星影のステラ(スタンダーズ・ライブ)/    キース・ジャレット・トリオ | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


23日(木)、キース・ジャレット「スタンダーズ・トリオ」の

コンサートに行ってきました。


あいにくの雨でしたが、会場となった

渋谷のオーチャード・ホールは満席。

このトリオが結成されてから27年になりますが、

いまだにその人気が根強いことが分かりました。


開演前、「携帯電話の呼び出し音を鳴らさないように」

という注意がホール側から繰り返されました。

さらに、非常口を示す案内灯が「演出上の理由のため」

消灯されることが告げられると、場内はやや硬い雰囲気に。

こうした緊張を感じさせるところも、「芸術家」キースゆえでしょうか。


私がこのトリオを生で聴くのはたぶん14年ぶりです。

当時住んでいた名古屋での公演に行ってきました。

その時のトリオにはかなりのスピード感があり、

パワーに圧倒された覚えがあります。

さて、今回は・・・・


結論から言うと、演奏はちょっと「大人しくなった」感じがしました。

スピードが全体的に遅めの曲が多く、派手さがありません。

眩いばかりのフレーズが連打される、

かつてのイメージはありませんでした。

調べてみると、キースは65歳、ジャック・ディジョネット(ds)は68歳、

ゲイリー・ピーコック(b)は74歳(!)です。

年齢と活動期間の長さを考えると、パワーで押す演奏から変わったのは

当然のことでしょう。


それにもかかわらず、演奏は充実していました。

特に後半はトリオの一体感が増し、円熟味が感じられたのです。

後半一曲目はMJQの演奏で知られる「ジャンゴ」。

この曲を「スタンダーズ風」に消化するのは難しいだろうなあ・・・

と思っていたら、コード進行はオリジナルとほぼ同じでした。

そこに、キースの波打つようなフレーズが果敢に投じられ、

「こういうやり方があったんだ!」という見事な演奏になっていました。


意欲的な演奏は続き、クリフォード・ブラウン(tp)作曲の

「Sandu」では、激しい「波打ちフレーズ」に抽象性が加わりました。

トリオがまだ新しい可能性を求めていることを教えてくれたのです。


この曲で後半ステージが終わり、アンコールで演奏されたのが

「Too Young To Go Steady」。こちらも意外な演奏でした。

スロー・バラッドとして知られる曲を、

キースはボサノヴァ風にも聴こえるリズムをバックに、

ミドル・テンポで押し切ったのです。

その結果、この曲に新たな活気が生まれ、

まだまだ豊かな解釈の余地があることを示してくれたのです。


家に帰ってから、「スタンダーズ」の過去のアルバムに

「Too Young To Go Steady」がなかったか、探してみました。

すると見つかったのが、「星影のステラ(スタンダーズ・ライブ」です。

1985年7月、パリでのライブ録音。

このトリオ初のライブ盤として発表されました。

恥ずかしながら、どんな「Too Young To Go Steady」だったのか

すっかり忘れていたのですが、いま聴いても新鮮な内容でした。

ご紹介しましょう。


Keith Jarrett(p)

Gary Peacock(b)

Jack DeJohnette(ds)


①Stella By Starlight

このアルバムを紹介する際、表題曲を欠かすことはできません。

それだけインパクトのある演奏です。

まず、イントロのピアノ・ソロ。

これ自体が一つの曲であるかのような完成度を持っています。

ゆっくりと提示される音の一つ一つが美しく、

静かな湖を前に佇んでいるかのような感覚を覚えます。

よく聴くと、「星影のステラ」のメロディに触発されている(?)

ようなフレーズもあるのですが、定かではありません。

美しいソロの展開に、どこに連れて行かれるのだろう?

と思えてきたところで、突如、メロディが現れます。

ここからトリオでの演奏となり、躍動感が増すのですが、

最初の伴奏は非常に控えめ。

曲の美しさを保つためか、禁欲的なのです。

それが、キースのソロがスピードアップする5分過ぎから

急にテンポが上がってきます。

ディジョネットのシンバルが響き、

キースのフレーズが次から次へと湧いてきます。

これを冷静に受け止めて、安定したテンポを紡ぐ

ピーコックも見事です。

後は、美しさとスピードと、空間を駆け回る天衣無縫さがある

キースに耳を傾けるだけ。

これがライブ演奏なのだからすごいことです。


④Too Young To Go Steady

改めて聴いてみると、このトラックも

なかなかユニークな解釈でした。

メロディが非常にストレートに提示されるのですが、

普通のスロー・テンポではないのです。

ディジョネットのドラムが刻むリズムが、

シンバルをうまく使った非常に躍動的なもので、

演奏に次第に勢いがついてきます。

そのため、キースのピアノはどんどんテンションを上げていき、

「きらめきフレーズ」が連打されるのです。

これを聴くと、当時のスタンダーズが

ありきたりの解釈からいかに自由だったかが分かります。

ディジョネットのソロは、普通のジャズ・ドラムを超えた

ドライブ感を示しています。


⑥The Old Country

アルバムの中でもメロディの美しさで忘れることができない曲。

ナット・アダレイの佳曲を表舞台に出した名演として

知られています。

言葉でこの美しさを表現できないので、

ぜひ聴いていただきたいのですが・・・

あえて言うなら、「哀感と美が合体した稀有な演奏」です。

本当に陳腐な表現でごめんなさい・・・


それにしても、キースのような天才が30年近くも

同じメンバーで演奏を続けているというのは驚くべきことです。

彼のことですから、「もう先がない」と思ったら

即刻トリオを解散しているでしょう。


実は、今回のコンサートで、キースは2回アンコールに応えました。

観客からの温かい拍手があったこともあるのでしょうが、

私には「満足できる演奏で終えたい」という

キースの「意地」もあったような気がします。

ラストの「When I Fall In Love」は素晴らしいバラッドでした。

前を向き続ける芸術家の姿勢に唸らされたステージでした。


*追伸

コンサートの連れがいなかった私に、

仕事があったにもかかわらずお付き合いいただいたHさん、

ありがとうございました。

仲介してくれたWさんもありがとう!