ライブ・アット・ザ・ライトハウスVol.1/エルヴィン・ジョーンズ | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

いやはや、けさはびっくりしました。

朝起きると、津波警報が鹿児島県の奄美群島とトカラ列島それに岩手県に、

北海道から沖縄にかけての広い範囲には津波注意報が発表されていたのですから。

 

昨日(15日)の段階で、トンガ諸島の火山島で

大規模な噴火(日本時間では午後1時10分ごろ)が発生していましたが、

気象庁は午後7時過ぎには日本への津波の影響について「被害の心配はない」と発表していました。

それが、16日の未明になると潮位の変化が大きくなったことから津波警報・注意報の発表に至ったのです。

 

今回の津波は通常のように地震で発生したわけではないので、見極めが難しかったようです。

まだ原因が確定されたわけではないですが、報道に出ている専門家の分析では

大規模噴火に伴う空気の振動=「空振」によっていったん下に押された海面が

元に戻る形で盛り上がり、大きな潮位の変化を引き起こした可能性があるそうです。

 

日本への津波 専門家「噴火に伴う空気の振動“空振”原因か」 | NHKニュース

 

海面を押し下げるほどの激しい空気の振動・・・。

南半球から遠い日本にまで津波をもたらすほどの空気の振動とは

一体どのようなものだったのか、想像するだけで途方に暮れます。

 

激しい風圧・・・そんなことを考えていたら1枚のアルバムを手に取っていました。

エルヴィン・ジョーンズ(ds)の「ライブ・アット・ザ・ライトハウスVol.1」です。

 

エルヴィン・ジョーンズ(1927-2004)はいまさら説明するまでもないドラムの巨匠です。

エルヴィンは1960年~66年にかけてジョン・コルトレーンのグループで活躍し

コルトレーンと共に「音の奔流」を作り上げるのに多大な貢献をしました。

彼なしではコルトレーンの幾多の名作も生まれなかったでしょう。

 

コルトレーンのグループを離れてからもそのスピリットを受け継ぎ

自身のグループではジョー・ファレルやジョージ・コールマンといった

サックス奏者を多く迎え入れてきました。

そうした流れの中でデイヴ・リーブマンとスティーヴ・グロスマンという

当時は両者共に20代というサックス奏者で2管編成のグループを結成します。

リーブマンが主にソプラノ・サックスとフルート、グロスマンがテナー・サックス中心ではありますが

個性が全く違う2人によって強力なバンド・サウンドが生まれました。

 

そして、何よりの聴きものはエルヴィンのドラムです。

複雑なリズムをあっさりこなし、ある時は繊細に、

ある時は聴く側が吹き飛ばされるほどの「風圧」で迫ってきます。

 

1972年9月9日、カリフォルニア州ハーモサ・ビーチ「ライトハウス」でのライブ録音。

私が持っているのは2枚に分けられた日本盤CDのVol.1です。

 

Elvin Jones(ds)

Gene Perla(b)

David Liebman(ss,ts,fl)

Steve Grossman(ts,ss)

 

①Fancy Free

トランペット奏者、ドナルド・バードのオリジナル曲。

ボサノヴァのリズムではあるのですが、単純なビートではなく

複数のリズムが同時に提示される「ポリリズム」のアプローチがあります。

2管によってテーマが提示され、どこまでが曲の原型なのかよく分からないまま進みますが

バックのエルヴィンの音量の段差がとにかく激しい。

ボサノヴァの寛いだリズムを叩いていたと思ったら、

次の瞬間にドッとリズムを押し出してくるダイナミズム。

「これから何かが起こりそう」な予感がします。

最初のソロはデイヴ・リーブマンのソプラノ・サックス。

コルトレーンの影響を色濃く受けていますが、もっと理知的な印象を受けます。

これはエモーションがないということではなく、むしろややくどいくらいに

長く連続したフレーズで迫ってきます。

これに反応したエルヴィンが6分過ぎくらいに「ズドーン」と煽って

ソプラノに一気に火が付くのが圧巻。

続いてスティーブ・グロスマンのテナー・ソロへ。

彼もコルトレーンの流れを受けた演奏をしますが、

より「情念系」と言うかダークな持ち味があります。

こちらではエルヴィンが抑え気味にリズムを刻んできますが

10分50秒辺りでブレイクを入れるところからリズムが波のように迫ってきて

何とも言えない「圧」を作り出しているところが素晴らしい。

グロスマンもその中で思いきり泳いでいます。

ジーン・パーラのベース・ソロを挟み、2管が同時にソロを提示するというサービス(?)で

盛り上げた後に再びテーマに戻って終わります。

 

この他、デイヴ・リーブマンのオリジナル曲である②New Breed では

エルヴィンが全編ブラシで通していますが、この仕事も尋常ではありません。

これほどスピーディーで切れ味が鋭く、かつ複雑なブラッシュ・ワークというのは

なかなか聴けるものではありません。

サックス奏者のプレイも素晴らしいですが、ドラムだけを聴いていても全く飽きません。

 

今回の津波では避難の途中でケガをされた方がいたようですが、

命に係わるような被害がなかったのは何よりでした。

 

津波を引き起こすような空気の振動は困りますが、

ライブ演奏で感じるような「空気の揺れ」が懐かしい・・・。

オミクロンの猛威でライブに二の足を踏んでしまうような昨今、切にそう思います。