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スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

きのう(17日)、岸田首相が記者会見し、少子化対策について発言しました。

その中で目立ったのが、社会構造や意識を変えるため

「男性の育児休業の取得率を2025年度は50%、2030年度は85%に引き上げる」

という表明でした。

 

防衛費は簡単に引き上げるのに、子育て支援には予算規模を示さないといった批判や、

去年の出生数が初めて80万人を割り込んだことを受けて

最近の岸田政権には逆風が吹いていました。

その風向きを変えようという「人気取り」の動きにも見えますが、

個人的にはいいことだと思います。

 

旧統一教会と自民党の関係からも分かるように、

近年の日本政治には家父長制を上から押し付けようという流れがありました。

しかし、先進国で人口が減っていくのは普通のことですから、

社会が活力を保ち続けるには教育を受けた女性パワーが活躍し、

家庭でも男女が協力し合わなければいけません。

 

民主党から自民党が政権を奪還した2012年以降、

自民党が反動から急進的な保守にシフトしていったため、

「育児は家庭で(母親がやる)」という丸投げの思考が蔓延してきました。

育児の問題を「社会化」していく政策は遅まきながら

世の中を変えていくきっかけになるでしょう。

 

そういえば、この時代にあんなジャケットは作られないだろうな・・・

と思って取り出したのがバド・パウエル(p)の「シーン・チェンジズ」です。

名作「クレオパトラの夢」が収録されていることで知られていますね。

 

このジャケットでシリアスな表情をしているピアニストの後ろにいるのは

当時3歳だったパウエルの息子です。

お父さん大丈夫・・・?

とでも言いたげな物憂く見える顔つきが印象的です。

 

実際はどうだったのか分かりませんが、

この写真からは父親が「畏怖の対象」に見えます。

録音されたのは1958年。

ウーマン・リブの波がやって来るのは1960年代ですから

まだまだ「父親の権威」があった時代だったと言っていいでしょう。

 

しかし、音楽を聴いてみるとこの時のパウエルは

哀感を持ち、肩の力が抜けた様子です。

麻薬や精神疾患に悩まされたパウエル、

「強くはないけれど、やればできる!」といった感じの

父親だったのではないかと勝手に推測してしまいます。

 

1958年12月29日、ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。

 

Bud Powell(p)

Paul Chambers(b)

Art Taylor(ds)

 

①Cleopatra's Dream

パウエルのオリジナルで、テレビ番組など様々な場で使用されている有名曲です。

翳りがあるメロディーは日本人好みとも言えるでしょう。

パウエルの音色には妖しさと憂いがあり、

それがこの曲を忘れ難いものにしているのは間違いありません。

ソロはパウエルのみ。

それなりに音数はあるのですが、

スムーズに流れるというよりはちょっとくぐもったような話し方に似ています。

一つ一つ、音を置いていくように聴こえるプレイ。

彼の独特のアイデアの出し方がこうした演奏につながっているのか、

それとも頭の中で渦巻いている音の奔流に対し

当時のテクニックで追いつけたのがここまでなのか・・・。

様々なことを想像してしまうトラックです。

ちなみに終始、機械のように正確なブラッシュ・ワークで

パウエルを支えるアート・テイラーと、

躍動的なテンポを刻むポール・チェンバースというピリッとしたリズム陣が

この曲が甘さに流れるのを防ぐ役割を果たしています。

 

③Down With It

こちらもパウエルのオリジナル曲。

急速調のリズムに乗って冒頭からパウエルが緊張感のある

ピアノを響かせます。

アート・テイラーのブラッシュ・ワークがここでも凄まじく、

迫って来るかのような印象を与えます。

猛プッシュを受けてパウエルがブルージーなソロを

精一杯のスピードに乗せて取ります。

やや中低音を強調しつつ繰り出すフレーズが

①よりも尖っていて面白い。

ポール・チェンバースの弓弾きソロと

テイラーのブラシを多用したソロもコンパクトながら

完成度が高いです。

ハードボイルドな1曲と言えるでしょう。

 

短いながらハッピーなオリジナル曲

⑤Borderick はパウエルのお茶目な面を見るようで楽しめます。

 

昨日の岸田首相の会見内容を首相官邸ホームページで読むと、

「人口減少による経済の縮小」という問題意識から入って

子育て政策について語っています。

令和5年3月17日 岸田内閣総理大臣記者会見 | 総理の演説・記者会見など | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

 

先述したように取り組み自体はいいのですが、

その後で述べている「子供の笑顔あふれる国を作りたい」というのが

首相の本音であれば、そこから始めて欲しかったと思います。

 

「国の経済のために子供を作って欲しい」というメッセージでは国民は動かない。

問題意識の所在が透けて見えるから父親像も変わりにくいのでは・・・。

「社会構造や意識を変える」のであれば、リーダーの言葉が重要になると思いました。

 

先の週末、映画「BLUE GIANT」を観てきました。

良かった・・・・です!

