クッキン!/ズート・シムズ | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

きのう、新型コロナの新たな感染者数が全国で初めて10万人を超えました。

ここまで来ると、「この生活、まだまだ続くんだなぁ・・・」というのが正直な印象です。

 

オミクロン株が登場する前は

「うまくいけば“低空飛行”で感染を抑制し、収束に持ち込めるのでは」

という淡い期待があったと思います。

 

しかし、感染が若者や高齢者だけでなく小さな子どもにまで及び

従来をはるかに超えた広がりを見せる中で

そうした楽観的な気分は吹き飛んでしまいました。

重症化する人が少ないとは言っても、

感染の規模が大きくなれば活動できる人が減り、

教育・企業・医療・介護・・・様々な場で社会機能が停滞していくからです。

 

こうなると、しばらくは基本的な感染対策をしながら暮らしていくしかなさそうです。

ワクチンの3回目接種が進まない中では

手洗いとマスク着用を続け、なるべく密を避けていくことになります。

 

そうした中で個人的な話になるのですが、

私はかなり料理をするようになりました。

これまでは料理をしたとしてもかなり限られていて

簡単なカレーかシチューが中心でした。

 

一方で、時に「妙に特別なもの」に手を出してしまうこともあって

ステーキを焼いたこともあります。

正直、自分にとって料理をすることは「非日常なこと」だったのだと思います。

 

それが外食もできず、週に1回できるかどうかですが

在宅勤務をするようにもなりました。

そうなると職場と日常の境界が曖昧になり

自宅のあれこれが目に付くようになってきました。

しかも通勤時間がなくなるのですから、その時間を何かにあてるとなると

おのずと「生活のこと」になってしまうのです。

 

私が外食していた時は適当に食事を済ませていたパートナーもストレスを溜めています。

ならば、ふだん食べるようなもので「作り置き」もできるメニューがいい。

非常に「ありふれた」ものを作るようになりました。

きょうは「レンコンのきんぴら」と「かぼちゃと鶏肉の煮物」を作っています。

量を多めに作ったので、たぶん3日間ぐらいかけて食べることでしょう。

 

参考にしているのはパートナーが読んでいた漫画「きのう何食べた?」です。

よしながふみさん原作の漫画はテレビドラマ化され、映画にもなったので

ご存じの方も多いことでしょう。

主人公がゲイのカップルで、その日常生活を「食」中心で描いています。

様々な葛藤を抱えている彼らですが、暮らしぶりを実に淡々と描写している筆致が好ましく、

ストーリーに関連して登場する料理が「身近な食材で、かつ難しくない調理でできる」ことも魅力です。

 

コロナ禍は私たちに多くのことを考えさせていますが、

実用的なことをこの機会に身に付けるのは悪くない。

「きのう何食べた?」の料理シーンをレシピ代わりに、

「ありふれた幸せ」を実感させてくれる料理をしばし続けていこうと思います。

 

そんな気分の延長で「奇をてらわないジャズ」のありがたみを感じさせてくれる

ジャズ作品をご紹介しましょう。

ズート・シムズ(ts)の「クッキン!」です。

 

ズート・シムズ(1925-1985)はこのブログでも登場回数が多い

プレーヤーなので経歴の詳細は省きます。

ただ、1940年代にビッグ・バンドのメンバーとして名をあげ、

50~60年代にはモダン・ジャズ・コンボのスター・プレーヤーになるという

お手本のようなキャリアを経ていることだけは書いておきましょう。

 

革新的なことをしたわけではありませんが、

強烈なスイング感と素朴な語り口はジャズファンを魅了してきました。

そんなズートが1961年にロンドンを訪問した際のライブ盤が「クッキン!」です。

当時、イギリスではミュージシャン・ユニオンが仕事を守るために

米国のミュージシャンが活動するのを規制していた(!)そうです。

この規制緩和の第一弾がズートの公演だったそうで、

客席の熱気もあったのかズートはノリに乗っています。

 

1961年11月13~15日、ロンドンのロニー・スコット・クラブでのライブ録音。

 

Zoot Sims(ts)

Stan Tracy(p)

Kenny Napper(b)

Jackie Dougan(ds)

 

⑥のみ

Ronnie Scott(ts)、Jimmy Deuchar(tp)が加わっています。

 

①Stompin' at the Savoy

ベニー・グッドマンが作曲した有名ナンバー。

ズートは冒頭からゴキゲン。

スイスイとおなじみのテーマを吹いた後、

高音でヒットを飛ばした勢いでソロに入っていきます。

彼らしいスムーズさが満載で、前に前にフレーズが出てきます。

それが一本調子にならないで「横揺れする」とでも言うのでしょうか、

意外なフレーズで「あれ?こんなやり方も!」と思わせながら、

しっかりスイングするのがズートの真骨頂です。

大酒飲みだったらしいのですが、非常に健康的なんですよね・・・・。

スタン・トレーシーのピアノの後も聴かせるのはやはりズート。

ここでは長く伸ばすフレーズを巧みに取り入れながら

バンドを牽引してエンディングまで一気に持っていきます。

 

②Love For Sale

有名スタンダードナンバー。

ここではアップ・テンポのズートを存分に味わうことができます。

まずテーマから急速調でズートが力強く歌い上げ、そのままソロへ。

ここは①よりも更に「前のめり」。

バックのメンバーが刻むリズムを先取りするように

泉のごとくフレーズが連なって出てきます。

音の質は全く違いますが、ソニー・ロリンズ(ts)に匹敵するようなアイデアの奔流です。

それが全く苦しそうではなく、柔らかい音を保ちながら出てくるのがズートらしいところ。

2分50秒辺りから3分35秒ぐらいにかけての「止まらない」ところは圧巻で、

これを受けたピアノ・ソロはちょっと委縮している(?)。

ズートの後を受けるのは可哀そうだったかもしれません。

最後のズートがフェード・アウトなのは演奏がLP時代では入りきらなかったのでしょうか。

 

この他、⑤Autumn Leaves の詩情もなかなかです。

 

この作品、「クッキン!」と名付けられた理由は分かりません。

しかし、ズートの演奏を聴いていると慣れた手つきで料理をしているかのように

自然にサックスを吹いているのが分かります。

彼にとっては生きることと音楽が一体になっていたに違いありません。

 

私の料理は週末に集中しがちなので、完全に日常的なものになっているわけではありません。

ただ、数をこなすことで「無理のないもの」になってくれればいいなと思っています。

ズートのような名人芸までいかずとも、「自然さ」が感じられるところまでいけば

周囲も安心するのではないかと(笑)。