アフター・ミッドナイト/ナット・キング・コール | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


このブログの更新、しばらくお休みしていました。

理由はいくつかあるのですが、

「1Q84」もその一つです。


前回、村上春樹さんの長編を読んでいることを書きました。

http://ameblo.jp/slowboat/entry-10640475364.html


仕事で夜中に帰ることもしばしばですが、

少なくても2章は読んでからベッドに入ることにしています。

それだけ、この小説が「惹きつける」力を持っているのです。

こうなると、「夜中ブロガー」としてはなかなかPCに

向かうことができません。

現在、「BOOK3」に入ったところで、

もうしばらくこの状態が続きそうです。


この小説で、大きな役割を果たしているスタンダードがあります。

「It's Only A Paper Moon」-

ビリー・ローズとE.Y.ハーバーグが作詞、

ハロルド・アーレンが作曲したナンバー。

巻頭に歌詞が引用されています。


It's a Barnum and Bailey world,

Just as phony as it can be,

But it wouldn't be make-believe

If you believed in me.


Barnum and Bailey というのは道化師を指しているそうです。

この詩を、村上春樹さんは以下のように訳しています。


ここは見世物の世界

何から何までつくりもの

でも私を信じてくれたなら

すべてが本物になる


小説が進むにつれ、読者はこの歌詞こそが

ストーリー全体を表していることに気がつくことになります。

これから小説を読む方のために詳しくは書きませんが、

登場人物たちは自分が生きている世界に

深い「違和感」を持っています。

時として「見世物の世界」に思える現実。

でも、信じることができる人がいれば、

すべてが「本物」と思え、手ごたえを持って迫ってくる。

小説は複雑な構成から成り立っていますが、

メッセージは「直球」と言えるほどシンプルです。


「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」は巻頭だけでなく、

小説の本文にも登場します。

特定の演奏が示されるわけではありませんが、

私の中ではナット・キング・コールの歌に違いない、

いや、そうあって欲しいという思いがあります。


軽妙で、どこかユーモアがあり、懐かしさを感じさせる歌声。

「きみが僕を信じてくれたら、紙の月も本物になるんだ」ー

こんな夢みたいな歌詞を、

納得させてくれる歌手が他にいるでしょうか。


「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」が収録されている

アルバム「アフター・ミッドナイト」を聴いてみましょう。

コールのピアノとヴォーカルをバックアップするのは

二人のギタリストとドラマー。

ベースではなく、ギターがリズムを刻んでいることで、

全体的に軽やかな雰囲気があります。

これに、ホーンやバイオリンがゲストで加わり、

演奏を楽しいものにしています。


1956年8~9月、ロサンゼルスでの録音。

私が持っているのは90年代に日本で再発されたCDで、

オリジナルにはないボーナス・トラックが5曲入っており、

曲順も変わっています。


Nat King Cole(p,vo)

John Collins(g)

Charlie Harris(g)

Lee Young(ds)

Harry Edison(tp)

Willie Smith(as)

Juan Tizol(vtb)

Stuff Smith(vln)


④It's Only A Paper Moon

ハリー・エディソンのトランペットによるイントロが始まると

いかにも「楽しいことが起こりそう」な気分がしてきます。

そこに入ってくるコールの歌はこれ以上ない、

というほどのバランス。

大げさに歌えばすっかり興ざめの内容を、

非常に軽いノリで、かつ温かく取り上げています。

特に私のお気に入りは

「Without your love・・・・」という部分。

「君の愛がなければ、この世界は酒場での馬鹿騒ぎ・・・」

この歌詞を非常にチャーミングにコールは歌います。

大の大人にチャーミングはないだろう、

と思われるかもしれません。

でも本当ですので、ぜひ聴いてみて下さい。

間奏部分でコールの素朴なピアノと

エディソンのミュートによる掛け合いが楽しめるのも

うれしいです。


このCDを久しぶりに聴き直してみると、

他にもいい曲がありました。


⑫Blame It On My Youth

⑬What Is There To Say(未発表だったんですね!)

⑯When I Grow Too Old To Dream


こうしたスロー・ナンバーでもコールは

「いい味」を出してますねえ。


実は、「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」を聴くのも

数年ぶりでした。

少し驚いたのは、思っていたより

アップ・テンポだったことです。

自分の記憶と「現実」が違っていた時、

小説で描かれている「世界への違和感」と

重なるものを覚えました。


もう1~2章読んでから眠るとしますか・・・・