しばらく時間が経っていますが、まだ感動が残っています。

この映画はシアターで観るのがお勧め。

というのも、「ライブ体験」ができると言っても過言ではないからです。

 

こちらはフライヤー

 ↓

 

ストーリーはシンプルな「青春もの」です。

ジャズに魅了されてテナー・サックスを始めた少年・宮本大(みやもと・だい)が

高校卒業後、上京するところから物語はスタートします。

東京で大は同世代の凄腕ピアニストと出会い、

やがて高校時代の同級生がドラムで加わることになって

グループ「JASS」を結成します。

3人は日本最高のジャズクラブに10代で出演することを目指し、

がむしゃらに練習に励みます。

そこに思わぬ出来事が起こるのですが・・・。

 

このストーリーをけん引するのが素晴らしい音楽です。

本編の4分の1をライブシーンが占めているのがポイントだと思います。

音楽を「さわり」だけ紹介するのではなく、ふんだんに「聴かせる」ことで

観客はライブ会場にいるような臨場感を味わえるのです。

 

この演奏をしているのが上原ひろみ(p)、馬場智章(ts)、石若駿(ds)。

私は北海道出身なので、馬場さん、石若さんという2人の道内出身者が

いることも嬉しいですが、そんな贔屓目はどうでもよくなるほど音楽が凄い。

漫画家の石塚真一さんが作り上げた情熱的な世界がそのまま実現したかのように

熱い演奏が繰り広げられます。

 

映画の中で挿入される「N.E.W.」という曲もその一つ。

サックス単独の「雄叫び」から始まり、

急速なリズムに乗って馬場さんが冒頭からフルスロットルでソロを取っていきます。

 

私は彼がサイドマンとして参加したライブを一度だけ聴いたことがあるのですが、

バークリー音楽院の出身ということもあってか、ソロの構成を冷静に考えていて、

エモーションはあっても全開にするという印象はありませんでした。

 

それが、「N.E.W.」では「宮本大」を表現するために

計算は後回しにして、ひたむきに情熱を打ち出す演奏になっています。

頭の中にある音を奔放に力の限り出し尽くすような演奏は

破綻直前のようでもありますが、心に迫ってきます。

上原さん、石若さんの挑戦的なプレイも相まって映画館の中で圧倒されっ放しでした。

 

映画館から戻ってきて、あるテナー・サックス奏者のことを思い出しました。

ジョン・コルトレーン(1926-1967)、宮本大が尊敬してやまないジャズ界の巨匠です。

 

実は「BLUE GIANT」の冒頭を飾る曲がコルトレーンの「インプレッションズ」です。

これは上原・馬場・石若による演奏ですが、映画の中では抑制の効いた内容です。

コルトレーンは確か、激しい演奏をしていたのではなかったか・・・

ということでビレッジ・バンガードのライブ盤を取り出してみました。

 

いや、驚きました。

こんなに凄まじく、突き抜けた演奏だったとは・・・。

コルトレーンを聴くのはこちらも体力がいるのでしばらく遠ざかっていましたが、

改めて聴くと大変なプレイです。

14分に渡って吹き続けている!

何かに憑りつかれたような恐ろしいパワーで音が迫ってきます。

 

この世界を文字にすることは諦めていますが、ジャズ界の

一つの「究極の姿」ということで耳を傾けてみましょう。

 

この作品はビレッジ・バンガードでのライブと

スタジオでのレコーディングが混在しています。

スタジオ録音は曲の長さの調整のために必要だったのでしょうか。

録音日時によってメンバーも変わっています。

 

1961年11月3日、NY ビレッジバンガードでのライブと

1962年9月18日、1963年4月29日、

ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。

 

John Coltrane(ts,ss)

Eric Dolphy(as,cl)

McCoy Tyner(p)

Jimmy Garrison(b)

Reggie Workman(b)

Elvin Jones(ds)

Roy Haynes(ds)

 

③Impressions

こちらはライブ。

モードによるバッキングの中、コルトレーンのテナーが

シャープな音で入ってきます。

そのままコルトレーンの奔放なソロへ。

このソロは現在の聴き手であれば「間違っているんじゃない?」と思うほど

方向性が分かりませんし、「構成」というものがありません。

ひたすら湧き出る音を吹き続ける。

バリバリというフレーズが延々と続き、その間、パワーが落ちることがない。

時に高音に向かったり、フレーズの短長はあるものの、

ある意味同じようなトーンの繰り返しなのです。

しかし、その音には確信と迫力があり、胸に迫るものがある。

ここには気の利いたアレンジはないし、スマートさも全くない。

しかし、自分の中に生まれた音楽を自由に、思いのままに追求する凄みがある。

ジャズにはこんな可能性があったのだということを改めて思い出させてくれる

ものすごい混沌がここにあるのです。

ちなみにここでのエルヴィンはリズムをキープしながら自在に

強烈なシンバルでコルトレーンを支え、

特にエンディングに近いところでは鬼気迫るものがある。

他に比べることができない音楽を作り出しています。

カルテットによる演奏ではありますが、

マッコイのピアノは冒頭とエンディングでテーマに伴奏をつけているに過ぎず、

ほとんどがベース・ドラム・テナーのトリオによって疾走しているのも異様です。

 

