「ポップスの巨匠」と言われる作曲家のバート・バカラックが
8日、ロサンゼルスの自宅で亡くなったそうです。94歳(!)でした。
一般的には「雨にぬれても(原題:Raindrops Keep Fallin' on My Head)」が
知られているでしょうね。
私は「The Look Of Love」「(They Long to Be)Close to You」
そして「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」(!)という
すごい邦題がついた「Arthur’s Theme(Best That You Can Do)」が
印象に残っています。
かなり複雑な構造の曲を書くのですが、
それが全く違和感なくポップでお洒落に聴こえてしまうのが
この人の凄いところ。
私は彼の背景をよく知らないまま聴いてきたのですが、
功績を伝える記事を読んでみると、ジャズに影響を受けているのですね。
1928年にアメリカのミズーリ州カンサスシティに生まれたバカラックは
歌手を目指していた母親の影響で幼いころからピアノやドラムを学んでいたそうです。
一家がニューヨークに移住した際にディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカー、
それにクラシックのラヴェルなどに刺激されて音楽の道を志したとのこと。
彼の音楽はスタンダードになったと言えるくらい普遍性がありますが、
あの華やかさや時に大きなスケールを感じさせる楽想は
ジャズとクラシックの幸福な融合から生まれたのかもしれません。
今回はバカラック追悼でウェス・モンゴメリー(g)が
彼の曲を取り上げたバージョンをご紹介しましょう。
アルバム「ダウン・ヒア・オン・ザ・グラウンド」に収録されている
「あなたに祈りを(I Say A Little Prayer For You)」です。
バカラックの曲とウェスのギターの組み合わせというのは
ちょっと意外な気がします。
ウェスのギターによる重量感のある音とバカラックの曲が
合わないように思えるからです。
しかも、このバージョンではリズムが4ビート。
ところがウェスのソロが見事にハマっているのですから不思議です。
これはプロデューサーのクリード・テイラーと
アレンジのドン・セベスキーによる手腕もあるのでしょうが、
それ以上にウェスがこの曲に「ノッている」ことが大きいのでしょう。
1967年12月20、21日と1968年1月22日、26日、
ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオで録音。
Wes Montgomery(g)
Ron Carter(b)
Grady Tate(ds)
Herbie Hancock(p)
Mike Mainieri(vib)
Ray Barretto(per)
ほかにストリングスなどが入っていますが割愛します。
⑦I Say A Little Prayer For You
このアルバムは一連のウェスのCTIレーベル作品の中では
4ビートの演奏が多く、ドライブ感のある内容になっていますが
こちらのトラックもその一つ。
冒頭、ストリングスが薄く入っているので
「ちょっと柔い演奏が始まるのかな?」と思うのですが、
ウェスの太いギターが響き渡るとストリングスが引き、
快調な4ビートと共にグイグイと進んでいきます。
バカラックの愛らしいメロディが躍動感たっぷりに提示され、
期待感が膨らむ中でソロに入ると、完全にウェスの世界。
切れ味がありながら、弦をしっかり弾いていることが分かる
強いフレーズが次々に繰り出されます。
面白いのはやはりポップなバカラックの曲に
インスパイアされているところでしょう。
1分40秒あたりから2分30秒くらいまでにかけて
ウェスのフレーズが「ポップ路線」に寄り、「弾んだ」印象を与えるのです。
そこにストリングスが短く寄り添い、一気にスケールが広がるアレンジもニクイ。
ポップスとジャズの幸せな出会いがここにあります。
それにしてもウェスもバカラックも全く古びていません。
2人とも新しかったり、異分野のスタイルを取り入れることに貪欲だっただけでなく、
自分の中で消化してオリジナルのものをクリエイトすることができていたのでしょうね。
その姿勢に敬意を表しつつ、バカラックのご冥福をお祈りいたします。