オミクロン株の感染拡大、これまでとは全く違った様相を見せています。
28日(金)は午後6時までに全国で8万1810人の感染が発表されました。
一日の感染確認の発表が8万人を超えるのは初めてだということです。
それでもすぐに「緊急事態宣言」とならないのは、
オミクロン株の感染力が強い一方で重症化する割合が低いということがあります。
とは言っても、今週は感染の爆発的な拡大でエッセンシャルワーカーが不足したり、
企業やインフラなどで事業継続ができるのかという不安が高まってきました。
もう一つ、「若年層の感染拡大が深刻」というのも新しい事態です。
厚生労働省のまとめによると、
今月19日から25日までの1週間で感染が確認された人のうち、
10歳未満は4万1800人ほどで全体の感染者の12.3%を占めました。
これは前の週よりも4.3ポイント増えていて、子供の感染が増えていることを示しています。
私の周囲でも「子どもから家族に感染した」という話が当たり前になってきました。
保育園でクラスターが発生したというニュースを見たりすると、
いまの子どもたちと親は本当に大変だと思います。
子どもは隔離生活になかなか耐えられないでしょうし、
親も濃厚接触者となると仕事をすることが難しくなります。
せめて、子どもが感染した時は親が仕事を休んでも
待遇・立場が守られるような社会であって欲しいですね。
このような事態を前に、子どもたちの平和な様子が
ジャケット写真になっている作品を聴きたくなりました。
ウラジミール・シャフラノフ(p)の「Kids Are Pretty People」です。
シャフラノフは1946年、旧ソ連のレニングラード生まれ(資料によっては1948年ともされています)。
プロフィールの情報があまりないのですが、幼い時からピアノを始め、
音楽学校を出た後にイスラエルとフィンランドに移住するというユニークな経歴を持っています。
フィンランドの活動の後、1983年にNYに渡ってロン・カーター(b)やアル・フォスター(ds)といった
一流どころと共演しますが、知名度は低い状態でした。
やがて、フィンランドに定住するようになります。
それが、日本の澤野工房が彼の作品を紹介したことで一気に知られることとなります。
「ライブ・アット・グルーヴィー」(1981年録音)というマイナー盤の存在を澤野工房が知り、
シャフラノフの才能に惚れこみました。
契約交渉を担当している澤野稔さんがヘルシンキ滞在中にシャフラノフに連絡を取ったところ、
「今日なら会える」と言われて、慌ててオーランド島まで船で向かったというエピソードは
何だか心温まるものです。
話せる時間がわずか3時間だったにもかかわらず、CD発売の話をまとめ上げたというのですから
澤野さんの情熱と力量は大したものです。
「ライブ・アット・グルーヴィー」と「ホワイト・ナイツ」が1999年にリリースされ、
日本で大ヒットしたことでシャフラノフは次々に作品を発表していくようになります。
その中の一つが「Kids Are Pretty People」です。
シャフラノフがアントニオ・カルロス・ジョビンから
ハンク・モブレー(ts)といったジャズマンのオリジナル、
映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のテーマまで幅広く選曲したことがプラスに働いています。
ロシア出身で北欧住まいという独特の背景から生まれる哀感と強力なスイング。
シャフラノフの音楽性と子供たちの微笑ましい様子を収めたジャケット写真が
見事に合致した内容です。
2005年4月22日、ヘルシンキでの録音。
Vladimir Shafranov(p)
Pekka Sarmanto(b)
Jukkis Uotila(ds)
③Avila and Tequila
ハンク・モブレーのオリジナル曲。
ドラムのみによるイントロの後、ラテン・リズムに乗って
ピアノが軽快にフレーズを奏でます。
あれ?こんな曲のはずがない・・・と思っていると
そこからスッとモブレーのゴツゴツとしたテーマが表れてきます。
この辺の達者なアレンジがシャフラノフの小粋なところです。
ソロは非常にスピーディーですが、テーマに合わせたのか
彼にしてはタッチが強く、中低音部もうまく使っています。
ここは彼の大切な持ち味の一つである強力なスイングを心ゆくまで楽しみましょう。
ユキス・ウォティラのドラム・ソロもノリが良くて聴きごたえがあります。
⑤Cinema Paradiso “Love Theme”
エンニオ・モリコーネの有名な映画音楽。
ちょっと捻って演奏するのかな・・・と思ったら、想像以上に「原曲のまま」です。
もちろんトリオで演奏できるように最低限のアレンジはありますが
テンポもメロディの提示の仕方もかなり原曲に近い。
シャフラノフが原曲に敬意を示した後、ピアノ・ソロに入ります。
彼の透明感がありつつ、哀愁を帯びたピアノが生きるソロで
最初は静々と入り、どこか悲しみを感じさせる展開です。
しかし、次第にテンポアップしてピアノが歌い上げるように
ダイナミックな鍵盤使いをするところは
イタリア映画のドラマチックな流れを思わせます。
4分に満たないのですが、さりげなく「聴かせる」トラックです。
⑪Kids Are Pretty People
トランぺッター・アレンジャーとして知られるサド・ジョーンズのオリジナル。
曲名からかなり快活な曲という先入観を持っていたのですが
テーマは意外にブルージーです。
ピアノ・ソロに入ってもその雰囲気は続き、シャフラノフの右手がやや黒っぽい
フレーズを繰り出してきます。
少し粘りのあるタッチで、時に鍵盤を打ち付けるような・・・。
この演奏で描かれている子どもたちは微かな憂いを持っているから「Pretty」なのか?
ちょっといまの時代に近いのかもしれないと想像を膨らませてしまいます。
救いはドラムとピアノの小節交換。
ドラムとの呼応でシャフラノフのピアノに勢いが増し、次第にパワーが増してきます。
明るくはないですが、「子どもの本当の強さ」を教えてくれるような演奏です。
本当にこの作品のジャケット写真のような
何気ない「伸び伸びとした風景」が日常になることを願わずにはいられません。
オミクロン、早く退場してくれないかな・・・。