ニアネス・オブ・ユー/マイケル・ブレッカー | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


昨日、菅改造内閣が発足しました。

けさの朝刊を読むと、前途を危ぶむ記事が目立ちます。

「“脱小沢”で党が亀裂か」とか、

「経済対策はできるのか」など。


一昔前、組閣となるとマスコミが「ご祝儀記事」を

書くことは常識でした。

「スタート時点では内閣を褒めてあげて、後はお手並み拝見」

というわけです。

しかし、内閣がコロコロ変わる事態や、経済が停滞する中で、

「褒めている余裕なんかない」という雰囲気が感じられます。


実際、私も菅総理の指導力には疑問を持っています。

彼が掲げるビジョンがいまひとつ見えないですし、

思いつきでアイディアを言ってみたり、

すぐ引っこめたりということがあるように思えます。


野党時代は舌鋒鋭い人、というイメージがありました。

ひょっとすると「攻めるのはうまいが、リーダーは苦手」

という、野党タイプの人なのかもしれません。

「市民活動出身の総理」としてがんばってほしいのですが・・・・


ジャズでも「リーダーが不向き?」と思える

ミュージシャンがいます。

ジャズ・ファンの間でも意見が分かれるでしょうが、

私は「リーダー向きではない」ミュージシャンの代表に

マイケル・ブレッカー(ts)を挙げます。


ブレッカーは1949年生まれ。

70年代からそのパワフルで現代的な音色が知られ始め、

57歳という若さで亡くなるまで第一線で活躍し続けました。

しかし、リーダー作は意外に少ないのです。

恐らく、その数10枚程度。

名声を得ていた割には、兄のランディ・ブレッカー(tp)との

コ・リーダー作や、サイドマンとしての活動が多かったのです。


その理由はいろいろあるのでしょうが、

私は勝手にこう考えています。

「リーダーとしての役割に負けてしまったからではないのか?」と。

彼の初リーダー作「マイケル・ブレッカー」(1987年)では、

硬さが目立ちます。

自分が中心であるという意識が強いために

「テクニックやパワーの披露」に追われ、

「音楽表現」の手前でつまずいている感じなのです。


これと比べると、彼がサイドマンとして参加した

↓パット・メセニー(g)の「80/81」


ドナルド・フェイゲン(vo,key)の「ナイトフライ」における

↓名曲「マキシン」でのソロなどは名演と言えるでしょう。



ブレッカーはサイドメンとして少し肩の力を抜き、

音楽全体の中で自分の役割を自覚した時に

いいプレイをする人なのです。


そんなブレッカーが残した印象的なリーダー作があります。

「ニアネス・オブ・ユ-~ザ・バラッド・ブック~」です。

アルバム・ライナーによると、彼はバラッドが好きだったとのこと。

しかも、ジョン・コルトレーンの名作「バラッズ」も大好きで、

いつかこうした作品を作ってみたいと願っていたそうです。


「バラッド」というテーマがあり、その中で何ができるか-

ブレッカーのような人は、こうした「枠づけ」があると

力を発揮します。

全体的にこれ見よがしのプレイはなく、

落ち着いて吹いているのが分かります。

パット・メセニー(g)やジャック・ディジョネット(ds)など、

初リーダー作と重なるメンバーも多いのですが、

音楽としてかなりの成熟が感じられます。

「2000年代ジャズ」の一つの成果でしょう。


2000年12月18~20日、NYでの録音。


Michael Brecker(ts)

Pat Metheny(g)

Herbie Hancock(p)

Charlie Haden(b)

Jack DeJohnette(ds)

James Taylor(vo)


②Don't Let Me Be Lonely Tonight

シンガー・ソングライターのジェイムス・テイラーの曲。

テイラー自身がヴォーカルで参加しています。

70年代のテイラーの作品でブレッカーは演奏し、

それ以来の仲だとのこと。

「永遠の青年」とも言えるテイラーの歌声が響き、

バックでブレッカーが控えめなアクセントをつけていきます。

テナー・ソロでは硬質さがありながら、情感を秘めた

音色が素晴らしい。

これこそ「良きブレッカーだ!」と言いたくなります。


③Nascente

ミルトン・ナシメントが演奏したことで、

ブレッカーが興味を持ったという曲。

ブラジル人作曲家の手になるものと思われますが、

非常に美しい、叙情性あふれる曲です。

南国の夕陽を思わせる穏やかなメロディを

ブレッカーは非常にストレートに吹いています。

パット・メセニーがギター・シンセサイザーを使った

ソロをとるあたりから、

曲は一気にミステリアスな色彩を帯びます。

この辺りのスケールの大きさ、広げ方は

プロデューサーとしてのメセニーの影響が大きいでしょう。

ピアノ・ソロに続くブレッカーのソロはパワフルですが、

あの乾いた咆哮はなく、叙情性はちゃんと保たれています。


④Midnight Mood

ジョー・ザビヌル(p)がキャンノンボール・アダレイ(as)の

グループに在籍していた時に書いた曲。

ブレッカーはこのアルバムで、有名ではない佳曲を

いくつか発掘しています。

やや気だるさのあるイントロの後、

ブレッカーがゆっくりとメロディを歌いあげます。

抑制された表現にはコルトレーンの「バラッズ」を

彷彿させるものがあります。

続くハンコックのソロは音数が少ない、

フレーズを一つ一つ「置いている」ような演奏。

彼の音楽性の幅広さが伝わってきます。

ここでブレッカーがソロで登場。

彼は伸びやかなフレーズを生かしたソロで

ピアノと見事なコントラストを作ります。

それぞれの個性がうまくからみあったトラックです。


有能が人が必ずしも能力を発揮できるとは限らない。

それは音楽でも政治でも同じです。

何をするにも「テーマ」「ビジョン」が大切なんですね。

ふらふらと生きている我が身を省みて、

さて自分は何を掲げていくべきか、考えた秋の夜でした。