先日、「野生のイルカを見たことがありますか?」
と聞かれました。
職場の人と「水族館のイルカショー」について
話をしていた時に、ふっとこの質問が出てきたのです。
文脈を無視して質問だけを取り出すと、
何だか小説のセリフのようだな、と思いました。
答え。
野生のイルカを見たことがあります!
私がまだ中学生で、1980年代前半のこと。
札幌から東北に修学旅行に出かけました。
当時はまだ青函トンネルの営業が始まっておらず、
生徒たちは青函連絡船で津軽海峡を渡ったのです。
よく晴れていて、風が少し強めだったのを覚えています
(こういう記憶って不思議と残っているものですね)。
海峡の半ばに差し掛かったかな?と思ったころ、
船と併走するイルカが見えるではありませんか!
彼らは実に早い速度で、海の上をピョンピョン跳ねながら、
船に付いてくるのです。
好奇心旺盛な様子を見ていると、
「船との競走」を楽しんでいるとしか思えませんでした。
とても人懐こくて、スピードがあり、迫力あるジャンプもできる・・・・
そんなイルカのことを思い出していたら、
スタン・ゲッツ(ts)の「ザ・ドルフィン」を
聴かずにはいられなくなりました。
このアルバムが録音されたのは1981年。
ゲッツが拠点をNYからサンフランシスコに
移してから程なくです。
批評家のレオナルド・フェザーが書いたライナーによると、
それまで所属していたメジャー・レーベルに疑いを持ち、
カリフォルニア州にあるコンコード・レコードに移籍したとのこと。
様々な「事情」から解放されたからでしょうか、
この時のゲッツは実に爽快。
ジャケットにはイルカの頭をなでたり、握手(?)をしたり、
果てはイルカを聴衆にしてプレイする(?)
ゲッツの写真が並べられています。
何か吹っ切れてしまった感じがジャケットからも
音楽からも伝わってきます。
好調のゲッツと組んだのはピアノのルー・レヴィ。
ゲッツとは1940年代後半の
ウディ・ハーマン楽団からという、長い付き合い。
エラ・フィッツジェラルドやペギー・リーら
ヴォーカリストとの共演が豊富なこともあるのか、
ツボを押さえた演奏でリーダーを引きたてています。
1981年5月、サンフランシスコの
「キーストーン・コーナー」でのライブ録音。
Stan Getz(ts)
Lou Levy(p)
Monty Budwig(b)
Victor Lewis(ds)
①The Dolphin
ルイス・エサ作曲のボサノヴァ・ナンバー。
ルー・レヴィの控えめながら躍動的なイントロに乗って
ゲッツがメロディを吹きます。
このメロディ部では、余計な力が抜け、
軽やかに歌い上げるゲッツが印象的です。
しかし、よくよく聴いてみると、
決して「軽く流している」わけではなく、
曲を理解しつくしたうえで
強弱をきちんとつけていることが分かります。
ソロに入ると、ゲッツの達者さに拍車がかかります。
時に優雅に泳ぐイルカのように
ゆるやかなフレーズが出たかと思うと、
次の瞬間には素早い「うねり」が現れたりします。
ゲッツの詩情とノリが一体となった演奏と言えるでしょう。
5分間ほどをゲッツが吹ききった後、
ルー・レヴィがソロで登場。
非常に品が良いにもかかわらず、スイングするピアノです。
ゲッツもレヴィも40年代から活躍しているとは思えない
生き生きしたプレイで引きつけてくれます。
疲れを知らないイルカのように・・・・
②A Time For Love
ジョニー・マンデル作曲のバラッド。
名演が多い曲ですが、このトラックは素晴らしい!
ゲッツが冒頭からメロディを吹きますが、
少しもふらつかず、集中しきっています。
ライブという環境の中で、
ここまで繊細な演奏ができるものなのか・・・・
ゲッツのバラッド・プレイの中でも屈指のプレイでしょう。
続くルー・レヴィはかなり抑制した展開を見せます。
音数は少なく、歌の間のインターバルのように、しっとりと進む。
これに対し、リズム陣も最低限のバックをつけており、
適度な緊張感を生んでいます。
ピアノのみでメロディが再び提示されるところは、
「おや?ゲッツに戻らないのか?」という意外性も含め、
このトラックのハイライトでしょう。
考えてみると、私にとって「初対面のイルカ」は
野生のイルカだったのかもしれません。
もちろん、映像などでは見た覚えがあるのですが、
実物に初めて接したのは、水族館などではなく、
津軽海峡での「あのとき」だったような気がするのです。
あの力強さと愛らしさを、最初に海で感じることができたのは
とても幸せなことだったなあと、いま思います。
