Do Nothing 'Til You Hear From Me/ジョニー・グリフィン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

フィリピンを拠点とする特殊詐欺グループに関わった疑いがあるとして

きのう(7日)、2人の容疑者が逮捕され、帰国しました。

グループによる被害は全国で60億円以上に上るとされています。

 

2人の逮捕容疑はキャッシュカードをだまし取ったというものですが、

去年から相次いだ強盗事件への関与も疑われており、

世間的には当然、こちらの関心が高いでしょう。

指示役の「ルフィ」が誰なのかも含め、今後の真相解明が待たれます。

 

ただ、報道を見る限りでは捜査のハードルは高そうです。

今回逮捕された2人の他に、こんやフィリピンから送還される予定の2人の

身柄が確保されることになっています。

しかし、彼ら4人は「指示役」の疑いをかけられているわけで、

実際に手を動かしたのはSNSの「闇バイト」で集まった人たちです。

「指示役」と実行犯に直接の面識はないとされているので、

スマホなどでのやりとりから「誰からこんな命令があった」という

具体的な指示を特定するのはかなり難しそうです。

 

一連の強盗事件は非常に荒っぽく、私は「組織の構成者の犯罪なのか?」

という疑問を持っていました。

あくまでも妄想レベルの話ですが、

「管理しきれないグループ」ゆえに一部が過激な犯行に走り、

ついには狛江で起きた殺人事件にまで発展してしまったのではないでしょうか。

この見立てが当たっていれば、

「新しい犯罪の時代」が始まっているということかもしれません。

 

「指示があるまで動くな!」という命令が通る組織だったら

こんなことにはならなかったかもな・・・

そんなことを考えていたら1枚のアルバムを取り出していました。

ジョニー・グリフィン(ts)の「Do Nothing 'Til You Hear From Me」です。

 

タイトルの意味は「私の話を聞くまで何もしないで」、といったところです。

デューク・エリントンの曲にボブ・ラッセルが後に歌詞をつけました。

もちろん、歌詞は物騒な内容ではなく恋愛をテーマにしています。

 

「周囲の噂など気にしないで、自分の言葉だけを信じて欲しい。

 私が愛を告げるまで誘惑に惑わされてはいけないよ」、

といった内容です。

 

もともとユーモラスなこの曲を

ジョニー・グリフィンは実にゆったりと吹いています。

テナー・サックスによる豪快なブローで知られるグリフィンですが、

肩の力が抜けた時の彼も非常に魅力的。

こういう「歌心」を大切にした演奏も

本人は非常に好きだったのではないかと思います。

 

さらに、アルバム全体がバラッドを中心とした内容。

特にLPでA面にあたる3曲は非常に落ち着いており、

しっとりと「聴かせる」グリフィンを再評価したくなります。

 

1963年6月、カリフォルニアでの録音。

バディ・モンゴメリーが曲によってピアノとビブラフォンを使い分けています。

 

Johnny Griffin(ts)

Buddy Montgomery(p,vib)

Monk Montgomery(b)

Arthur Taylor(ds)

 

①Do Nothing 'Til You Hear From Me

冒頭、単独で入るグリフィンの音が何とも太く、余裕を感じさせる。

しかも、すぐにリズムが合流してスイングしていく流れは

変にアレンジに頼るのではなく、「ストレートに行こう!」という

このアルバムの方針が示されたかのようで何とも気持ちいい。

メロディ部分は「悠々と」という言葉がぴったりで、

急がず慌てず、曲の世界観をそのまま表現しています。

グリフィンのソロに入ってからも同様で、

気持ちよさそうにフレーズを口ずさむがごとく、です。

後半こそ少しコブシをきかせるかのような局面がありますが、

力を入れ過ぎず、ひらりとかわすかのような展開が続きます。

バディ・モンゴメリーの短いピアノ・ソロの後に登場するグリフィンは

さらにユーモアを湛えていて、太く・男気のある音を聴かせてくれます。

嫌なことがあっても「どうでもいいや」と思えてくるような

懐の広さを感じさせる演奏と言ってもいいでしょう。

 

②The Midnight Sun Will Never Set

「真夜中の太陽は沈まず」の邦題でも知られる曲。

こちらはバディ・モンゴメリーのビブラフォンから入ります。

硬質な音が曲の雰囲気に合っていて、

スローなメロディからそのままソロに入りますが

全く違和感なくスムーズな流れです。

こちらはアレンジが上手く、モンゴメリーがソロの後に再びテーマを提示し、

曲の世界に浸れるような仕掛けがある。

バトンを渡されたグリフィンはゆったりとしたテンポの中で

かなり音を絞り込んできます。

あまり音域を広げずに、静かに語りかけることに徹しているのを聴くと

彼の持つ「懐の広さ」と包容力に驚きます。

 

③That's All でのグリフィンの抒情性も素晴らしいです。

こんなに息遣いを感じさせるテナーだったっけ?と嬉しい驚きがあります。

 

それにしても今回の事件は「闇バイト」という犯罪が

広く行われていることを痛感させるものでした。

背景にはこの社会のセーフティーネットの不足、格差の拡大など

様々な暗部があるのでしょう。

 

怪しい誘惑があった時に、「Do Nothing」という自制がかかるような

世の中を目指さなくてはいけない。

それには「正しいことが通る」というモラルが普及しなくては。

「当たり前」が難しい時代に私たちはいるようです。