25日(土)、用事があって吉祥寺に向かいました。
その時、ふと「メグに行ってみようか?」と思いました。
「メグ」とは吉祥寺にあるジャズ喫茶。
ジャズ喫茶の存亡自体が危ぶまれている中、
元気に営業を続けています。
店主の寺島靖国さんは、私が中学生ぐらいの時に
ディスク・レビューの世界に登場し、
「聴き手主義」の解説で人気を博しました。
その結果、下手な批評家より影響力のある
「大家」になってしまった人です。
前回訪ねたのが、以前東京に住んでいた時ですから、
もう10年以上前のこと。
どんな風になってるかな・・・・
と期待に胸を膨らませて行ってみました。
かなりレトロなビルの2階に上がって入ろうとすると、
ん?ライブが行われているではありませんか!
私が内部の様子をうかがっていると、
スタッフの方が出てきて、こう告げました。
「きょうはジャム・セッションのためいっぱいです。
明日は普通にジャズをかけてますからいらしてください」―
そうかあ、大音響のジャズを客が話もせずに
一心不乱に聴いていた「メグ」の時代は終わったのですね。
寺島さんは批評を始めた当初、ライブに否定的でした。
複製音源であっても、サウンドが完成している
LPやCDを聴けば十分、という立場だったように記憶しています
(思い違いでしたらごめんなさい)。
それが、いつの頃からかライブにのめりこみ、
自らも楽器を演奏するようになったと聞いていました。
店もそんな嗜好に合わせて変わったのですね。
さて、目的の店に入れないなら、どうしよう?
その時、私の目に飛び込んできたのが「隣の店」でした。
「メグ」の看板と対をなすように、「クラシック音楽 BAROQUE」
という看板があったのです。
これって、かつてあった「名曲喫茶」というものかな?
クラシックにはほとんど関心がない私ですが、
その店の古めかしい佇まいが非常に気になり、入ってみました。
いやはや、驚きました。
20席ほどしかない小さなお店。
座席はほとんどがスピーカーの方を向いています。
明らかにおしゃべりをする場ではなく、
「聴く」ための場なのです。
店の一角には、その時かけられているLPレコードの
ジャケットを飾るためのスペースがありました。
音楽の内容こそ違え、かつての「ジャズ喫茶」と
構造がそっくりです。
ただ違うのは、きちんとした店の雰囲気。
店を守っている老婦人はとても上品な方で、
ウェッジウッドのカップに入ったコーヒーにまで
「品の良さ」を感じてしまいました。
私は分からないながらも
ベートーベンの交響曲「田園」を聴き、
「ヨーロッパの田園は緑が濃そうだな・・・・」などと、
まぬけな感想を漏らしたのでした。
ジャズ喫茶同様、激減した「名曲喫茶」に敬意を表し、
今回はクラシックにも造詣が深いミュージシャンを
取り上げましょう。
ピアニストのジョン・ルイス。
モダン・ジャズ・カルテットの活躍で知られる彼は、
バッハの作品集も出したことがあるクラシック通でした。
2001年に80歳で亡くなるまで、ジャズとクラシックの
可能性を追求し続けた人です。
彼の落ち着いたタッチ、普通のジャズ・ピアニストとは異なる
フィーリングを示した作品を聴いてみます。
「ジョン・ルイス・ソロ・ウィズ・ハンク・ジョーンズ」。
タイトル通り、ジョン・ルイスのソロ・ピアノと、
ハンク・ジョーンズ(p)とのデュオが収録されています。
1976年1月27日、東京の郵便貯金会館でのライブ録音。
John Lewis(p)
Hank Jones(p)
①Two Degrees East, Three Degrees West
「2度東 3度西」という邦題で知られる曲。
ルイスのピアノの特徴として、一音一音がクリアなこと、
過剰な音を排して、「間」でスイングすることが挙げられます。
この演奏はまさにこうした特徴が現れたもので、
メロディ部を聴くと「よくこれだけの音数で躍動感が出せるなあ」
と感心します。
ソロに入ってからも、基本ラインは変わらず、
派手さはないのにぐんぐんスイングするピアノに驚きます。
⑤Blues For Milanese
MJQの名作「ジャンゴ」で「ミラノ」というタイトルがついていた曲。
クラシックの上品さと荘厳さの影響を感じさせるメロディです。
クラシックと親和性があるからあえて、なのでしょうか、
ルイスは強いタッチを交えながらメロディを微妙に崩しています。
これによって、ジャズっぽいスリルが生まれます。
ソロに入ると、今度はゆったりとした展開に。
単調とも思えるビートが左手で刻まれ、
右手が優雅なフレーズを奏でます。
ソロの方がクラシックに近いのでは?と思える不思議な展開。
ラストのメロディは再び微妙に崩されます。
クラシックとジャズ的要素が絶妙のバランスで同居しています。
⑦Body And Soul
ハンク・ジョーンズとのデュオ。
私の持っているCDにクレジットがないので
正しいのか自信がありませんが、
最初にメロディを提示するのがジョーンズ、
これを受けて続きのメロディを弾いているのがルイスのようです。
最初のソロはジョーンズ。
彼らしい訥々とした演奏ながら、
端正な「キメ」フレーズがちゃんと出てきます。
相方が刻むゆったりとしたリズムに乗って、
大船に乗っているかのような余裕があります。
これに対し、ルイスのソロは他のトラックより手数が多い。
流れるようなラインをつないでいくという形で、
ジョーンズと上品さでは似ていながら、独自性を提示しています。
途中、お互いにテンポを少し上げて、山場を作るアレンジも見事な
「大人のデュオ」です。
私が訪ねた名曲喫茶「バロック」にいたお客さんは
みな中年以上の男性でした。
読書をする人、目をつぶってただ音楽に耳を傾ける人・・・・
目的はそれぞれなのでしょうが、この場所が
「大人の隠れ家」になっていることが理解できました。
おしゃべりを楽しくできるカフェも良いのですが、
こういう場所が街角のどこかに存在し続けてほしい、
そんな風に思いました。
