタッフさんの声掛けに合わせて体操をしていました。

 

「お父さんいる!」

娘の声で中の様子をよく見ると、中央あたりに椅子に腰かけた夫が見えました。

 

体操している人たちの中に交じっている!

椅子に座っている!

 

少し前はベッドに拘束されていた夫が、

号令をかけられながら集団で何かをするなんておよそ考えられない夫が、

すんとした表情でそこにいました。

 

もちろん身体は一切動かしていないけれど

以前の夫なら不快そうな表情をして、

「部屋に帰る。」と病室に戻りそうな場面なので、

認知機能がすっかり落ちていることを再認識。

 

看護師さんが夫に近づき、エントランスいる私たちの方を指し示しながら夫に声をかけているのが見えました。

立ち上がってこちらに目を遣った夫の表情がぱっと変わったのがわかりました。

スタスタとしっかりした足取りで歩いて近づいてきた夫は、

開かない自動ドアの隙間に手を入れ、ドアをこじ開けようとし始めました。

 

椅子を持ってついていらしていた男性看護師さん二人が慌てて

「開かないんですよ!」

「今日はここで見るだけなんですよ!」

と声をかけながら夫を止めて椅子に座らせようとするけれど、

夫は必死の形相でドアをこじ開けようとし続けます。

 

こちらからも長女が、ドアの隙間から差し込まれている夫の手を戻そうとしながら、

「お父さん!ここは開かないんだよ!今日は仕方ないんだよ!」

と声をかけるけれど、夫はますます混乱した表情になって更に必死に開けようとします。

 

看護師さんたちが声をかけながら、ドアに張り付くようにしている夫の身体をはがすようにして椅子に座らせようとした時、

夫の悲嘆に満ちた表情がみるみる崩れ、夫は今にも声を上げて泣き出しそうな顔でこちらに手を伸ばしながら椅子に腰を落としました。

私たちが見えなくなった方がいいはず!と、急いでエレベーターに飛び乗り病院を出ました。

 

エレベーターに乗った途端涙が溢れました。

沈着冷静で、感情を大きく表すことが滅多になかった夫があんな表情をするのを初めて見た気がしました。

 

自分の両親が亡くなった時も涙を見せなかったのに、一度だけ泣くのを見たのは夫が40くらいの時。

夫を可愛がり引き立ててくれていた先輩が、出張先のホテルで心筋梗塞で急逝したという連絡を受けた時。

それも一瞬感極まったように声を詰まらせたけど、すぐに平静を取り戻していました。

 

私には、何もかもがままならない、わけのわからない今のこの状況を嘆き悲しんでいるように感じられました。

私と同じ気持ちを夫も抱いているような気がしてしまうんだろうなあ。

病気の進行によって、もはや夫にはそんな自覚や思いがあるのかわからないし、

あったとしても、すぐに忘れてしまうんだろうと思うのですが…。

というか、そうであってほしいと切に願っています。

 

ここにこうして出来事と自分の気持ちを書いているとまた泣いてしまうけど、気持ちが少し落ち着きます。

色んな場所で、それぞれ形は違っていても受け入れがたい現実と格闘している方たちがいることに、励まされるような気がします。

気を取り直してまた頑張ろうと思えます。