映画が終わっての帰り道、ふだんはあまりジャズに興味のない

私のパートナーが「今度、ジャズライブに行こうかな」と言い出しました。

割とストイックにジャズを追求しているストーリーと音楽だったのですが、

「心がある」と伝わるということなのでしょうか。

 

身近な人にジャズへの興味を持ってもらいたい方は、ぜひ映画館へ!

コルトレーンまでは一足飛びに行けないかもしれませんが、

ジャズにハマるきっかけは作れるかもしれないです。

 

偉大なサックス奏者、ウェイン・ショーター(1933-2023)が

3月2日にロサンゼルスで亡くなりました。89歳でした。

謹んでご冥福をお祈りします。

 

ショーターの功績は自身のリーダー作だけでなく

アート・ブレイキー率いるジャズ・メッセンジャーズ、

マイルス・デイヴィスの黄金のクインテット、

フュージョン旋風を巻き起こしたウェザー・リポート、

晩年のハービー・ハンコックとの共同作業など枚挙にいとまがありません。

多くの追悼記事が出ているので彼の生涯の全体像を振り返るのは

そちらに任せましょう。

 

私は彼が非常に素直な音楽人生を送ったのではないかな、と見ています。

ストレートなハードバップからエレクトリック、ブラジル音楽との融合まで

その時々の関心に即して作品を作り上げた印象があります。

 

しかし、根本は変わらないというか、

ダークで哲学的なものさえ感じさせる音色は

生涯に渡って続いていたように思えるのです。

 

今回は彼の初期作品である「ウェイニング・モーメンツ」を取り上げましょう。

彼らしい音が20代後半の段階で既に強烈に表れており、

その後の展開を予感させるものがあります。

 

1960年、シカゴでの録音。

メンバーは当時、ショーターが在籍していたジャズ・メッセンジャーズから

フレディ・ハバード(tp)とジミー・メリット(b)が参加しています。

ピアノのエディ・ヒギンズとの共演は後のショーターを考えるとちょっと意外ですね。

 

Wayne Shorter(ts)

Freddie Hubbard(tp)

Eddie Higgins(p)

Jymie Merritt(b)

Marshall Thompson(ds)

 

②Devil's Island

ショーターのオリジナル。

いかにも彼らしいブラックさのあるタイトルです。

4ビートでありながらモードっぽい雰囲気が濃厚に漂う

ちょっと翳りのある曲となっています。

最初のソロはショーター。

音色がダークでありながらフレーズは滑らかに滑るようで

独特の「手触り感」があります。

一体どこに連れていかれるのか、まったく予想がつかないまま

サラッとソロが終わります。

続くフレディ・ハバードはリー・モーガンの影響も受けていると思われる節回しで

鋭く迫ってきます。

この「若い」感じはいいですね。

2人と比べると、ピアノのエディ・ヒギンズのソロは

曲の雰囲気を飲みこもうとしていますが、消化しきれていない感じです。

ショーターが少し先を行っているのでしょうね。

 

③Moon Of Manakoora

平和なハワイアンとして取り上げられることが多いこの曲も

ショーターの手にかかると神秘性を帯びてきます。

やや速いテンポで、テナーがテーマを歌い上げます。

ちょっと物憂いテナーに対し、最初のソロを取るフレディ・ハバードは

突き刺すような鋭いフレーズで果敢に攻めてきます。

「かったるいムードは俺が吹き飛ばすぜ!」と思ったのかどうか・・・。

これを受けたエディ・ヒギンズのソロは悪くないものの

フレディほど弾けたプレイにはなっていません。

聴きものはこの後のショーターのソロ。

相変わらず黒味のある音色で重みがありながら、

フレーズを伸ばすことで浮遊感もある不思議な世界を作り出します。

妖しい・・・。

 

この他、バンド全体が燃え上がり、ヒギンズも頑張っている⑥Powder Keg 、

スタンダードでのショーターの歌心が映える⑦All Or Nothing At All も

心に残ります。

 

私がショーターの生演奏に触れたのは一度だけ、2015年の東京JAZZで、

ハービー・ハンコックとのデュオでした。

ピアノとキーボードにショーターがテナーとソプラノで呼応していましたが、

丁々発止の演奏というより、2人で「宇宙」を創るかのような

長く起伏の少ない内容だったように記憶しています。

 

正直、この時の演奏にはやや付いていけない印象を持ちましたが、

初期の作品を振り返って見ると萌芽は既にあったように思います。

まさにオリジナルの世界を作り出した偉大なミュージシャンに敬意を表します。