処女航海/奥平真吾 | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


昨日、二日酔いで休日を台無しにした私。

きょうは天気が良かったのと、

昨日のふがいなさを反省し、出かけることにしました。

ジャズにゆかりのある場所に出かける「ジャズ散歩」です。

 ↓

http://ameblo.jp/slowboat/entry-10575069673.html


今回はお茶の水へ。

ジャズ・ファンでコレクションが多い方ならピンとくるでしょう。

そう、「世界最大級のジャズ専門店」を名乗る、

「ディスク・ユニオン Jazz Tokyo」です。

先月の26日に開店してからずっと気になっていたのですが、

休日出勤が多かったため、訪ねることができていませんでした。


売り場面積100坪、CD・レコードの在庫総数10万枚(!)という、

ジャズ専門店としては確かに大きいお店。

ネットでの販売が増え、iPodのような「お手軽オーディオ」が

主流のこの時代に、これだけの「リアル店舗」を構えるのは

すごいことです。

ジャズにこだわり、作品探しを続けてやまないファンが

東京に多くいるということの証でもあるのでしょうが・・・・


店内はこんな感じでした。

熱心に「獲物」を求める人たちがいっぱい。

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今回、私が注目したのがこちらのコーナー。

「日本人ジャズ廃盤放出セール」です

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写真では分かりにくいのですが、「洋もの」に混じり、

日本人ジャズがずらっと並べられていました。

「特設コーナー」としてまとめられていなかったのが

ちょっと不思議ですが・・・・


日本人ジャズの世界、

私はまだあまり深く足を踏み入れていませんが、

価格的にびっくりすることが多いです。

渡辺貞夫さんのフュージョンの旧作「ランデブー」が

100円(!)で売られていたかと思うと、

1970年代のオリジナル盤は数万円だったり。

希少性の問題なのでしょうが、

どの辺りの価格が適正なのか、まだまだ分かりません。


今回、ジャケット写真に力があり、

ふだんあまりお目にかからない作品を購入しました。

奥平真吾さん(ds)のデビュー作、「処女航海」です。

先日、このブログで辛島文雄(p)トリオに参加した

彼のプレイに触れたこともあり、聴いてみたくなりました

 ↓

http://ameblo.jp/slowboat/entry-10732129836.html


なんと、録音当時の奥平さんは11歳!

ライナー・ノートを読むと、「天才少年」として

話題になったことが伝わってきます。


奥平さんは父親がドラマーで、

幼少期から音楽を聴く環境に育ったそうです。

4歳ぐらいからアート・ブレイキー(ds)を聴き、

真似をしていたとのこと。

5歳の時には両親とともにアフリカのケニヤに住み、

現地のリズムに影響を受けます。

日本に帰国後、小学校4年生からドラム・スクールで

プロの指導を受け、才能をさらに開花。

ライブなどでその実力が話題になり、

レコーディングに至ったそうです。


聴いてみると、本当に少年のプレイとは思えません。

バンドを煽る力、反応の良さ。

その豊かな才能に唸らされます。

と同時に、これだけのプレイを引き出した共演者も

すごいと思います。

共演者の多くが大先輩ですが、

完全に「本気」で少年と向き合っています。

特に、ピアノの市川秀夫さんのプレイがバンド全体の

レベルを引き上げていることは間違いないでしょう。

天才が世に出るには、周囲の理解も必要なんですね。


1978年7月15・19日、東京での録音。


奥平真吾(ds)

市川秀夫(pf)

水橋孝(b)

池田芳夫(b)

本多俊之(as,ss)

ジェイク・H・コンセプション(ts)

村田浩(tp)


①Nardis

ピアノ・トリオによる演奏。

これは奥平少年のドラムを聴かせるためのトラックでしょう。

冒頭から市川さんのピアノがテンションの高いピアノを

聴かせるのですが、それを鋭く煽るドラムが素晴らしい。

トニー・ウィリアムス(ds)に近い感性でしょうが、

切れ味が良い上に、空間を広げるような響きがあるのです。

プロデューサーが意図したのか、録音のレベルもドラムがやや高く、

ピアノが非常に激しいプレイをしていても、

ドラムがやや前に出て聴こえてきます。

それでもまあいいか、と思えるほどドラムの響きが新鮮で、

ソロに入るときちんと「ため」を作っているところなど、

少年とは思えないバランス感覚です。


③Maiden Voyage

表題曲の「処女航海」。

トリオとホーン陣によるセクステット編成で、

いま聴いても新鮮な演奏です。

市川さんがキーボードを使い斬新な響きを持ち込んだのと、

ホーン・アレンジをメロディやソロの合間に施したことで、

独自の世界が開けているのです。

本多俊之やジェイク・H・コンセプションらが

複雑なアレンジを消化し、

生き生きとしたソロをとっています。

また、静と動を巧みに組み合わせた市川さんのソロも秀逸。

奥平さんもグループのコンセプトに納得し、

全体のバランスを取るためのプレイをしています。

これは、奥平少年がこの若さにしてグループ・サウンドを

作ることができた「深い理解力」を示す演奏と言えるでしょう。


⑤Afro Blue

ジョン・コルトレーン作曲のナンバー。

こちらもセクステット演奏です。

時代を反映して、各人のソロにフリーに行きそうな、

独特の熱気が込められています。

その熱気を反映して奥平少年のドラムにも

若者らしい荒々しさが。

思い切りシンバルやバスドラを叩くシーンが随所にあり、

そこが演奏全体にスリルをもたらしています。

特筆すべきソロはやはり市川さんでしょうか。

マッコイ・タイナーを思わせる力強い連続フレーズがあると共に、

フリーにも通じる破壊力がある。

ここでの市川さんと奥平さんとの真剣勝負は

年齢を越えた「同志」の勝負と見ていいでしょう。

12分近くに及ぶ演奏はかなり激しいのですが、

こういう熱気がいまのジャズにどれだけあるかなと感じさせます。


ユニオンの廃盤コーナーから、

また新しい発見を得ることができました。

調べてみると、奥平さんは今年、NYから帰国したとのこと。

どこかでライブを聴ける機会があるかもしれません。

かつての天才少年も来年は45歳。

どんな成長を遂げているのか、楽しみです。