カミング・イン・フロム・ザ・ダーク/メッテ・ジュール | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


2010年がもうすぐ終わります。

新聞・テレビでは「今年を振り返る」特集が

相次いでいますね。

例年のことながら、「こんなことあったなあ・・・」と

感慨にふけってしまいます。


こうした特集を見ていて、気になったことがありました。

それは、「明るいニュース」が本当に少ないことです。

2010年で「明るいニュース」とされているのは

大体、以下のようなものです。


「小惑星探査機はやぶさの帰還」

「鈴木さん、根岸さんがノーベル化学賞受賞」

「チリ落盤事故での救出劇」


他に、「サッカーW杯で日本が健闘」というのもありますが、

政治・経済・社会の分野で見ると、いかにも少ない感じがします。

チリの事故は外国で起きたことですし、

「はやぶさ」も社会が閉塞感に覆われていなければ

これほど注目されたかどうか・・・・


政治が混迷し、経済も長いデフレから脱することができない。

多くの学生が就職できないまま年を越すという事態の中で、

「明るい兆し」を見つけるのは難しいことです。

安易な解決策がないだけに、「どうしたものか・・・・」と

しばし呆然としてしまいます。


そんな釈然としない気持ちにスッと入ってくる音楽がありました。

ヴォーカルのメッテ・ジュールによるアルバム

「カミング・イン・フロム・ザ・ダーク」です。


メッテ・ジュールについては、アルバムのライナーにも

情報がほとんどありません。

デンマークのレーベルから作品が出ているところから、

この国のアーティストだと思われるのですが・・・・

私はバックにアレックス・リール(ds)のトリオが入っているため

気になって購入しました。

ジャケットの親密な雰囲気からちょっと期待しましたが、

無名のヴォーカリストであるだけに、

大丈夫かな?という気持ちも捨てきれませんでした。


聴いてみると、非常に良い!

北欧の透明な空気感と優しさを持つ声が

聴き手の心にすんなりと入ってきます。


バックのトリオに加え、

ゲストのパレ・ミッケルボルグ(tp)も

素晴らしいプレイを聴かせてくれます。

映画「ラウンド・ミッドナイト」のサウンド・トラックなどで

活躍していたと思いますが、

しばらく名前を聞いていませんでした。

健在で良かったです。


2009年3月、デンマークでの録音。


Mette Juul(vo,g)

Alex Riel(ds)

Heine Hansen(p)

Jesper Lundgaard(b)

Palle Mikkelborg(tp)

Poul Halberg(g)


①The Way You Close The Door

メッテ・ジュールのオリジナル曲。

冒頭に自作曲を持ってきたのは自信の表れでしょうか。

別れを歌った非常に悲しいバラッドですが、

変にコブシを入れていないことで、

説得力が増しています。

二人の関係が変わったことを、

まっすぐに透明感のある声で歌われると、

「現実を直視している潔さ」みたいなものを

感じてしまうのです。

深いけれど、その「深み」を聴く者に強要しない。

何とも味わいのあるトラックです。


②Coming In From The Dark

こちらもメッテ・ジュールのオリジナル曲。

いい曲、書きますねえ。

ジャズというよりはフォーク的な

味わいのある曲です。

アコースティック・ギターとトランペットで

温かい雰囲気が作られる中、

しっとりとしたヴォーカルが入ってきます。

暗闇の中で何かが終わり、何かが始まる・・・・

歌詞の内容は恋愛についてなのか人生についてなのか、

判然としないところがありますが、

ジュールの力強いヴォーカルにいつしか聞き惚れます。

後半になればなるほどその力強さは増し、

暗闇の中での希望、というところまで考えてしまう・・・

パレ・ミッケルボルグの温かいミュート・トランペットも

聞きものです。


⑫I Wish You Love

ギターとヴォーカルだけによるトラック。

相手を思いやる気持ちを歌ったバラッドです。

ここでのジュールはジャケット写真のように

非常に親密な空気を作り出しています。

スローに、語りかけてくるような歌声。

さらりとしていながらどんどん響いてくる

マジックがあります。

年末に大切な人のことを考えたくなった時、

聴くのにちょうどいいでしょう。


いまのように「冷やりとした時代」に

温かい声で呼びかけてもらっているようで、

安心してしまうアルバム。

時代と音楽が不思議にマッチしてしまうことが

ありますね。


来年はどんな年になるのか。

数少ない「明るいニュース」に飛びついて

大騒ぎするようなことはできるだけ避けたいのですが・・・